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  • 白い仔馬

    大晦日の夜、白い仔馬が 村にやって来ました。
    とても不思議な 仔馬でした。

    わた雪のたてがみ、氷柱の脚、雹の目 
    そして 雪紐の尻尾をふり、吹雪のように駆けるのでした。

    仔馬は 小さな村を ぐるぐる駆けまわります。
    それを 村の子どもたちが 窓から眺めています。

    「仔馬が一頭、仔馬が二頭、仔馬が三頭、・・・・」
    百八頭まで数えて 子どもたちは眠ってしまいました。

    村の大人は 誰ひとり 白い仔馬の姿は見ていません。

    でも  元旦の新雪の上に 小さな蹄の跡が 
    いくつもいくつも 残っていたのでした。

     

     

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  • 町のイノシシ

    ある町に 一頭のイノシシが住んでいました。


    イノシシは イノシシなので イノシシらしく 
    まっすぐ走りたいのですが 

    人に怒られたり 建物の壁にぶつかったり 
    たいそう痛い目にあうので 

    イノシシらしくないな と思いながらも 仕方なく 
    ゆっくり曲がって歩くようにしているのでした。


    それでもイノシシは ふと 無性に 
    まっすぐ走りたくなるのでした。 

    とくに 空に架かる虹の橋とか 夕焼けとか 
    きれいな景色を見たりすると

    もうどうにも我慢できなくなるのでした。


    その年の元旦の朝 ついにイノシシは
    輝く朝日に向かって まっすぐ走り出しました。

    でも 走るのは 久しぶりだったので 

    邪魔をする人も 障害物もないのに 
    イノシシは 転んでしまいました。


    ある町に住む イノシシの話でした。

     

     

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  • ヘビの道

    あるところに ヘビの道がありました。

    この道は たくさんのヘビが 
    くねくね 這ってできた道なので 

    くねくね くねくね 曲がっているのでした。


    で、この道がどこへたどり着くのか というと 

    あっちへ曲がったり こっちへ曲がったり 
    また もとに戻ったりして 結局 

    どこにもたどり着けないのでした。

     

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  • なにをしてるの?

    あんた、なにをしてるの? 

    こんなことしてる場合? 
    もっと大切なことあるんじゃない? 

    誰かがなんとかしてくれる 
    なんて思ってない? 

    思ってるよね。 

    それって、妄想だよ! 


    えっ? 

    そう思ってないのに 
    そんなに平気でいられるの? 

    すごいね。

    それって、鈍感だよ!

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    • Tome館長

      2015/03/17 22:36

      「koebu」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2015/03/17 22:35

      「さとる文庫 2号館」もぐらさんが朗読してくださいました!

  • 黄昏

    黄昏が迫っている。
    もう遠目に人の区別も難しい。

    「誰そ彼?」
    語源の如く問わねばならぬ。

    「私ですよ。お爺さん」
    とんとどなたか分からない。

    「もう家に帰りましょ」
    帰る家などあったかの。

    「すっかり日が暮れてしまいます」
    カラスが鳴いた。

    帰ろかな。

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  • 元気な子

    元気な子が元気に歩いていると 
    元気ない子を見つけました。

    元気な子は元気ない子を元気にいじめました。

    そのため 
    元気ない子は元気なく泣きました。


    元気な子がどこかへ行ってしまうと 
    元気ない子は思うのでした。

    もっと元気になりたいな、と。


    その願い、神様が叶えてくれました。

    元気ない子はとても元気になったのでした。


    とても元気な子は元気な子を見つけると 
    とても元気にいじめました。

    そのため 
    元気な子は元気に泣きました。


    とても元気な子がどこかへ行ってしまうと 
    元気な子は思うのでした。

    もっともっと元気になりたいな、と。


    その願い、神様が叶えてくれました。

    元気な子はすごく元気になったのでした。


    すごく元気な子はとても元気な子を見つけると・・・・

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  • 精霊の森

    ねばつく粘菌の小川をまたいで 
    マイマイハタオリの仕事の邪魔をしないように 
    私はそおっと精12霊の森に忍び込んだ。

    日の光はセロファンの木の葉に濾過され 
    不思議な色に空気を染め 
    オチムシャグモの大きな巣を虹色に輝かせていた。

    モライツグミの乞う声があちこちから聞える。
    「チョウダイ、チョウダイ、チョウダイ」


    精霊の宝なんか、私はいらない。

    宝は森のどこかに隠されている
    と村の古老たちは伝説を語るけど 
    宝はちっとも隠されてなんかいなくて 
    この森の端から端まで全部が全部 
    もの凄い宝だということ 
    とっくに私は知ってるから。

    いつか私が死んだって
    立派なお墓なんかいらない。

    この精霊の森の土に
    できるだけ目立たないように
    こっそり埋めて欲しい。

    そうしてもらえれば
    こんな私でも、そのうち
    きれいな宝石の一かけらくらいにはなれるだろうから。


    茂みを分け入ると、広い場所に出た。

    数千年も生き続けている太くて大きなノラの木の幹に
    ハナクラゲが花粉を擦り付けている姿が見えた。

    この浮遊する花虫の気持ち、よくわかる。

    私も近寄り 
    ゴツゴツした煉瓦のような幹に耳を押し当て
    ノラの木の掠れたつぶやき声を
    じっと息を殺して聴いていたかった。

    でも今日は、日暮れ前までに薬草と薬石を
    たくさんたくさん集めなくては。

    森の奥深く 
    アニュイの池へ続く精霊の小道を 
    私は急いだ。

     

     

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  • 火の子

    たいした火山の
    いやもう立派な噴火だよ。

    ドカンドカンと
    天地にとどろく産声あげて

    元気な火の子が飛び出した。


    「これは素敵! いい眺め」


    火の子が落ちたところは
    山のふもとの林の中。

    たちまち草木に火がついて

    ゴウゴウゴウと勇ましく
    ボウボウボウと燃えあがる。


    「これまた素敵! おもしろい」


    火の子は跳ねて転がって
    近くの池に飛び込んだ。

    ものすっごい水音がして
    モワモワ蒸気が舞いあがる。


    「これは大変! 冷たいよ」


    火の子よ、火の子。
    気の毒に。

    元気がすぎて
    火が消えた。

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  • 手 話

    バス停で待っていた。
    もちろん、バスを。

    でも途中で、どうでもよくなってしまった。


    私は双子の姉妹に続いて列に並んでいた。
    それがじつにおかしな姉妹なのだった。

    顔も髪型も服装もそっくりなのは、まあいい。
    なにしろ双子なのだから。

    ふたりは顔を見合わせ、黙ったまま
    せわしなく手を振ったり、首をかしげたりする。

    (狂っているのだろうか?)

    しかし、すぐに私は気づいた。
    彼女たちは手話をしていたのだ。

    見事な技術だ、と感心しながら見ていた。

    見続けていても飽きないのだった。
    もっとも話の内容は全然わからないが・・・・


    時々、彼女たちは笑った。
    普通の女の子のように笑った。

    声を出せないわけでもないのだ。
    おそらく耳に障害でもあるのだろう。

    その笑顔を見ていると飽きなかった。
    時間が止まって欲しいくらいだった。

    バスなんか来なければいい、と思った。


    「なに見てんのよ。さっきからずっと」

    その声は完壁な二重唱だった。
    きれいに並んだ四つの瞳と二つの唇。


    私はあわてて手で喉を押さえ、
    首を大きく横に振った。

    突然、声が出なくなってしまったのだ。
     

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  • 背中のナイフ

    わしの背中にナイフが刺さっている。

    このわしになんの断りもなく、
    いつ、どこで、誰が刺したのやら。

    近頃の、通り魔だかなんだか知らんが
    礼犠というものを知らんのかね。

    まったく迷惑な話だ。
    寝ようとしても、仰向けになれん。

    わしは血も涙もない守銭奴だから
    出血せず、シーツは汚れんのだけどな。


    それにしも、この傷は深いぞ。

    ほら見ろ。
    胸から刃先が出ておる。

    死んだとしても不思議ないぞ。


    なあ、お願いだよ。

    そこの君、このナイフ
    引き抜いてくれんかな。

    おい、なぜだ。
    なぜ逃げようとする。

    そう言えば、まだ君に
    金を貸したままだったかな。

    まさか、君じゃなかろうね。
    わしの背中にナイフを刺したのは。
     

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