標本箱
2008/07/13
鏡の前で、少女の髪を切っていた。
カラスアゲハのような、黒く美しい髪。
まっすぐな前髪に櫛を当てながら
鋏を入れようとしていた。
「はやく大人になりたいな」
唐突に少女が呟く。
せわしなく羽ばたく、その長いまつげ。
「大人になって、どうするの?」
「うんときれいになるの」
「きれいになって、どうするの?」
「あのね」
「うん」
「標本箱にピンでとめるの」
思わず切りすぎた。
「わあ、黒い雨みたい」
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