ここは厳しき法廷。
傍聴席は牛や馬で満員。
中央の裁判長席には赤鼻の猿。
柵に囲まれた陪審員席には羊の群。
証言台に立つのは学生服を着た少年。
床には手足を縛られた少女が倒れている。
「被告は、いわゆる美少女です」
狐の検察官が発言する。
「それがどうかしましたか」
猿の裁判官が口をはさむ。
「いいえ。なんの意味もありません」
傍聴席でのんびり牛が鳴く。
「原告の少年は、いわゆる美少年です」
「それがどうかしましたか」
「はい。特別な意味があるのです」
けたたましく馬がいななく。
「じつは被告、美少年が好きなのです」
「なるほど、じつは私も好きです」
「裁判長、私情をはさまないでください」
一匹の羊が陪審員席の柵を跳び越す。
羊は法廷を一周してから退廷する。
兎の弁護人がつぶやく。
「羊が一匹」
狐の検察官が原告の少年に質問する。
「学生服にはポケットがありますね」
「はい。あります」
「全部でいくつありますか」
「ええと、七つです」
「襲われたのは、どのポケットですか」
「ズボンの、このポケットです」
「つまり、七つのうちの一つですね」
「そうです」
「そこに被告の手が侵入したのですね」
「そうです」
「それから、なにをされたのですか」
「あの、それを今、ここで言うのですか」
「勿論です」
「ポケットの袋を、外に引き出されました」
牛と馬と羊の鳴き声で法廷が揺れる。
猿の裁判長が木槌を打つ。
「静粛に、静粛に」
狐と少年の質疑応答が続く。
「それは災難でしたね」
「ええ。もう僕、びっくりしちゃって」
「そうでしょう。そうでしょう」
「今でも、胸がドキドキしています」
「袋を出されて、あなたは嬉しかったですか」
「まさか。とんでもありません」
手足を縛られたままの少女が床を転がる。
少女は泣きながら叫ぶ。
「うそつき! うそつき! うそつき!」
スカートの裾がめくれて下着が覗く。
法廷がざわめく。
猿の裁判長が木槌を打つ。
「発言する前に、私の許可を求めなさい」
一匹の羊が陪審員席の柵を跳び越す。
羊は証言台に近づき、少年に噛みつく。
「ああ、痛い。許してください」
そのまま紙のように少年を食べ始める。
「ああ、痛い。僕はうそつきでした」
少年を引きずりながら羊は退廷する。
兎の弁護人がつぶやく。
「羊が二匹」
狐の検察官が怒鳴る。
「信じられない。証人隠滅だ!」
猿の裁判長が注意する。
「証人を許可なく食べてはいけません」
おびえた牛が法廷の壁に角を突き刺す。
馬は暴れて、猿の裁判長を蹴飛ばす。
ほとんど法廷は壊滅状態。
どさくさに紛れ、狐の検察官が服を脱ぐ。
血走った眼で、床の少女に襲い掛かる。
「そうなのだ。美しいことが罪なのだ」
羊の群が陪審員席の柵を次々と跳び越える。
「羊が三匹、羊が四匹、羊が五匹、・・・・・・」
いつしか兎の弁護人は眠ってしまう。
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