海の墓場
2013/03/10
海の底にいるのに息は苦しくない。
おそらくエラ呼吸でもしているのだろうよ。
エラがあるかどうかは知らないがな。
おれは難破船と難破船に挟まれて身動きできない。
すでに物心ついた頃から挟まれていた。
いつ物心がついたのか忘れたがな。
ここは日光さえ届かない。
暗く深く寂しい、海の墓場だ。
空腹を感じると魚を食べたりする。
あまり旨くはない。
あまり不味くもないがな。
たまに潜水艦が現れて
サーチライトで海底を照らす。
完全に照らされたこともある。
だが、救助してくれそうな気配はなかった。
そのうち浮上するだけだ。
ただそれだけ。
潜水艦の乗組員を責めても仕方ない。
もっとも
責めようにも方法はないけどな。
こんな環境に置かれ続けていると
つい考え込んでしまうよ。
なんのために生きているのかな、とね。
生き続ける理由はないような気がする。
なんとなく死ぬ瞬間が怖いだけだ。
「おやおや。あんまり元気なさそうだな」
隣の難破船の船長が声をかけてきた。
「まるで幽霊みたいだぞ」
そして大笑い。
ふん。
こいつ、いつも笑顔を絶やさない。
なに、大したこっちゃない。
ただ己の死を認めたくないだけなのさ。
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