1万8000人の登録クリエイターからお気に入りの作家を検索することができます。
2015/12/24
どうぞ私を捜さないでください。
私はあなたから姿を消します。
あなたの知らない場所へ隠れます。
だから私を捜さないでください。
ふたりが別れてはならない理由も
一緒にいなければならない理由も
少なくとも私には見つけられないのです。
あなたの都合など理由にはなりません。
私の都合が理由にならないのと同じです。
もう会わないことにしましょう。
それが、お互いのためになると思います。
いいえ、私たちのためだけでなく
ありとあらゆるもののためになるでしょう。
そんな予感がするのです。
だから、この手紙を残します。
けっして私を捜さないでください。
もしあなたに見つけられたら
私は生きていけません。
私はあなたを死ぬほど愛そうとしました。
でも、愛がなくては死ねません。
私は最後の女として生きます。
あなたも最後の男として生きてください。
さようなら。
もう名前もいらない 最後の男へ
最後の女より
ログインするとコメントを投稿できます。
2015/12/17
こちらは、防災噓田です。
光化学スモッグ注意報が発令されました。
不要な外出や屋外での運動はお控えいただきますよう、お願いいたします。
こちらは、防災噓田です。
本日、噓田市法螺台の87歳の女性が行方不明となり、探しています。
女性は身長47m50cmくらい、細身で、頭髪は白髪・短髪です。
上着も下着も着ておらず、つまり裸ですが、ピンクのスリッパを履いています。
お心当りの方は、噓田警察署までご連絡ください。
こちらは、噓田市役所です。
市民のみなさん、外にいる子どもたちの安全を地域の眼で見守りましょう。
安心・安全の街づくりにご協力をお願いします。
こちらは、防災噓田です。
本日発令されました光化学スモッグ注意報は、解除されました。
ご協力ありがとうございました。
こちらは、防災噓田です。
本日、行方不明の捜索依頼をしました女性は、無事保護されました。
ご協力ありがとうございました。
こちらは、嘘田市役所です。
外にいるよい子のみなさん、もう家に帰る時間ですよ。
事故に遭わないよう、みんなで気をつけて帰りましょう。
市民のみなさん、子どもたちの安全を地域の眼で見守りましょう。
ログインするとコメントを投稿できます。
2015/12/09
このチップを後頭部に埋め込むと、リモコン人間になるのだ。
ただし、手足を動かすなど物理的な動作コントロールではなく
感情や欲望、体調や感覚など、心身の状態コントロール。
手持ちのコントローラーによる遠隔操作で
埋め込まれたチップからマイクロ波やらなにやらが発生するらしい。
ある程度の好みの変更、欲望や恋愛感情の増幅も可能なので
片想いの相手をリモコン人間にしようとする犯罪が多発している。
効果は格段に劣るものの、チップを後頭部に貼り付けるだけの
埋め込み手術を必要としない簡易手段もある。
もともとは某社会主義国家の軍事技術だったそうで
恐ろしいことに、どうやら兵隊に使おうとしていたらしい。
それが、軍事機密の漏えい事件によって民間に流れたようだ。
こうして、大学病院の外科部長である私のところにまで。
さて、それはともかく、このチップをどうするかな。
まるで誘惑するかのように、大統領閣下が緊急入院されたのだが・・・・
ログインするとコメントを投稿できます。
2015/12/06
ヒューマンレンタル協会、HRAなる組織があり
ここに入会することができた。
今時、色々なレンタルサービスがあり
人間の貸し借りだってできる。
労働力だけでなく
仮にせよ恋人や友人や家族でさえ借りられるのだ。
HRAにおける入会審査はきびしい。
現会員からの推薦、書類審査、筆記試験、身体検査、身辺調査、
面接、さらに幹部による協議を経て、ようやく入会が許される。
借りるだけ、貸すだけの条件を有する会員もいるにはいるが
それは例外。
一般会員であれば相互レンタル交渉は自由に行える。
口約束にせよ、なされた契約は協会の権力機構を持って厳守させる。
それゆえ、ある程度のプライバシー侵害は甘受せねばならない。
なんにせよ、広い意味での人間的魅力が一番の入会条件だ。
HRA会員であることがそのままステータスとなる所以ゆえんでもある。
さて、それはともかく、今夜の妻は誰にしようか。
かわいい娘も欲しいところだ。
ログインするとコメントを投稿できます。
2015/11/11
殺風景なビルの一室。
若い男女二人組の強盗が
バッグを放り投げて目配せする。
女は拳銃を持っている。
手をあげろ、とは言わない。
きっと面倒臭いのだろう。
缶詰の詰まったバッグを抱え
二人組は盗難車に乗り込む。
遠くまで逃げるのだ。
どうせ追って来ないだろうが
用心に越したことはない。
警察はいないとしても
飢えた奴らは多いからな。
銀行が保存食料品の
預かり所になって久しい。
ログインするとコメントを投稿できます。
2015/11/03
近頃、ジェット機の音なのか
ミサイルが飛来するような音がやたらするな
と思っていたら
本当にそれらしき爆発音がした。
あわてて窓を開ける。
かなり遠いが、黒煙が上がっている。
(戦争か?!)
そんな話は聞いてないぞ。
テレビないので、パソコンを立ち上げる。
まだニュースにはなっていないようだ。
(地震速報だって、ちょっと遅れるものな)
不意に画面が真っ黒になった。
停電なのか、スタンドの灯りもつかない。
(まさか・・・・)
再び遠くから飛来音が聞こえ始める。
だんだん近く、だんだん大きくなってゆく。
そして・・・・
ログインするとコメントを投稿できます。
2015/10/19
学校へ行きたくありません。
同級生にいじめられるから。
友だちなんかひとりもいません。
みんな、私を軽蔑するのです。
血が汚れている、と言うのです。
私の血が不純だ、と。
泣いたって誰も同情してくれません。
涙も汚れているはずだ、なんて言われます。
くやしくて仕方ありません。
この前なんか、ひどいんです。
担任の先生にいたずらされそうになりました。
私、頭にきたので、噛みついてやりました。
でも、その血のまずいこと!
トマトジュースがおいしく感じられるくらいです。
そうです。
みんなの血こそ汚れているのです。
とてもまずくて飲めません。
変な病気になる可能性だってあります。
父はそれが原因で死んだんです。
普通の人間だった浮気な母。
かわいそうな吸血鬼だった美食家の父。
ログインするとコメントを投稿できます。
2015/10/01
これから選挙へ行くところだ。
まったく政治に興味はない。
しかし、投票せねば殺されかねないので仕方ない。
銃殺派、絞殺派、撲殺派、毒殺派から一人ずつ
全部で四人の男女が立候補している。
くすぐり派とかあれば喜んで投票するものを
これでは悲しんで投票するしかない。
長引く世界的な人口爆発の影響で
死刑制度の廃止案は議題にすらならない。
それにしても、私は撲殺派がきらいなのだが
その他の党派を選ぶしかないというのも情けない話だ。
人には肯定の意志があるだけでなく、否定の意志だってある。
プラス票しか選択できないのは不自然であろう。
理屈からすれば、ゼロ票だってあってしかるべきだ。
いつになってもマイナス票が実現されないおもな原因は
道義的または便宜的な理由ではなく
じつは単なる与党多数派の保身のためではなかろうか。
それに、だいたいだよ、これまで
一票差で当落が決まるなんて、まずあったためしがない。
すでに投票前に結果はムードで決まっているのだ。
そもそも、高額納税者も滞納者も一票というのは不公平。
いっそ、票を買えるようにしたらどうだろう。
いくつでも一票いくらかで買える。
それがそのまま納税になるわけで
税金の使い方を決める人を選ぶようなものだから
筋が通っているのではなかろうか。
というか、投票率の過半数割れがあった昔、
多数決で多数決選挙制度を廃止できなかったのか。
・・・・などと考えているうちに、投票所が見えてきた。
ああ。ますます気が重くなる。
拳銃を所持した役所の職員たちが並んでいる。
どんどん足も重くなる。
死にたくないが帰りたい。
しかし、帰っても不安になるばかり。
ああ。
つくづく、いやな世の中になったものだ。
ログインするとコメントを投稿できます。
2015/09/21
なんということもない女だった。
いわゆる美人でもなんでもない。
目をそらせば済む問題だった。
けれど、それができなかった。
その女から目をそらせないのだ。
しかも、それだけではない。
見るだけでは我慢できなかった。
その肌に触れたくてしかたない。
その女へと腕と指が勝手に伸びてしまう。
「いや。
やめてください!」
いや。
だめなのだ。
やめられないのだ。
触るだけでは満足できない。
まだ何かしなければならない。
撫でる。
揉む。
「誰か、助けて!」
ふざけるな!
助けて欲しいのは、こっちの方だ。
その長い髪をつかむ。
女は思いっ切り悲鳴をあげた。
違う。
こんなんではない。
両手で女の首を絞めてみた。
苦しそうにゆがむ女の表情。
これだ。
しかし、すぐに女は息絶えてしまった。
なんということ。
これではおしまいにならない。
困った。
もっと何かしなければならない。
女の死体を切り刻む。
その骨を折る。
その肉を喰う。
ああ、違う。
こんなんでは満足できない。
気が狂いそうだ。
いや、もう狂っているのか。
ああ、わからない。
底がない。
誰か教えてくれ。
この女は、いったいどういう女なのだ。
ログインするとコメントを投稿できます。
2015/09/06
綱渡りが綱から落ちるのは
失敗じゃない。
むしろ
落ちないことこそ・・・・
白痴みたいに口を開けたまま
上空を見上げる観衆。
「それにしても勇気あるな」
「ふん。狂ってるんだよ」
「普通の人には絶対できないぜ」
「だから、狂ってるんだって」
観衆が見たいのは
綱渡りが落ちるところ。
落葉のように優雅に舞ったりしない。
陶器のように芸もなく
まっすぐ地上へ落ちて砕ける。
「あっ!」
「落ちた!」
だから
君に忠告しておこう。
命綱もなく綱を渡り始めたら
もうすでに失敗なのだ。
ログインするとコメントを投稿できます。