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2016/02/27
あんな人に
あんな事する人に
何を言っても無駄なのだ。
出生しゅっしょうが悲惨だったのか
育った環境が悪かったのか
そんなの 知らないし
興味もないが
たとえそうであるにせよ
それとこれとは 別問題。
まったく聞く耳持たず
そこから一歩も出ようとせず
いつまでも ただ
根拠なき思い込みにすがるばかりの
あんな人に
あんな手遅れの人に
あんな救いようのない人に
今さら 何を言っても無駄なのだ。
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2016/02/26
彼女は美しき人妻。
笑顔が素敵。
ただし、病弱。
強い刺激にめまいする。
直射日光は天敵で
外出なんぞ、もってのほか。
帽子かぶって、サングラスして
日傘さしても耐えられない。
日がな一日、家の中。
それでも不安はつきなくて。
料理は危険、火に刃物。
掃除もあぶない、立ちくらみ。
洗濯機にさえ目がまわり
ふとんかぶって寝てばかり。
住み込みメイドや使用人
とっかえひっかえ雇っては
とっかえひっかえ駄々をこね
あれやこれやの無理難題。
なのに彼女の旦那さん
ごく普通の会社員。
とっても気弱でやさしくて
文句も言わずに働くの。
バイトしたり、内職したり
夫人を愛でる暇もなし。
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2016/02/25
昼間そこは空地なのだが
夜になると古めかしい洋館が建っている。
「なるほど、幽霊屋敷か」
私は感心しながら
玄関扉のノッカーを叩く。
しばらくすると扉が開き
執事らしき暗い顔の男が現れる。
「ようこそ、いらっしゃいませ」
私はホッとする。
どうやら歓迎されているらしい。
そのまま彼に案内され
私は奥の広間まで通される。
大勢の老若男女が集まっている。
パーティであろうか。
笑い声や話し声が聞こえる。
「やれやれ。
またひとり、幽霊がやって来たよ」
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2016/02/24
雨音は 拍手に似ている。
または その逆か。
しめやかな雨も
雷ともなう 激しい雨も
どちらも それなり
よいものだ。
ひさしの下で 聞くにせよ
コンサートホール または
子宮の中 羊水に漂い 聞くにせよ
あの全空間に意識が満たされる感覚は
思わず拍手したくなるほどに
なかなか どうして
よいものだ。
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2016/02/23
目覚めたのちに思い出している。
僕はクサノコ採りをしていたのだ、と。
遠征から帰ってみると、車道は渋滞していた。
クルマを追い越しながら縫うように歩いて進む。
ゴルフ場を連想させるエリアに戻れば
誰もかれもがクサノコ採りに余念がない。
クサノコは吹き出物のように草地に生える突起物。
小さいが食べられ、味も悪くない。
まるで小さいキノコみたいだから
草の子ども、クサノコと呼んでいる。
ここはホームグラウンドのような場所なので
知人友人たちに会釈しながら奥へと進む。
途中、びっくりするほどの美女が親しげに寄ってきた。
思い出せないが、どうやら幼馴染おさななじみであるらしい。
はた目に羨ましがられそうだな、などと思いながら
一緒に並んで談笑しながらしばらく歩く。
彼女は用あって図書館のような建物の中に入り
僕は待つ間、そこの庭の祭壇みたいな草地に寝転ぶ。
そして、ちょっとだけ眠ったのだ。
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2016/02/22
今は昔、東北のさる城下町。
夜中に若い女が行方知れずになる
または惨殺されるという事件が相次いだ。
さらに事件前後、馬のいななきが聞こえた
あるいは馬の首が火の玉のように闇夜を走り抜けた
などと言う多数の目撃談が番所に寄せられた。
ある夜、腕に覚えある武士が役職で夜回りをしていると
はたして闇の向こうから赤黒い馬の首が駆けてくる。
すれ違いざま、あっぱれ武士が袈裟斬りすれば
馬の首は折れるように消え、同時に遠く絶叫が響いた。
以来、忌まわしき事件は途絶えた。
真相はついに究明されることなく
月日とともにうやむやになってしまったが
同夜同刻、さる高名なる儒学者がひとり
自宅の寝所で股間を血塗れにして転げまわっていた
と、しばし噂になった。
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2016/02/21
堪えがたい臭気を焦がすかのように
太いロウソクが灯っている。
闇に浮かぶ一頭の牛の横顔が眼前に見える。
どうやらここは夜の牛小屋。
あなたは日本刀を振りかざしている。
古風な野武士のような姿である。
あなたは目の前の牛の首を斬り落とすつもりでいる。
あなたにとって愛着のある大切な牛。
それが浮世の義理かなんであるか定かでないが
あなたはそうしなければならない立場に陥っている。
しかし、さすがに忍びない。
あなたは牛の気持ちがよくわかる。
ほとんど牛そのものになれるような気さえする。
角あり蹄ひずめあり、尻尾振り振り繰り返すは反芻はんすうの日々。
されるがままに引いて押して眠って起きて。
ふと見やれば、見慣れた男が光る細長きものを振り下ろす。
うなじに鋭き痛みが落ちる。
続いて顔面に地面の当たる感触。
転がったのちに見上げれば、呆然とした男の暗い顔。
その表情は、あの愚鈍な牛に似てはいないか。
それに気づくか気づかぬうち
あなたの左右離れた両目に、漆黒の闇が訪れる。
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2016/02/20
実家に入り、母に言う。
「お隣のニワトリ、うるさいね」
すると、母は言い返す。
「あれはゴエンドンさんとこのニワトリだよ」
屋号で言われてもよくわからない。
だが、お隣の屋号でないことだけはわかる。
「違うんじゃないかな」
「おまえ、あれがゴエンドンさんのとこなのか
タケゾウさんのとこなのか、確認してくれないかね」
「そんなの自分で確認すればいいだろ」
私にとってどうでもいいことだし、それに
母は白内障の手術をしてから私より目がいいのだ。
もうなんだかむしゃくしゃしてしまって
これ以上は母との会話を続ける気になれない。
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2016/02/19
水の入ったバケツを兄の家に届けて帰ると
家には父が帰宅していた。
「風呂に入りたいな」
独り言のように父がつぶやく。
あなたの望みは叶えてやりたいが、あいにく
バケツ一杯の水がなければ風呂に入ることはできない。
「わかりました。すぐ戻ります」
そう言い残し、急いで兄の家に引き返す。
ところが、着いたところは兄の家ではなく
ガラス張りの白っぽいビル。
ガラスのドアを引き戸式に開け
最上階にあるオフィスに侵入する。
休日なのか誰もいない。
バケツが見当たらないので出ようとすると
ガラスの入り口から放し飼いの黒ウサギが侵入している。
このままドアを閉めてしまったら
無人のオフィスの中で飢え死にするだろう。
持ち上げて通路に出てからドアを閉め、鍵をかける。
黒ウサギとは別に灰色ウサギが一羽、通路にいて
開いた引き戸にあやうく挟まるところだった。
こちらを不思議そうな表情で見上げる。
いけないことかもしれないが
持ち帰るつもりで灰色ウサギを抱き上げる。
さて帰ろうとすると
二人の掃除婦がお喋りしながら階段を下りるところ。
彼らをやり過ごしてからビルを出よう。
しかし、よくよく考えてみると
掃除婦ならバケツの一つぐらい持っていたかもしれない。
手持ちぶさたに視線を下せば
じっとこちらを見上げる灰色ウサギ。
いかにも問い質したそうな
そのつぶらな瞳。
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2016/02/18
「クルマは便利だ」などと言うが、迷信だと思う。
免許証と駐車場は必要だし、ガソリン代もかかり
手続きやメンテナンスも手間。
また、たとえクルマAの乗員が便利だと感じても
歩行者やクルマBの乗員にとってAの存在は
邪魔で危険で迷惑でしかない。
クルマを使う以上、車道の建設や整備、法規制による管理も必要。
個人の大いなるプラスが他人のわずかなマイナスになるだけ
としても、わずかなりとも負の要素が集まれば大いなる負となり
交通渋滞、事故多発、騒音公害、大気汚染を招く。
ケータイだって、そう。
便利なだけではない。
ケータイあるゆえに、ケータイを持ち歩かねばならず
充電せねばならず、着信を確認せねばならず、連絡せねばならず
そのようなケータイのシステムに囚われて生活せねばならない。
機種更新の対応、基地局の確保など
システム全体の整備も大変なはず。
また、ケータイを使うことで恩恵を受けるとしても
ケータイを使わないことで受けたかもしれない恩恵は失われる。
たまに電車に乗ると
ケータイを見つめる自閉症患者ばかりで不安になるが
不便なクルマやケータイを便利または必要と感じる状況が
すでに問題ではなかろうか。
パソコン、インターネットも然り。
それがなければできないことが
それがあることによってできるとしても
それがなくてもできるはずのことが
それがあることによってできなくなってはいまいか。
・・・・とまあ、そういうわけなので
これら文明の利器なるものを使用する理由は
決して「便利で簡単だから」などではなく
「不便でも面白いから」「面倒でもできるから」
などと言うべきではなかろうか。
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