岡田千夏

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京都府京都市

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  • おんぶ猫

     近ごろ、朝起きて顔を洗っていると、ふくちゃんがごろごろ言いながらとことことやってきて、洗面台の上からぴょんと私の背中へ飛びうつる。背中の上でもごろごろ言い続けてうろうろしているが、そのうちうずくまって目をつぶったりしている。こちらは、もう顔を洗い終わって上体を起こしたいのを、ふくちゃんのために我慢しながら、しんどい姿勢で手を伸ばしてタオルを取ったり、身をかがめたまま歩いたりする。ふくちゃんの足の裏が背中に暖かく感じる。
     朝起きたときとか、外出から帰ってきたときとか、とくにふくちゃんは嬉しそうにごろごろと私の回りにやって来る。背中にまでは乗らなかったけれど、みゆちゃんもふくちゃんが家に来るまでは、同じようにごろごろ言って喜んでくれたけれど、ふくちゃんが来てからというもの、どういうわけか、やけにあっさりしていてつれない。

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  • 猫のおっちょこちょい

     ユーチューブの「おもしろネコ映像」、みたいな動画を見ると、ソファから落っこちたり、テーブルの上を滑ったりするどじな猫の映像がよく現れるけど、そんな失敗をする猫がいるのかと思っていたら、ふくちゃんがそうだった。
     猫タワーに飛びつこうとして、失敗して落ちるのはしょっちゅう、テーブルの上に飛び乗って、ちょうど踏んづけた新聞紙といっしょに滑って落ちる。自分が落ちるだけじゃなくて、歩くときも不注意だから、机の上や棚の上にあるものを蹴飛ばして落っことす。
     要領も悪くて、人が歩く足の回りにまとわりついては、ちょうど出す方の足の前に来て蹴られることもたびたび、これは、去年死んだちゃぷりも一緒だったけれど、それで蹴られたことを真に受けていじけてしまうちゃぷりとは違い、ふくちゃんのいいところは持ち前の明るさである。蹴られようが、気にする様子もなく、平気な顔をしてごろごろと懲りずについてくる。おっちょこちょいなところがまた、ふくちゃんの魅力のひとつになっている。
     実家でそのようなことを話していたら、意外なことに、運動神経抜群のちゃめが、実は同じようによく物を落としたり、失敗したりするらしい。今まで知らなかったのは、ちゃめびいきの父が、自ら進んでそういうちゃめの欠点(というほどのことでもないけれど)を口にしなかったためだと思われる。

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  • 金魚の災難

     金魚の体に数箇所、おできのようなものが出来ているのを見つけたから、塩水浴をさせることにした。それで、一緒に入れていた水草を別の容器に移したから、金魚の姿が丸見えになってしまったらしい。それまでほとんど金魚に注意を払っていなかったふくちゃんが、毎日のように水槽の前に座り込むようになった。
     猫はからだが水に濡れるのを嫌がるとされるけど、遊びとなると話は別らしい。以前みゆちゃんが水を張ったバケツの中にわざとおもちゃを放り込んで、手でかき回して遊んでいたように、ふくちゃんもこの寒い中、金魚の水がめに、ひどいときには二の腕まで濡らして手を突っ込んで遊んでいた。
     その濡れた前足のまま家の中へ駆け込んでくるから、床の上で足を滑らせたりする。濡れた床を雑巾で拭いていたら、今度はその雑巾に飛びついてきた。
     ふくちゃんが水槽に手を突っ込んでいても、まさか金魚に届きはしないだろうとたかをくくっていたのだけれど、あるとき、水の中をのぞいたら、金魚の体が傷だらけになっていて、背びれが破れ、金色の鱗が、何枚も水の底に沈んでいるのが見えた。明らかに、ふくちゃんによるものであるようだった。
     よく引き揚げられなかったものだと思う。傷も致命的なものではなかったようでよかったが、金魚には本当にすまないことをした。毎回、ふくちゃんが水面に顔を覗かせるたびに、恐怖だったに違いない。
     水底に散らばった、美しい鱗がぼんやりと金色に光っているのが、痛々しかった。
     あわてて金網を買ってきて、金魚の水槽にふたをした。ふくちゃんは、しばらくのあいだその上でうろうろして、金網の向こうの金魚ににゃあとか何とか言っていたが、そのうち、もう手が届かないとわかってあきらめたようだった。

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  • 晴天の傘

     子供は雨具が大好きです。雨じゃなくてもいつも長靴。このあいだは、とうとう、青空なのに傘を差して買い物に出かけました。新しく買ってもらった傘を差してみたいのに、本当に必要な雨の日には、まだ片手で傘を支えることができず濡れてしまうので、支障のない晴れの日に差して行くのです。
     行きはようよう、得意げに傘を掲げて跳ねるように歩いていきましたが、帰り道にはその元気もどこへやら、閉じた傘が長くて扱いにくそうな様子。でも、最後まで自分で持つことを条件に晴天の傘を許可してもらっているので、持って欲しいとは言い出せません。
     復路を半分ほど来たところで、こちらから持ってあげようかと聞いてあげると、ちょっときまり悪そうに、うん、と傘を差し出しました。

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  • 京都、雪の花背

     土曜日はこの冬一番の寒さだったそうで、外へ出るとよく晴れた青空に粉雪が舞っていたから、山ではどうなっているかしらと思って、鞍馬の奥の花背のほうへ行ってみた。
     お正月の明けたあたりにも一度みぞれが降ったような日があって、そのときも山では雪景色が見られるかと思って大原へ行ってみたが、家の軒下や日の当たらない北側の屋根、河原の石の陰や稲わらの束ねられた田んぼのところどころに白く残っているだけで、期待していたような雪は見られなかった。
     だから、今回も同じような様子だろうと思っていたし、実際、鞍馬の集落のあたりでは、山の陰になったところに薄く積もっているだけだった。
     集落の一番奥にあるくらま温泉を過ぎた途端、まっすぐに伸びた杉林が両側に迫ってきて、道が暗くなった。木立のあいだや落ち葉や羊歯の上にうっすらと積もっていた雪が、道を行くにつれ次第に厚くなって、しまいには車道の上まで、日の当たらないところには雪が残るようになって、タイヤが滑らないかひやひやした。あたりはすっかり雪景色になっていた。
     峠の気温はマイナス4度。車から降りて、雪に覆われた脇道を歩いて行った。
     新しく雪が降り積もったところは柔らかくて、踏んだらきゅうきゅう音がする。日陰の、杉の葉といっしょに凍りついた雪の上は、歩くとぱりぱり言った。
     晴れた空からちらほらと粉雪が降ってくる。それが杉林の中では、梢を通り抜けたわずかな雪片だけが、まっすぐな幹のあいだをふわふわと静かに飛んでいた。
     キツネかタヌキか、動物の足跡が雪の上についていた。人と一緒にやってきた犬がはしゃいだ足跡をあちこちにつけるのとは違って、山の動物の足跡は、谷の方からやって来て道を横切り、どこへ向うのか、まっすぐに静かについていた。静かな雪の中を、静かに歩いていくけものの姿が想像されるようだった。
     十分に雪道を楽しんで、車に戻ったら、いつのまにか空は灰色になっていて、雪が一斉に舞い降りてきた。

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  • やきもち猫

     近ごろ、ふくちゃんがよく膝の上に乗ってくるようになった。もともとの甘えん坊に加えて、寒いからかもしれない。ごろごろ言いながら、人のお腹にもたれるように丸くなって、目をつぶっている。うちでは、膝に猫を乗せている人は動かなくてもよいというルールがあるので(今朝私が制定した)、ふくちゃんが膝にいるときには、あれ取って、これ向こうへやってと、他の人に頼むことができる。
     甘えん坊のふくちゃんは可愛いが、しかし手放しで可愛がることはできない。抱っこしたり撫でたりするときにはいつも気になるものがある。みゆちゃんの視線である。
     犬は嫉妬するが猫は嫉妬しない、ということが言われるけれど、猫だって嫉妬する。とくにみゆちゃんはやきもちやきである。ふくちゃんを抱っこしていて、ふと後ろを振り返ると、猫タワーの上から、あるいはかごの中から、みゆちゃんがこっちをじっと見ている、ということがざらにある。丸くなって顔をうずめたままこっちを見ていないときもあるけれど、片方の耳だけはちゃんとこちらの様子を探っているから、気を使う。気を使うけど、みゆちゃんだって最高に可愛いので仕方がない。あとでご機嫌お伺いに行く。
     そのみゆちゃんも、ちょうどいまのふくちゃんと同じ頃は、よく膝の上でごろごろ言っていた。それが、その年の冬が終わって暖かくなるにつれだんだん膝に来なくなって、もういまでは、季節に関係なく自分から膝の上に乗ることはなくなった。
     ふくちゃんも、暖かくなれば、膝から遠のいてしまうだろうか。

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  • ふくちゃん名札

     幼稚園の園章と名札をつけるワッペンというかバッジというか、そういうものを見よう見まねで作ってみた。絶対必要なものではないのだけれど、二つのバッジを毎日つけなくても済むので便利だと思って。
     で、デザインはふくちゃん。これは息子のリクエストで、大好きな車や電車じゃなくてもいいのって何回も確認したのだけれど、ふくちゃんがいいというので、気が変わらないうちに作っちゃった。
     縫い目とかそろってないけれど、初めて作ったわりにはなかなかうまくできたよな〜とちょっと自己満足…

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  • 陥没型猫ベッド

     猫はお気に入りの寝場所がよく変わる。年の暮れに、みゆちゃんが落ち着いて眠れるように用意したキューブ型の猫ベッドは、しばらくのあいだ本当に心地よさそうな様子で使っていたにもかかわらず、二週間ほどすると、ちっとも中で眠らなくなってしまった。あるとき、キューブハウスの屋根にそーっと前足を乗せたみゆちゃんが、そのまま体重をかけたので、当然屋根はぼこっと陥没した。その陥没したところで寝るようになった。そしていまは、その前に使っていたかごの中がお気に入りで、屋根がへこんでラウンド型のベッドみたいになってしまったキューブハウスの上では、ふくちゃんが眠っている。
     みゆちゃんは、前々から猫ハウスの屋根、というところが好きである。みゆちゃんが家に来て、最初に段ボールで作った猫ハウスも屋根に乗って、どんどん陥没していって、やがて屋根が抜けた。次に買ったちぐら型の猫ベッドも、しばらくは中で眠ったものの、やっぱりそのうち上に登って屋根をへこませて寝るようになった。
     わざわざ寒くないようにと思ってキューブ型のベッドを買ったのに、上で眠ったのでは意味がない。猫たちがいないあいだに、ベッドの形を整えてもとのキューブ型に戻すのだけれど、寒いときでも中に入らず、やっぱり屋根をつぶして、二匹でくっついて眠っている。そのうちこちらも面倒くさくなってそのままにしておいたら、すっかりひしゃげてしまって、もうもとの立方体に戻らなくなってしまった。

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  • お猫サマも紙がお好き?

     小学生のときに家で飼っていたセキセイインコは、よく紙をかじった。机の上に置いておいたメモ書きの紙とか、チラシとか、段ボール箱のへりとか、そのあたりにある紙は、ことごとくかじられて縁がぎざぎざになっていた。大人しいと思ったら、熱心に作業に取り掛かっていて、インコの周りにはかじり取られた小さな紙くずがいっぱい積もる。それが、何かに驚いて鳥が飛び立った拍子に、翼が起こした風でばらばらに散らかってしまうのだった。
     そういった紙切れは、もうほとんどが捨てられて残っていないのだけど、たまに、納屋から出してきた昔の本のページの端っこや(読みかけて開けたまま机の上に置いておいたりすると、やられるのである)、古い楽譜の帯がぎざぎざになっていたりするのを見つけると、その鳥のいろいろなことが思い出されて懐かしくなる。もう20年以上も前に死んだ鳥のくちばしのあとがいまもこうやって残っている。
     友達が飼っているオカメインコも紙をかじるそうで、ああいうくちばしの曲がったインコやオウムの種類は、紙をかじるのが好きであるらしい。えさになる実のたねを入れた紙箱の口をわざと小さくして、鳥が自分で紙をかじって開けて、中の種を食べられるようにしたおやつ兼おもちゃという商品まである。
     ふくちゃんは猫なのに、ときどき紙をかじる。机の上に置いておいた読み掛けのねこ新聞は端っこが破れてしまったし、手に持っていたトランプの札にじゃれつくから、スペードのエースには小さな穴が開いてしまった。

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  • 交番猫

     日曜日の消防隊出初式にひきつづき、13日には、今度は警察のパレードを見に行ってきた。パトカーや特殊車両のほか、平安騎馬隊や警察犬もパレードに参加している。
     賢い警察犬はいるけれど、当然のことながら、警察猫というのはいない。警察猫はいないけれど、猫の特性を生かして、警察犬とはまた違った仕事をする交番猫というのは作れないか知らん(別に無理に作ることはないけれど)。
     地域の各交番に一匹(もしくは複数匹)交番猫を配備する。交番猫のお仕事は、
    一、交番の雰囲気を和やかにする(猫が嫌いな人にとっては逆効果)
    一、寒い日には、交番勤務のおまわりさんのカイロとなる
    一、ネズミがいれば捕まえる(おまわりさんのお弁当からおかずの魚を取ってはいけません)
    などなど。
     やっぱり無理か。

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