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  • 静電気対策

    2016/02/09

    怖い話

    もうすぐ乾いた季節がやってくる。

     

    静電気が溜まりやすい体質なので 

    正直なところ怖いし、うんざりする。

     

     

    髪はもちろん、すべての体毛が逆立つ。

    若い女の子に必ず笑われる。

     

    ものに触れるたびに強烈な電撃を受ける。

    握手したら気絶したOLもいた。

     

    暗闇では体の表面がぼんやり光る。

    夜道を歩いていると女性が悲鳴をあげる。

     

    たとえ女の子がいなくても危険なので 

    ガソリンスタンドでセルフの給油はできない。

     

    知人や友人は近寄らなくなる。

    この季節、妻は実家へ帰ってしまう。

     

     

    だが、今年は大丈夫。

    いくつか静電気対策を用意したからだ。

     

    まず、小まめな水分補給を心掛け 

    ミネラルウォーターを頻繁に飲む。

     

    重ね着しても帯電しにくいよう 

    衣類の組み合わせには同じ素材を選ぶ。

     

    シルクの枕カバーを使い 

    あまり長時間続けて眠らない。

     

    地球の磁力線との関係から 

    電気が発生しにくい北枕で寝る。

     

    なるべく自然に親しむようにして

    とりあえず室内は裸足で歩く。

     

     

    これでも効果ないなら、もう足首に鎖を巻いて 

    地面に垂らしながら歩くつもりだ。

     

    昔のタンクローリー車が 

    不安から無意味にやっていたように。

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  • よくわからない

    2016/02/08

    変な話

    どこかの港の桟橋みたいなところ。

     

    僕たちは敵味方に分かれ 

    集団で球技らしきゲームをして遊ぼうとしている。

     

    しかしながら、その肝心なゲームのルールが 

    いまいちよくわからない。

     

    そもそも球技にしてはボールが見当たらない。

     

    どうやら競技者のうち特定の誰かが 

    仮想的にボールに相当するものになるらしい。

     

     

    よくわからないままゲームは開始されてしまった。

     

    皆と一緒にゾロゾロと階段状の岸を下りて 

    水着姿なのでそのまま浅瀬に入る。

     

    ボールに相当する人物がいるあたりでは 

    両チーム入り交じり攻防するかのような動きがある。

     

    ルールもそうだが、ルールがよくわからないせいか 

    このゲームの面白さもよくわからない。

     

    鬼ごっことかもそうだった。

    どうも子どもの頃から集団遊びは苦手だ。

     

     

    ぼんやりしていたら突然 

    潜水する誰かの腕が僕の腰のあたりに絡みつく。

     

    まるで人喰いザメに襲われたような感じ。

     

    どうやら、このように潜水者にしがみつかれた者が 

    このボールなし球技のボールに相当させられるらしい。

     

    手つなぎ鬼の変形みたいなものだろうか。

     

     

    ともかく 

     

    腰にしがみつく謎の潜水者を従えて 

    僕は浅瀬を移動するしかない。

     

    逃げているのか追っているのか 

    よくわからないまま。

     

     

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  • 橋の下

    2016/02/07

    ひどい話

    朝から冷たい雨が降っていた。

     

    橋の下から出る気になれなかった。

    まだ新聞紙や段ボールに包まれていたかった。

     

    腹の虫がうるさく鳴いていた。

    もう土手の草は食いたくなかった。

     

    ノラ猫でもやってこないものか。

     

     

    「おじさん。なにやってるの?」

    女の子だ。

     

    赤い長靴、赤いスカート。

    水玉の雨傘をクルクルまわしてる。

     

    「いいことしてるんだよ、お嬢ちゃん」

    「どんないいこと?」

     

    「それは秘密だ、お嬢ちゃん」

    「いや。教えて教えて」

     

    「それじゃ、こっちへおいで、お嬢ちゃん」

    「うん」

     

     

    それはともかく 

    たまらなく腹が減っていた。

     

     

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  • キャラ箱

    2016/02/06

    変な話

     

    改札を通り抜けた記憶もないのだが 

    そこは駅ビルの中央通路らしく、なかなかにぎやかな場所。

     

    その片隅に小さな簡易トイレみたいな直方体の箱があって 

    便意もないのになぜか、これ幸いとばかり、その中に入ってしまう。

     

    その箱の材質はやわらかくて薄い布のようなもの。

    あたりが透けて見えるが、外から内側は見えない気がする。

     

    入って間もなく、バタ臭い顔の少年が近寄ってきた。

     

    ハーフなのか挑発的で生意気な表情。

    気安く箱に触れ、押したり引いたりする。

     

    おれはムッとして、怒鳴る。

    「あっちへ行け!」

     

    しかし、少年は平気でまとわり続ける。

     

    こんなガキの相手をするのも面倒なので 

    持ち上げるでも引きずるでもなく、おれは箱ごと移動する。

     

    布を張った四本足の竹馬みたいな妙な形に歪みながら 

    どうにか歩くように動ける構造になっているのだ。

     

    そう言えば、ご当地ゆるキャラの着ぐるみというのは 

    こんな形をしていなかっただろうか。

     

    まさかとは思うが、もしそうだとすれば 

    あんなふうに軽率に怒ったりしてはいけなかったな。

     

    むしろ、もっとこう、なんと言うかな 

    媚を売るとか愛想を振りまくとか 

     

    とにかく 

    もっと努力と我慢をしなければ。

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  • ケンカの勝ち方

    2016/02/05

    論 説

    ケンカの勝ち方の基本は 

    負けないこと。

     

    勝てるかもしれないとしても 

    負けるかもしれないなら 

    闘わぬことである。

     


    負けないためには 

    まず、自分の弱みをなくす。

     

    なくせない弱みがあるなら、守る。


    守れない弱みがあるなら 

    そこを攻められて負けてしまう。 

     

    ならば、その前に相手の弱みを見つける。

     

    自分の弱みを攻められる前に 

    相手の弱みを攻めて相手を負かす。

     

    自分にも相手にも弱みがないなら 

    どちらが強いか見極める。

     

    自分に強みあれば 

    それを鍛える。

     

    ケンカはそれからである。

     

     

    ところで 

    「誰でも使えるケンカの必勝法」などというものはない。

     

    そんな必勝法があるなら 

    それを互いに使えばどちらも勝つことになる。

     

    つまり、矛盾する。

     

    たとえ先手必勝だとしても 

    その場合は、先手を必ず取る方法が必勝法となる。

     

    その方法を互いに使えばどちらも先手を取ることになり 

    やはり矛盾する。

     

    必勝法がないのなら、ケンカなどせぬことだ。

     

     

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  • 天下の奇書

    2016/02/04

    思い出

    昔、変な仕事をしていた。

     

    製薬会社の社員のフリして大学の医学図書館へ潜入し 

    指定された医学雑誌の論文をコピーする、というもの。

     

    AIDSなども、ニュースで話題になる前に 

    外国の医学雑誌の論文タイトルで初めて知った。

     

    奇形児とか末期の梅毒患者の顔写真とか 

    今なら画像検索すればPCで見れないこともないが 

    当時の一般人としては、かなりショッキングな情報に接していた。

     

    ある日、都内のある大学病院の図書館で、天下の奇書を見つけた。

     

    なんと、カラー大便図鑑。

    いわゆるウンコの分類図鑑である。

     

    カラー写真とともに詳細説明があって 

    色や形状、水分量、成分、粘土、pH値、体調や病気との関連性など。

     

    確かに「排泄物を見れば健康状態がわかる」という説は耳にする。

    「出されるゴミの内容と状態を見れば、人格と生活がわかる」みたいに。

     

    しかし、これを図鑑として出版してしまう行為には頭が下がる。

    たとえ役立つとしても、まず売れるとは思えない。

     

    採集も撮影も分析も編集も、大変な苦労をされたはずである。

    想像するだけで、ため息と吐き気と涙が出そうになる。

     

    飲尿療法なんかもそうではないかと思うのだが 

    そうまでして健康になろうとしなくとも良いのではなかろうか。

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  • 高層ビル

    2016/02/03

    怖い話

    深夜の高層ビル。

     

    ひとり暗い廊下に立っていると 

    私の名を呼びながら女が近づいてくる。

     

    彼女の声に似ている。

    姿も似ている。

     

    だが、確信が持てない。

    「あの目が悪いものですから・・・・」

     

    そのまま女は通り過ぎ、廊下の奥の闇へ歩み去る。

     

    すると誰だ? 

    彼女ではなかったのか? 

     

    深夜の高層ビルの廊下で彼女に会うというのも変な話だ。

    しかし、今は考え込んでいる場合ではない。

     

    壁のボタンを押す。

    音もなく扉が開く。

     

    エレベーターに乗る。

    廊下より暗い。

     

    並んでいるボタンのうち、一番下のそれを押す。

    音もなく扉が閉まる。

     

    加速しながら落ちてゆく。

    扉の上、階数を示す表示ランプが次々と移動してゆく。

     

    途中で停止する。

    音もなく扉が開く。

     

    ひとりの女が乗ってきた。

    上の階で別れたばかりの彼女だ。

     

    今度は確信が持てた。

    「どうして君が・・・・」

     

    彼女も驚く。

    「さっき廊下で会ったわよね」

     

    「変だ。操作をまちがえたのかな」

    「でも、これ、上から下りてきたわよ」

     

    エレベーターの扉が音もなく閉まる。

    石ころのように落下してゆく感覚。

     

    不安な目で相手を見つめる、ふたり。

    ただ音もなく落ちてゆくばかり。

     

     

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  • 空き家

    2016/02/02

    怖い話

    静かな昼下がり。

    でも、蝉は鳴いていた。

     

    憶えている。あの日、通りに人影はなかった。

    塀を乗り越えるのは造作もないことだった。

     

    庭は背の高い雑草にすっかり占領されていた。

     

    施錠された玄関、木造二階建ての古い家。

    数年前から空き家なのだった。

     

    どの窓も開かないので裏手にまわる。

     

    床下近くの壁板がはがれそうになっていた。

    つかんで引くと、大きな音がして板が割れた。

    すっかり朽ちていた。白蟻が食ったのだろう。

     

    いく枚か板をはがして穴をこしらえ 

    その穴から土足のまま家に侵入した。

     

    そこは風呂場だった。

    薪の束と風呂釜がある。いわゆる五右衛門風呂だ。

     

    とりあえず一階を探索することにした。

     

    破れた障子戸。煤けた囲炉裏。広い仏壇の間。

    かまどや手押しポンプのある台所。

    床板が割れそうな汲み取り式の和式便所。

     

    埃だらけの廊下に自分の靴の跡が残った。

    これが家宅不法侵入の証拠になるかもしれない。

     

    蜘蛛の巣はそれほど多くなかった。

    網の罠にかかりそうな虫が少ないのだろう。

     

    階段は二つに折れて壊れていた。

    火鉢を踏み台にして二階へ上がった。

     

    どこもかしこも埃だらけだった。

    懐かしいような妙な臭いもする。

     

    からっぽの物置部屋。

    子ども部屋。歌手の写真が表紙の古い雑誌。

    布をかぶった鏡台があるのは夫婦の寝室だろうか。

     

    箪笥たんすには浴衣が一枚だけ残されていた

    行李こうりには使い方のわからない道具が一式。

     

    暑さも忘れ、空き家を探索してまわった。

     

    夕方、そろそろ引き上げて帰ろうとした時だった。

    一階の埃だらけの廊下に裸足の足跡を発見したのは。

     

     

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  • 実体コピー

    2016/02/01

    論 説

    PC、マイク、カメラなどがあれば 

    文字、音声、映像のコピーは簡単にできる。

     

    近頃では準備と手間は掛かるものの 

    特殊な立体コピーさえ可能になってきた。

     

    そこで、想像してみる。

     

    完璧な原子レベルでの立体コピーが可能となり 

    対象のハードもソフトも含めた実体コピー機が完成。

     

    肉体はもちろん、記憶も性格も能力も 

    人間まるごとコピーできてしまう。

     

    そのコピーにも感覚や意識があるわけで 

    それらをコピー元の感覚や意識と同調させる。

     

    これを対人関係において、リアルタイムで相互に行う。

    TV電話の実体版みたいなもの。

     

    電話の受話器を取ったら、そのまま受話器が変身して 

    互いの話し相手その人になってしまう感じ。

     

    そのコピーとの体験は実体験に違いない。

     

    そして、電話での会話が対面の会話に限りなく近いように 

    コピー元との実体験に限りなく近くなるはず。

     

    さて、いかがであろうか。

     

    悩ましいところだ。

    面白そうだが、不安や心配もある。

     

    迷惑電話だったら、本当に迷惑になる。

    遠距離恋愛どころか、遠隔殺人さえ起きてしまう。

     

    コピーの人権も気になるところだ。

     

    どうせ想像でしかないが 

    やはり想像だけで済ますべきかもしれない。

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