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    Works 3,356
  • 新聞記者と青空

    2016/01/11

    ひどい話

    おれは新聞記者だ。

     

    環境汚染やゴミ問題を扱いながら 

    新聞を売ることでゴミを増やしている。

     

    うしろめたい気持ちでいっぱいだ。

     

    今、おれは自動車整備工場の敷地にいて 

    ぼんやりタバコなんかふかしている。

     

    白い煙が青空に消えるのを眺めている。

    つまり、仕事でなくても空気を汚しているわけだ。

     

    ちょっとやり切れない気分。

     

    人声がして、立派な服を着た団体が現れた。

    国内有数の自動車メーカーの方々である。

     

    額の禿げあがった工場長に挨拶している。

     

    こんな零細な自動車整備工場の工場長に 

    世界的に有名な社長が頭を下げている。

     

    やはり何かありそうか気がする。

    記事のネタになりそうな匂いがするのだ。

     

    やがて話がついて、団体が立ち去ろうとする。

    彼らにインタビューすべきか、おれは迷った。

     

    その時、それは起こったのである。

     

    整備工場の敷地から近所のビルの工事現場が眺められる。

    鉄骨を組んでいる最中なので、不安定に見える。

     

    新聞を売ったり、自動車を作ったり、ビルを築いたり 

    人々は色々なことをしているわけだ。

     

    その工事中のビルの頂上から何かが落ちた。

    昼頃だから、人夫の弁当箱だったかもしれない。

     

    落下の途中、それが鉄骨か何かに当たり 

    かなりの音を立てて周囲に響き渡った。

     

    新聞記者らしくない考えのような気もするが 

    落ちたのが人間でなくて本当に良かった。

     

    続いて小さな建築資材らしきものが落ちた。

    さらに、あまり大きくない資材がバラバラ落ちた。

     

    それで終わりかと思ったら 

    しばらくして頂上の鉄骨が一本はずれて落ちた。

     

    ものすごい音がした。

     

    人夫たちの叫び声があがった。

    あるいは誰かにぶつかったのかもしれない。

     

    頂上付近に人が集まる様子が見える。

     

    すると、かれらの体重のせいなのか 

    その足場の鉄骨がはずれ、載っていた人もろとも落下した。

     

    とんでもない事故。

    あの高さからではまず助からない。

     

    国内有数の自動車メーカーの社長は 

    この光景をしっかり見ているのであろうか。

     

    そんな考えが頭のどこかに浮かんだが 

    おれはビルの惨状から視線をそらすことができない。

     

    人夫たちが集まり、その重みで鉄骨がはずれ 

    そのまま人夫もろとも落下する。

     

    その単調なパターンの繰り返し。

    おれの目の前で工事中のビルが崩れてゆく。

     

    まるでオモチャというか、ほとんどマンガだった。

    積み木の城みたいだ、とおれは思った。

     

    それなのに、工事中で崩落中のビルの向こう側は 

    あいかわらず青空なのだった。

     

     

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  • 赤い蝶

    2016/01/10

    変な話

    あまりにも遠い夏休みの思い出。

     

     

    半ズボンで、麦わら帽子をかぶって 

    林を縫うように山道を歩いていた。

     

    手には捕虫網と虫かご。

    小さな昆虫図鑑も持っていたかもしれない。

     

    いたるところに清水が湧いていたから 

    水筒は持っていなかったはず。

     

    暑かった。

    アブラゼミが鳴いていた。

     

    のちに自然保護地域に指定される池にたどり着く。

    当時は、珍しい浮島のある怪しい池。

     

    池のほとりに小さな社が建っていた。

     

    その裏側にある大きな石にひとり腰かけ 

    しばらく池を眺めていた。

     

    さびしいとは思わなかった。

    ひとりだから楽しい。そんな気分。

     

    小石を投げ入れると、水面に波紋が広がった。

    その波紋の上を赤い蝶が飛んでいた。

     

    息をするのも忘れ、胸が苦しくなった。

    赤い翅の蝶なんか見たことなかったから。

     

    捕虫網をつかんで夢中で駆け出した。

    そして、そのまま池に落ちてしまった。

     

    そうだ、落ちたのだ。

    たしかに池に落ちたはずなのだ。

     

    忘れられるようなことでもないはずなのに 

    どうして今まで忘れていたのだろう。

     

     

    あまりにも遠い夏休みの思い出。

     

     

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  • 歩道橋

    2016/01/08

    変な話

    幅広い車道を挟む形で両側に幅狭い歩道があり 

    その片側の歩道を歩きながら、私は思う。

     

    (クルマなんか、なくなれば良いのに)

     

    そうすれば、ゆったり安心して歩ける。

    向こう側にも簡単に渡れる。

     

    排気ガスと騒音をまき散らしながら 

    車道のクルマの流れは途切れる気配もない。

     

    はるか前方に歩道橋が見える。

    あそこまで歩かなければならないようだ。

     

    (歩行者をなんだと思っているんだ?

     でかい顔しやがって)

     

    実際、クルマの正面は顔のように見える。

    人格らしきものさえ感じられる。

     

    それを彼らは好しと、または悪くもなしと 

    あるいは気にもせず運転しているに違いない。 

     

    ようやく歩道橋の下まで辿り着いた。

    しかし、楽しい作業が待っているわけではない。

     

    ペンキの剥げかけた急勾配の階段を 

    忌々しい気持ちのまま上り始める。

     

    一段ごとに地面が低くなる。

    ただし、空の高さに変化は見られない。

     

    歩道橋の真ん中、車道の中央分離帯の真上で 

    私はクルマの流れを見下ろす。

     

    なかなかの景観だが、不安定で落ち着かない。

    急いで反対側の歩道に下り立つ。

     

    (さて、どうしたものか)

     

    これからどこへ行こうか 

    あらかじめ決めていたわけではないのだ。

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  • たたむ達人

    2016/01/07

    変な話

    「とにかく面倒臭がらずに続けることですね。

     放っておいたら悪くなるばかりですから」

     

    彼女はたたむのがうまい。

    「では、そういうことで」

     

    話も仕事も人も、なんでもたたんでしまう。

     

    かくいう私もすっかりたたまれてしまい 

    手も足も声も出ない。

     

    それはともかく、彼女の職業は 

    弁護士であり、医者であり、教師である。

     

    そういう兼業が可能なのかどうか 

    当然ながら、誰しも疑問に思うところであろう。

     

    ならば直接、彼女に問うてみるがよい。

     

    彼女に説明されたら、誰だって論理的にたたまれてしまい 

    どうにもこうにも納得するしかないのだから。

     

     

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  • アイスクリーム

    2016/01/06

    変な話

    こじんまりとした白っぽいオフィス。

     

    出入り口付近に置かれたデスクに腰かけ 

    ぼんやりとしているだけの私がいる。

     

    早朝であろうか、女子社員が数人いて 

    それぞれなにやら仕事をしている。

     

    コンピュータに向かっていた女子社員が 

    ううんと背伸びをして 

     

    「よし。たまにはゲームをしてやれ」

    勤務時間なのに電脳ゲームを始める。

     

    まじめな性格の子だと思っていたが 

    やはり遊びたがっていたのだなあ。

     

    隠さずおおっぴらにやるところが 

    いかにも彼女らしい、などと思う。

     

    奥の別室では打ち合わせが行われているらしく 

    曇りガラスに人影が映っている。

     

    かすかな話し声も聞こえる。

     

    そのドアが開き、女子社員が出てきた。

    少し驚いた様子で、私の名を呼ぶ。

     

    「冷蔵庫にアイスクリームが入っているの。

     いっぱいあるけど、みんな食べてね」

     

    変な話だとは思ったが、素直にうなずく。

     

    冷蔵庫を開け、冷凍室を覗いてみると 

    カップに入ったアイスクリームが4個もあった。

     

    その一つのフタを開けてみると 

    乳白色のバニラで、中央部分がへこんでいる。

     

    ペン先のようなもので突き刺した形で 

    なんだかいやらしいイメージを連想させる。

     

    それは彼女にもわかっているはず。

     

    私がそれを見てどのように感じるか 

    その反応を想像して楽しむつもりだろうか。

     

    しかし、彼女に尋ねるわけにもいかない。

    彼女だって正直に答えるはずもない。

     

    奥の別室は商品企画の会議中だという。

    業者の持ってきたサンプルを見せてもらう。

     

    文具セットなのだが、あちこち抜けていて 

    ペン1本と消しゴム1個しか残ってない。

     

    これでは参考になりそうもない。

     

    新人であろうか、女子社員が出社したらしく 

    それらしい気配を背後に感じる。

     

    通り過ぎる彼女を横目で盗み見ながら 

    私はアイスクリームを食べ続けている。

     

    冷たさも味も、よくわからないまま。

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  • 読んではいけない本

    2016/01/05

    愉快な話

    お父さんの書斎には大きな本棚がいくつもあって 

    たくさんの本が数え切れないほど並んでいる。

     

    どれでも僕が勝手に読んで構わないことになっているんだけど 

    ただ一冊だけ、僕が読んではいけない本がある。

     

    それは本棚の一番高いところにあって 

    ナンバーキーが付いた小さな扉の奥に入っている。

     

    「なぜ読んではいけないの?」

    「読めば必ず不幸になるからさ」

     

    「どうして?」

    「読めばわかる」

     

    お父さんは詳しく教えてくれない。

     

    「そんな本は捨てればいいのに」

    「捨てると、もっと不幸になる」

     

    「どうして?」

    「読めばわかる」

     

    意地悪なお父さん。

     

     

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  • 幽霊の作り方

    2016/01/04

    論 説

    現実には存在しないはずなのに 

    その存在を意識させるものを「幽霊」とする。

     

     

    道化師がパントマイムで壁を撫でる動作をすると、観客は

    存在しないはずの壁があたかも目の前にあるかのように感じる。

     

    同じくドアを開ける動作をすれば 

    見えないはずなのにドアが開いたような気がする。

     

    つまり、観客は「壁」や「ドア」の幽霊を見たわけである。

     

    この現象を応用すれば 

    いろいろな幽霊を手軽に作ることができる。

     

    パントマイムを練習する必要はない。

    パントマイムをする道化師と同じ意識を持てばいいわけである。

     

    存在しないものをそこに存在するかのように意識する意識である。

    「存在感」の感受性を意識的に増幅することかもしれない。

     

    亡くなって数十年経っても話題になる人物なら 

    ほとんどそのまま幽霊である。

     

    人に話しかけるようにペットに話しかける飼主を見かけるが 

    あれは人の言葉を理解できるペットという幽霊に対して 

    意識的または習慣的に話しかけているのだろう。

     

    鏡の前で化粧に余念のない婦人は 

    もっと美しいはずの自分の姿という幽霊を 

    願望とともに鏡の向こうに見ようとしているのかもしれない。

     

    または、相思相愛のアイドルの幽霊が頭から離れず 

    その幽霊と授業中にデートを楽しむ男子高校生とか。

     

    さらに、UFOを見た人たちは、見上げる大空に 

    空飛ぶ異星人の乗り物の幽霊を意識したのではなかろうか。

     

    そして、画家はキャンバスの中に「理想の美」なる幽霊を見る。

     

     

    ・・・・いや、違う。

     

    むしろ我々は、幽霊しか見えていないのであろう。

    ほとんど実体のようにしか見えない幽霊を。

     

    だから、身近にいても存在感のない人の場合 

    たとえ怨みながら死んでも、まず幽霊にはなれまい。

     

     

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  • くさめ太夫

    2016/01/03

    楽しい詩

    春や秋 

    寒さ暑さの 変わり目に 

     

    くしゃみなんぞ 

    くさめ太夫だゆうが しておじゃる

     

     

     一に ほめられ

     クシュン

     

     二に ふられ

     クシュン クシュン

     

     三に ほれられ

     クシュン クシュン クシュン

     

     四に 風邪

     クシュン クシュン クシュン クシュン 

     

     または 花粉症ではあるまいか 

     

     

    ハッ ハハ 

    はてさて 

     

    それはともかく 

     

    くさめ くさめ の 

    呪文や いかに

     

     

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  • 少女積み木

    2016/01/02

    変な詩

    遊び仲間も おもちゃもなくて 

    手持ち無沙汰な 日曜日 

     

    女の子集めて 魔法をかけて 

    さまざまな意匠の 木片に 

     

    これを重ねて 積み上げて 

    少女積み木して 遊ぶのだ 

     

    彼女はここで 君はここ 

    この子はどこに のせようか 

     

    立てよか倒そか 裏返し 

    こんな隙間に 入るかな

     

    積み木遊びの おしまいは 

    積み木崩しが 待っている 

     

    グラグラ グララ 

    ガラガラ ガララ

     

     

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