新聞記者と青空
2016/01/11
おれは新聞記者だ。
環境汚染やゴミ問題を扱いながら
新聞を売ることでゴミを増やしている。
うしろめたい気持ちでいっぱいだ。
今、おれは自動車整備工場の敷地にいて
ぼんやりタバコなんかふかしている。
白い煙が青空に消えるのを眺めている。
つまり、仕事でなくても空気を汚しているわけだ。
ちょっとやり切れない気分。
人声がして、立派な服を着た団体が現れた。
国内有数の自動車メーカーの方々である。
額の禿げあがった工場長に挨拶している。
こんな零細な自動車整備工場の工場長に
世界的に有名な社長が頭を下げている。
やはり何かありそうか気がする。
記事のネタになりそうな匂いがするのだ。
やがて話がついて、団体が立ち去ろうとする。
彼らにインタビューすべきか、おれは迷った。
その時、それは起こったのである。
整備工場の敷地から近所のビルの工事現場が眺められる。
鉄骨を組んでいる最中なので、不安定に見える。
新聞を売ったり、自動車を作ったり、ビルを築いたり
人々は色々なことをしているわけだ。
その工事中のビルの頂上から何かが落ちた。
昼頃だから、人夫の弁当箱だったかもしれない。
落下の途中、それが鉄骨か何かに当たり
かなりの音を立てて周囲に響き渡った。
新聞記者らしくない考えのような気もするが
落ちたのが人間でなくて本当に良かった。
続いて小さな建築資材らしきものが落ちた。
さらに、あまり大きくない資材がバラバラ落ちた。
それで終わりかと思ったら
しばらくして頂上の鉄骨が一本はずれて落ちた。
ものすごい音がした。
人夫たちの叫び声があがった。
あるいは誰かにぶつかったのかもしれない。
頂上付近に人が集まる様子が見える。
すると、かれらの体重のせいなのか
その足場の鉄骨がはずれ、載っていた人もろとも落下した。
とんでもない事故。
あの高さからではまず助からない。
国内有数の自動車メーカーの社長は
この光景をしっかり見ているのであろうか。
そんな考えが頭のどこかに浮かんだが
おれはビルの惨状から視線をそらすことができない。
人夫たちが集まり、その重みで鉄骨がはずれ
そのまま人夫もろとも落下する。
その単調なパターンの繰り返し。
おれの目の前で工事中のビルが崩れてゆく。
まるでオモチャというか、ほとんどマンガだった。
積み木の城みたいだ、とおれは思った。
それなのに、工事中で崩落中のビルの向こう側は
あいかわらず青空なのだった。
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