飛び降り
2008/08/08
授業中であった。
一番前の席の女子生徒が手をあげた。
「先生」
「ん? なんだ」
「私、飛び降りてきたいんですけど・・・・・・」
教室がざわついた。
「おまえもか・・・・・・」
「すみません」
「・・・・・・仕方ない。無理するなよ」
「ありがとうございます」
彼女は教室を出ていった。
まだ教室がざわついている。
チョークで黒板を叩いた。
「静かにしろ。次の問題に進むぞ」
しかし、生徒たちの気持ちもわかる。
内心、私も驚いていた。
まさか、彼女まで飛び降りるとは。
そんな子ではないと思っていたのだ。
教室の窓から見える風景が気になって
なかなか授業に集中できなかった。
一瞬、その窓に黒い影が映った。
「あっ!」
小さな悲鳴があがった。
地面に衝突したらしい音も聞こえた。
ふたたび教室はざわついた。
私も諦めて彼らを放っておき
黒板に図形を書いて時間をつぶした。
しばらくすると、ドアが開き、
頭を下げながら彼女が入ってきた。
髪が乱れ、制服が土で汚れていた。
顔色が悪く、歩き方もおかしかったが、
そのまま彼女は自分の席に戻った。
「保健室で休んでいてもいいんだぞ」
「・・・・・・かまわないで・・・・・・ください」
彼女の声ではないみたいだった。
「・・・・・・そうか」
教室は静まり返っている。
みんなの気持ちが痛いほどわかる。
私は黒板を見上げ、
「さてと、この問題のわかる者は?」
誰も手をあげようとしない。
そうであろうなあ、と思う。
私にもさっぱりわからない。
しかし、どうすればいいというのだ。
終わりのチャイムはまだ鳴らない。
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