白痴の太鼓
2012/04/19
白痴はいつも
太鼓を叩いていた。
近くにいれば
必ず太鼓の音がした。
太鼓を叩いていなければ
眠っているのだった。
きっと太鼓を叩く夢でも
見ているのだろう。
いつも白痴は
どこか旅していた。
太鼓が唯一、
白痴の道連れだった。
白痴だから
ほとんど言葉は話せなかった。
その代り、
太鼓で話をするのだった。
太鼓の音だけで
意味が伝わるのだった。
鳥や獣とも
話せるようであった。
風や雨の音とも
合奏できるのだった。
ドム ドム ドム
ドム ドム ドム
太鼓の響きが
大空に広がってゆく。
それだけで
なぜか泣けてくるのだった。
まだ白痴は
旅を続けているだろうか。
あの太鼓の響きが
今でもまだ
耳から離れない。
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