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2009/02/05
枝に串刺しの
月明かり
蔓草に縛られた
石像の両腕
それら群像に
首はない
荒れ果てた庭園
泥沼の池
亡霊も凍る
崩れ果てた宮殿
金獅子の紋章は
王家の末裔か
屋根の上の
まわりもせぬ風見鶏
朽ちた階段
落ちた手摺り
色硝子の剥れた
窓の残骸
蓑虫を織り込んだ
蜘蛛の巣の帳
項垂れた燭台
脚の折れた寝台
掛け時計から垂れる
鳥葬の鳩
影さえ映さぬ
古代の鏡
壁に磔の
化石の蜥蜴
永遠の如く
静かなる夜
2009/02/04
ぼくたちは それぞれ
なにかを もとめて
こんな とおいところまで
きてしまった けれど、
おろかな こどもが
にじを おいかけても
いくら おいかけても
どうしたって
おいつけない ように、
やっと たどりついても
あんなに もとめた
とおいところは
ここではなくて、
ここは どこでもなくて、
ここは ただのここ でしかない。
2009/02/03
本当におもしろいことは
きっと単純で
ごく身近なことで
お金なんかほとんどいらなくて
つまらないことなんか気にせず
そこそこの勇気を持って
ときには悩んだり
ちょっとした工夫をしながら
見栄なんか張らず
我慢とか無理をせず
あたりまえのことをあたりまえに
やりたいことをやりたいように
やるだけのこと。
2009/02/02
桑畑の真ん中で教師に見つかってしまった。
「なにしてるの? こんなところで」
「別になにもしていません」
「あら、隠さなくてもいいじゃないの」
「僕だけの秘密なんです」
「だったら、先生も秘密にするわ」
「みんなに話されると困るんです」
「約束するわ。誰にも喋らないと」
「先生の言葉を信じていいのかな」
「神様に誓うわ」
「どこの神様に?」
「ええと、桑畑の神様に」
「・・・・・・」
「生徒が先生を疑うものでなくてよ」
「あの、その、つまり、魚雷を磨いていたんです」
「嘘ばっかり」
「本当です」
「どこにあるのよ」
「ええと、ほら、ここです」
「あら、なかなか立派な魚雷じゃない」
「破壊力は抜群ですよ」
「じつは私もね、駆逐艦を浮かべてるのよ」
「えっ、どこに?」
「ほら、この桑畑の端っこ」
こんな教師を信じた僕が馬鹿だったのだ。
2009/02/01
なんとなく奇妙な部屋なのである。
どこが奇妙なのかよくわからないので
なおさら奇妙な感じがする。
壁と床と天井があって、家具もある。
普通の部屋のはずだが、どこか違う気がする。
そう言えば、出入り口らしきものが見当たらない。
ところが突然、ドアが開いて誰か入ってきた。
こんなところにドアがあるとは・・・・
そうか。思い出した。
忘れていたのだ。
ここから私も入ってきたというのに。
ドアが閉まると、出入り口は再び消えてしまった。
もう記憶としてしか残っていない。
もし忘れてしまったら・・・・
この部屋の中には様々な人たちがいる。
ソファーの上で逆立ちしてる人。
壁を黙々と叩き続ける人。
床を舐める人。
立ったまま裸で抱き合ってる人たちもいる。
何人いるのか数え切れないほどいる。
つまり、それだけ部屋が広いわけだ。
広い部屋なのに、なぜか窓はひとつしかない。
そして、その窓の向こう側には風景がない。
この部屋のある建物のすぐ隣に別の建物があり
その壁面によって窓は塞がれているらしい。
その別の建物も、その壁面すら見えないのだが
風景が見えない以上、そう考えるのが自然なのである。
私は一度だけ目撃したことがある。
この窓から黒くて長い腕が部屋に侵入するのを。
その腕の先にあるクモの脚のような毛深い手は
ソファーに座っていた人の頭を鷲づかみにした。
そして、その人をそのまま窓から連れ去った。
結局、その人は二度と戻って来ることはなかった。
このような腕の出現は稀にあると言う。
それを目撃したことがある人なら
あるいはソファーに座らず、
逆立ちするようになるかもしれない。
私は、ソファーは勿論のこと
なるべく窓に近づかないよう注意している。
それでも、なかなか安心はできない。
なぜなら、ぼんやり壁際で考え事などしていると
こっそり窓の方から近寄って来ていたりするから。
そんな時、どうしても私は思ってしまう。
やはり奇妙な部屋なのだな、と。
2009/02/01
さて、そろそろ起きなければ。
もう起きる時間だから起きるのだ。
だが、どうやって起きるか。
それが問題だ。
まずは毛布を払いのけるべきだろう。
毛布を払いのけるには手を使えばいい。
右手か左手か、あるいは両手でもいい。
いや、足を使ってもできそうだ。
もし手も足も出なかったらどうするか。
どうしよう。わからない。
考えるのだ。
そうだ。頭だ。
頭を使うのだ。
しかし、丸い頭では毛布をめくれない。
いや、頭をつぶせばなんとかなる。
ヘラみたいに平らにつぶせばいいのだ。
しかし、どうやってつぶすのだ。
足で踏みつぶせるだろうか。
いやいや。ちょっと待て。
足が出ないから頭を使うのだった。
そうだ。そうだった。
そうだったっけ。
違う。違う。
なにを考えているのだ。
こんなことしている場合じゃなかった。
起きなければならなかったはずだ。
毛布なんか無視だ。
起きればいいのだ。
起きれば毛布なんか床にずり落ちてしまう。
それで一石二鳥だ。なんて賢い。
起きながらあくびをすれば一石三鳥だ。
素晴らしい。
天才かもしれないぞ。
さすがに一石四鳥というのは無理かな。
無理かどうかやってみなくてはわかるまい。
なにをやるか。なにをやっているのか。
そうだ。なにをやっているのだ。
いかん。いかん。
こんなはずじゃなかった。
すぐに起きねばいかんのだ。
ええと、どうすれば起きられるんだっけ。
いつものようにすればいいはずだが。
確か、まず上体をなんとか起こすのだ。
上体を起こすには腰を曲げればいい。
そうだ。曲げるのだ。
腰を曲げるのだ。
やった。
少しだけだが腰が曲がったぞ。
それにしては起きてないではないか。
なぜだ。
寝ぼけているのだろうか。
ああ、そうか。
横向きで寝ていたのだ。
横向きの姿勢で腰を曲げてもしかたない。
どうりで簡単に腰を曲げられたわけだ。
まぬけだな。
笑ってしまうな。
笑ってしまおうかな。
いいのかな。
誰にも遠慮することはないはずだが。
どうせ寝言と思われるくらいで。
わあ。なんだ。
どうなっているのだ。
笑ってる場合ではないぞ。
なにしてるんだ。
いいかげんにしろ。
すぐに起きないとまた眠ってしまうぞ。
ほら、起きるのだ。
今すぐ起きるのだ。
だめだ。体が重い。
寝返りも打てない。
なぜだ。わからない。
頭がおかしい。
眠い。眠いのだ。
たまらなく眠いのだ。
そうか。そうなのだ。
眠いからだ。
こんなに眠いから起きられないのだ。
だが、どうしてこんなに眠いのだろう。
寝不足だからか。
そうかもしれない。
いや、待てよ。
あるいは寝すぎだろうか。
そうかもしれない。
そうでないかも。
あまりにも眠いので判断できない。
そもそも、なぜ起きねばならんのだ。
眠いなら起きなくとも良いではないか。
よいではないか。のう、お女中。
色が白くてかわゆいわ。
ほれ、帯をとくのだ。
ほれほれ、コマのようにまわってみよ。
あれえええええ。
なにをやっておるのだ。