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  • 聞き違い

    2015/11/17

    変な話

    不思議な現象があるものだ。

    僕が「好き」と言うと 
    君には「きらい」と聞こえるらしい。

    調べてみたら、なるほど 
    そういう聞き違いやすい発音があるのだそうだ。

    たとえば、「トッタノカヨ」が「デーアイアイ」に
    ある割合で聞こえるという。

    または、犬の鳴き声「ワンワン」が 

    外国では「バウワウ」になったり。

     

    しかし、「好き」と「きらい」はないだろう。
    音数だって明らかに違う。

    試しに「きらい」と僕が言ってみたら 
    そのまま「きらい」に聞こえると君は言う。

    なんだそれは。
    きらわれているだけか。

     

     

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  • 黒いバス

    2015/11/15

    変な話

     これが夢なのか実体験なのか、不明。
     ただ、私のもっとも古い記憶のようなのだ。 


    まだ赤ん坊の私が這いながら 
    積み上げられた俵の小山を登っている。

    実家の前から続く細い坂道を下って 
    大きな道にぶつかる丁字路のところ。

    前方から黒い小さなバスが現れ 
    こちらに向かってだんだん大きくなる。

    やがてバスは俵のすぐ脇をかすめ 
    そのまま走り過ぎてゆく。


     それだけ。
     赤ん坊の私は泣きもしない。

     

     

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  • 墓は建てるな

    2015/11/14

    論 説

    お盆になる。
    帰省せにゃならぬ。

    先祖の墓がある。
    墓参りせにゃならぬ。

    横断歩道があるから 
    そこを渡らねばならぬ、みたいに。


    たとえ車道にクルマの影も形も見えずとも
    横断歩道と信号機あらば 

    世間の目が気になって
    信号を無視してまで渡りにくい。


    世間の目なんぞ気にせにゃ良さそなもんだが 
    この閉ざされた島国では気にせぬわけにもいかぬ。

    たとえ良い子のお遊戯とわかっていても 
    おのが善良で誠実であることを示し続けねばならぬ。

    世間の態度とかムードとか付き合いとか 
    あとあと響いてきて居たたまれなくなる 

    と、直感してしまうからだ。


    だから、言いたい。
    「これ見よがしな信号機や墓は建てるな」と。

    しかし、それすら咎とがめられるのだ。
    おのが善良さと誠実さとを世間に示したいがため。


    外国との戦争、もし再び起こらば 
    やはりまた同様な結果になるのではなかろうか。

     

     

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  • けもの道

    2015/11/13

    切ない話

    けもの道に迷ったあげく 
    青年はけものになってしまった。 

    爪を立て、牙をむき、血に飢えた眼。 
    笑顔を忘れ、優しさは微塵もない。

     

    青年には恋人がいたが 

    彼女が手紙を出しても返信はない。

    消息の途絶えた青年を探して 
    やがて彼女もけもの道に分け入った。 

    しかし、彼女はけものにならなかった。 
    けものに食べられてしまったから。 

    その食べたけものが 
    あるいは青年だったかもしれない。 


    一枚の白い便箋が落ちて 
    死んだ魚のように谷川を流れてゆく。 

    すでにインクの文字は消えかけている。 

    けものになってしまったら、どうせ 

    もう人の言葉は読めないはずではあるけれど。

     

     

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  • ゲレンデ

    いつの間にかスキー靴とスキーを履いて 
    真っ白なゲレンデの上に立っている。 

    さきほどまで資産家の青年と列車に乗っていたはずだが 
    その高校の同級生でもあったらしき彼の姿はない。 

    先に滑り降りていったのかもしれない。
    だとすれば、いかにも彼らしい。

    追いかけるように雪の斜面を滑降し始めたものの 
    しかし、もう彼のことはすっかり忘れている。 

    スキーに乗って風と雪を切るのが 
    こんなに楽しいのは、いったいどういうわけだろう。 

    ゲレンデは快適の現場だな、などと思う。

    「ねえ、一緒に滑らない?」
    故郷の幼なじみの女の子の声。

    彼女がゴーグルを持ち上げる。
    その笑顔がまぶしい。 

    女の子がスキー場でスキーウェアを着るとなぜか 
    いつもの二倍ほどきれいに見える。 

    「もう一緒に滑っているじゃないか」
    「えっ、そうだっけ?」

    ふたり、スキーの板を並べて滑っている。 
    ほほえましいシュプールが雪面に残るだろう。

    このまま下まで降りてゆくつもり。

     

     

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  • 銀行強盗

    2015/11/11

    ひどい話

     殺風景なビルの一室。 


    若い男女二人組の強盗が 
    バッグを放り投げて目配せする。 

    女は拳銃を持っている。 

    手をあげろ、とは言わない。
    きっと面倒臭いのだろう。 


    缶詰の詰まったバッグを抱え 
    二人組は盗難車に乗り込む。 

    遠くまで逃げるのだ。 

    どうせ追って来ないだろうが 
    用心に越したことはない。 

    警察はいないとしても 
    飢えた奴らは多いからな。 


     銀行が保存食料品の
     預かり所になって久しい。

     

     

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  • 分別ある分別を

    2015/11/10

    論 説

    人間は同質でもなければ平等でもない。
    だから、関係する相手を分類せにゃならぬ。

    実際、それぞれ人は、それぞれの経験や心情により 
    それぞれの基準で相手を区別しているはず。

    好きな人がいて嫌いな人がいる。
    役立つ人がいて迷惑な人がいる。

    老若男女、貧富の差、貢献度。
    会社組織には上司がいて部下がいる。

    それらは便宜上の役割り分担かもしれないが 
    むしろ思考停止の平等主義こそ便宜的と言える。

    分類基準を波風立てずに統一できないため 
    とりあえず無難な無策対応をしているだけ。


    ゴミの分別もできない無分別な人は 
    勝手に処分できないだけにゴミより始末に困る。

    共同ゴミ置き場のゴミの出し方を見て 
    そんなことを思った。

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  • 海へ行こう

    ふと思い出した。 

    (そうだ、忘れていた。 
     夏になったら海へ行くのだった) 

    趣味のスライドショー動画制作のため 
    海の風景写真を撮りに行くと 

    もう冬のうちから決めていたのだ。 

    これまで川や池の画像で誤魔化していたが 
    どうにも我慢ならないものがあった。 

    その動画のやがて原作となるであろう話を 
    ブログに投稿してから出かけたかったが 

    ちっとも浮かばないので諦めた。
     
    とにかく海へ行こう。 
    投稿なんぞ帰ってからだ。 

    それで県内の地図帳とデジカメ持って 
    昼になる前に出かけたのだった。 

    サングラスと帽子とデイパック。

    これにニッカポッカとTシャツなら 
    普段の買い物と同じ格好。 

    今回はTシャツの代わりに 
    網目生地の黒いノースリーブで決める。 

    ただし、実際に決まったかどうかは知らない。
    とにかく、蒸し暑いのはきらいだ。 

    スイカで最寄駅の自動改札を通り抜け、
    いくつか電車を乗り換え、約1時間半。

    下車駅から歩いて30分ほどの海岸に到着。 

    九十九里浜の端っこの砂浜。 
    一般の海水浴客は少なく、むしろサーファーの方が多い。  

    夏休みに入ったものの平日なので 
    華やかな水着姿を撮る楽しみは期待できない。

    しかし、海を撮るには好都合。

    太平洋は20年ぶりだろうか。
    実家のある日本海も10年以上見ていない。

    波の迫力、さすが海である。 
    池や川の波が下手な特撮に見える。 

    ここにも例の津波の被害はあったはずだが 
    あまり具体的に感じられなかった。 

    しかし、海岸の浸食により多くの海水浴場が閉鎖になった
    というニュースを帰宅してから、たった今見つけた。

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  • 交差点の女

    2015/11/08

    怖い話

    人混みを縫うように歩き続けていた。
    ここがどこらへんなのか判然としない。

    交差点で信号灯の色が変わるのを待つ。

    横断歩道の向こう側の女と視線が合った。
    見知らぬ美しき他人であった。

    大切な瞬間が訪れたような気がした。
    このまま別れたら必ず後悔する。

    しかし、話しかける勇気も自信もない。
    悩んだ末、女を尾行することにした。

    気づかれてもいい、と思った。
    話しかけるきっかけになるだろう。

    横断歩道を渡ってから何か思い出したような 
    そんな素振りで女の背後にまわる。

    夕暮れが迫っていた。

    女は人通りの少ない路地裏に入って行く。
    うるさいほどにハイヒールの靴音が響く。

    ふと、反射音で周囲の位置を探るという 
    コウモリの習性を思い出す。

    たとえそうだとしても、靴音をよける術すべはない。

    だんだん辺りが暗くなる。
    街灯ひとつなく、窓明かりすらない。

    ハイヒールの靴音だけが頼り。

    しかし、それが靴音などではなく 
    獣けものが噛み合わせる牙きばの音に聞こえ始める。
     
    ひどく生臭い、いやなにおいがした。

     

     

     

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  • 見つからない

    2015/11/07

    変な話

    突然の夕立ちで町が流されたみたいになった。

    ダンス発表会なるもの見物のため、傘さして家を出たが 
    道路が川みたいになり、途中で断念。

    全身びしょ濡れになって帰宅した。
    すぐに裸になってシャワーを浴びる。

    キッチンペーパーで拭いたり、丸めて中に入れたりして 
    溺れた靴の脱水を試みる。

    財布など、デイパックの中身も濡れてしまったので 
    部屋のあちらこちらに広げて置いて干す。

    翌日、なんとか乾いたようなので片づけ始めたが 
    なぜかデジカメの予備バッテリーがケースごと見つからない。

    変なところに置いたはずはないのだが 
    心当たりをいくら捜しても見つからない。

    やれやれ。

    デジカメ越しでなければ舞台が見えなかったり 
    ほんのちょっと前にしたことの印象が残らなかったり 

    そろそろ予備の寿命も消えそうだ。

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