岡田千夏

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京都府京都市

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  • 白い色鉛筆

     子供に色画用紙を買ってやった。普段、白い紙ではなかなか使うことのない色鉛筆の白で何か書いてごらん、と言うと、子供はしばらく色鉛筆の缶の中をじっと見つめて、白がない、と言った。
     机の下にでも落ちているのじゃないの、と言ってみても、全部そろっていると言い張るから、そんなばかなと思って、前に買い与えておいた12色セットの色鉛筆を調べてみたら、本当に白がなかった。
     白がなくて、代わりに肌色が入っている。
     家の色鉛筆は三菱のだったから、三菱だけがそういう配色なのかと思ったら、そうではなくて、調べてみると、どこのメーカーの色鉛筆も、最近は白の代わりに肌色というのが主流であるらしい。
     確かに私が子供の頃も、12色の中で白は一番使わない色で、白い色鉛筆はいつまでも長いままであった。それに当時の12色の中に肌色は入っていなかったから、人の顔や手を塗るときには、橙色を薄く塗ってみたり、茶色と白を重ねてみたりと苦労したことを覚えている。だから、白の代わりに肌色だったら、子供心に使いやすく感じたことだろうと思う。
     しかし、白、黄色、橙、赤…という色の並びに慣れた身には、やっぱりそこに肌色が混じっていることに違和感がある。それから、そういう見た目だけのことではなくて、白というのは基本の色だし、肌色ならほかの色を混ぜてなんとかそれらしいものを作ることが出来るけれど、12色のほかの色で白を作ることは無理である。だから、やっぱり白が入っていたほうがいいと思うのだけれど。

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  • 抜け毛の春

     抜け毛の季節で、普段みゆちゃんやふくちゃんが寝ているかごの中やキャットタワーのてっぺんの座椅子は毛だらけになっている。もちろん抱っこしてもたくさん毛が付くから、どこかへ出かける前には(とくに黒っぽい色の服だと)、スキンシップはほどほどに気をつけたほうがいい。
     猫たちにしても、毛繕いのたびに口の中へ入る毛が多いようで、胃を刺激する草をほしがるのだが、庭にはまだすっと葉の長いエノコログサは生えていない。ヘビイチゴの丸い葉っぱなんかをふくちゃんが食べようとしていたので、猫草を買って来た。
     奥歯でしゃりしゃりと噛んで食べては、毎度のことながら、やっぱり居間の隅っこで吐き戻す。台所とか廊下とか、床の上でしてくれたら掃除も楽なのに、なぜかきまってじゅうたんの上でする。あとからやって来たふくちゃんも、みゆちゃんの真似をしているのか、そういう習性なのか、ふたりともがじゅうたんで吐くので、ほとほと困っている。

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  • 伯母さんのエコポタージュ

     伯母さんがポタージュスープをくれた。薄い緑色でおいしかったので、何を入れたのか聞いてみたら、玉ねぎと、キャベツの外側の葉っぱとか白菜の芯といったような、普通は捨てるような屑の部分らしい。
     伯母さんは、そういうエコなアイデアの豊富な人で、前にも、大根や人参の皮もきんぴらにして食べたら無駄がなくておいしい(しかも、人参の栄養は皮の部分に多いという話を聞いたことがある)ということも教えてもらった。
    ポタージュにしてしまうと、煮て柔らかくなるし、ミキサーでつぶすから、ちっとも問題ない。ごみも減るし、家計にも優しいし、いいアイデアだと思ったので、さっそく、買って来たカリフラワーの、芯の部分とかちょっと柔らかそうな葉っぱとかを、玉ねぎとジャガイモといっしょにポタージュにしてみた。カリフラワーはキャベツの仲間だから、キャベツのポタージュみたいな味になって、全然野菜の屑だなんてわからない。
    普段は捨てる野菜の部分、ちょっともったいないなあと思ったら、エコポタージュをぜひお試しください。
    <いい加減なレシピ>
    1.野菜を切る。
    2.玉ねぎをバター(あるいはマーガリン)で炒める。しんなりしたら、ほかの野菜を加えて軽く炒める。
    3.ひたひたの水とローリエの葉っぱを入れて、柔らかくなるまで煮る。スープの素も入れる。
    4.ミキサーでつぶす。
    5.牛乳(または豆乳)、お好みで生クリームを加えて、塩コショウで味付け、できあがり。
    (猫ちゃん用には玉ねぎ抜きで♪)

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  • 確定申告へ行った猫

     はじめて確定申告に行ってきました。
     そこで見たものは、猫。
     書類を提出し終わって、自転車置き場から自転車を出していたら、ふとうしろで息子が誰かに手を振っています。見ると、駐車場から出てきた軽バンの見知らぬおじいちゃんおばあちゃんが、窓越しに手を振ってくれていたのでした。
     その助手席のおばあちゃんの膝の上に、私の目は釘付けに。キジトラの猫さんが、おばあちゃんの腕をシートベルト代わりに、賢く座っていたのです。
     車に乗っている犬はよく見かけますが、キャリーバッグなしで猫を見るのは珍しいです。キジトラさんは、いつもおじいちゃんおばあちゃんといっしょに車で出かけるのでしょうか。大人しく膝の上に座ってドライブなんて、うちの猫たちでは考えられないので、羨ましい限りです。
     軽バンが私たちの横を通り過ぎていくわずか数秒のことでしたが、いいものを見られました。確定申告行ってよかったな〜。(お金も返ってくるし。)

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  • ふくちゃん脱走事件

     近ごろ、ふくちゃんは脱走のことばかり考えている。一週間くらい前に、うまく塀を乗り越えて、外へ出ることを知ってしまったのだ。
     家の庭は、周囲をぐるり3メートル近い高さの塀に囲まれているから、その塀を直接越えることはたぶん無理なのだろうけれど、昔、みゆちゃんは、塀の横の庭木に登って、何度も脱走した。試行錯誤の上、木の幹にぼろ傘を取り付けて脱走防止柵にしたらうまくいって、みゆちゃんも今ではあきらめたような、悟ったような顔をしている。しかしそれは表面上でのことで、腹の中では、ぼろ傘にいつか隙間が出来やしないかとじっと観察して狙っている。
     そんなわけで、みゆちゃんの脱出経路だった庭木はもう通れないはずであり、ふくちゃんは別の脱走経路を取った。網戸をよじ登って、屋根の上に飛び移り、そこから塀を越えて行ったのである。
     庭に出ていたはずのふくちゃんがいないので、もしやと思って見たら、塀の向こうに立っている。あわてて梯子を掛けて登ったら、まだよく外の状況がわからなかったのかぼーっとしていたので、そこを捕まえて連れ戻した。これが一回目。
     そしてきょう、二度目の脱走。網戸の上に、脱走防止のためにネットを掛けていたのだけれど、針金のフックでいい加減に雨樋に引っ掛けていただけだったから、数箇所をはずされて突破されてしまった。
     また梯子を駆け上り、名前を呼ぶと、どこかで小さく声がする。隣の駐車場を横切るふくちゃんの黒いしっぽが見えた。
     道に出ると危ないので、あわてて梯子を駆け下りて、玄関から飛び出し、駐車場へ入っていくと、ふくちゃんはびっくりしてまた塀の上に逆戻り。私もまた家の中に飛び込んで、梯子を駆け上って見たが姿が見えない。そうだと思いついてまた梯子を駆け下り、家の中から大好きなネズミのおもちゃと乾しカマを引っつかんで、また梯子を駆け上った。
     塀の上でネズミのおもちゃを揺らして名前を呼ぶと、そこが、みゆちゃんとは違ってシンプルなふくちゃん、ひょこっと丸い目をして屋根の向こうから顔を出し、とことことこちらへやってきた。
     みゆちゃん同様、ふくちゃんも、こちらの手が届く範囲の中へは近寄ってこないと思ったから、私は切り札として梯子の最後の一段を登らずに置いておいた。ふくちゃんが警戒心を解いたところで、最後の一段に足を駆けて、一気に手を伸ばして捕まえるのである。
     チャンスは一度しかない。ふくちゃんが、確実に射程距離内に入ってくるのを待ったが、ネズミのおもちゃに関心は示すものの、じゃれるまでは近寄ってこない。そうこうしているうちに、後ずさりしそうな動きをみせた。
     これ以上は無理だと思って、私は行動に出た。ぱっと手を伸ばしてふくちゃんの首の後ろをきゅっと掴んだ。やっぱり素直なふくちゃん、意外とあっさり捕まえることが出来た。
     脱走防止のネットは、今度は紐でしっかりとくくりつけたから、もうそこから出て行くことは出来ないとは思うけれど、これからしばらく、ふくちゃんと脱走の知恵比べをしなくてはいけないかと思うと、気が重い。

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  • 春めいた庭

     庭に飛んでくるメジロは、すっかりみゆちゃんたち猫二匹を舐めきっている。一応警戒はしているけれど、猫が木の上までは登ってこられないことを知っていて(脱走防止の猫返しを幹につけているから)、みゆちゃんたちが庭にいても、平気な顔して、木の枝に刺してあるみかんやバナナを食べている。いつも二羽でやってきて、仲がよさそうに見えて、その実、バナナを取り合ってけんかをしている。
     メジロにそのような馬鹿にした態度を取られて、猫はどうしているかというと、木の下で、二匹、片付かない顔をして並んでいる。
     ときどき、木陰に隠れてじっと鳥を見つめていたり、にゃにゃ、と呼びかけてみたりしているけれど、猫のほうでも、もう手は届かないとあきらめているらしい。頭上でメジロがちょんちょんみかんをついばんでいても、みゆちゃんは目をつぶって、日向で気持ちよさそうに手足を伸ばしているし、ふくちゃんは全然別の方向をみて、鳥の陰だか何かの虫だかを追いかけている。
     庭は春めいて、日当たりが悪いながらも日照時間はずいぶん長くなった。狭くて殺風景な庭だけれど、そこに猫がごろごろしているだけで、和やかな空気が温まっている。

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