桃色の温泉
2012/11/20
どうやら温泉のようである。
あたりは桃色の湯煙に包まれている。
脱いだ記憶はないが裸であった。
水音のする方向へ進んでゆく。
慎重に歩かなければならなかった。
足もとがヌルヌルしているので滑りやすいのだ。
やがて桃色の川が見えてきた。
川面には船が浮かんでいる。
温泉に浮かぶ船なら湯船に違いない。
その湯船に誰かが乗っていた。
湯浴みする後ろ姿がぼんやりと見える。
長い黒髪と白い肌が妙になまめかしい。
湯船はこちらに向かって流れてくる。
船頭もいないのに不思議なこと。
「一緒に乗ってくださいますか」
なつかしい女の声であった。
昔、どこかで聞いたような、聞かないような。
「からだが冷えてしまいますよ」
あいかわらず湯船の女は後ろ姿のまま。
その顔を見たいような、見たくないような。
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