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2013/02/13
大富豪の伯父が亡くなった。
少しくらい遺産が入るかな
と期待していたら
メイドが届いた。
「初めまして。新しいご主人様」
なるほど、確かにメイドだ。
叔父の家で見かけた記憶がある。
「あらあら! これはまた・・・・」
俺の部屋はひどく散らかっていたのだ。
「とりあえず、お掃除いたしますね」
「・・・・う、うん」
そのままメイドは居座り、
俺のアパートに住み込むことになった。
とてもメイドを雇う余裕などないのだが
手当はいらない、と彼女は言う。
「前のご主人様のご指示ですから」
「いや、しかし・・・・」
彼女は、俺が放っておいても
買い物をして食事を用意してくれる。
電化製品や家具なども勝手に買い込む。
そのうち手狭になってくると
隣の空き部屋まで借りてしまった。
俺なんかより、よっぽど金持ちなのだ。
なんだか申しわけないので
マッサージをしてやろうと申し込むと
「とんでもございません!」
逆にマッサージされてしまった。
しかも本格的にである。
あんまり気持ち好いので
隣人が怪しむほど大声をあげてしまった。
いやいや、なるほど。
これがメイドというものか。
まったくこれでは、叔父も早死にするわけだ。
2013/02/09
寒い。
とても寒い。
裸だった。
肌寒いはずだ。
どうやら夜中、
ここは学校の保健室らしい。
なぜか両手両足は
革ベルトで寝台に固定されている。
その寝台を取り囲むように
教え子である生徒たちが見下ろしている。
「気がついたみたい」
「しょうがねえな」
「こいつ、どうしようか」
「まったく、教師だってだけで偉そうにしてさ」
「うんと痛めつけましょうよ」
「もちろんさ。痛めつける。甘やかさないで」
「そう。甘やかしてはダメね」
「そうだそうだ。大人はつけ上がるから」
なんなのだ、これは?
月明かりだけの暗い保健室。
夜の校舎は施錠され、
朝まで無人になるはずだ。
小さく蠢く指の群。
持ち上げられる危険な道具。
幼い顔、顔、顔、顔、・・・・
なのに目だけ大人びている。
気が遠くなるほど暗い
それら瞳孔の闇。
2013/02/08
彗星が夜空を焦がしていた。
診療室では女医が少年を治療していた。
「熱いよ、先生! すごく熱い!」
地団太を踏む、半ズボンの少年。
少年のはだけた胸に煙草の火を押し当てながら
その膝小僧に触れる、女医の細い指。
「ごめんなさいね、聴診器じゃなくて」
少年の他に患者は見当たらない。
看護師さえいない、静かな診療室。
「さあ、私の指と指の間を舐めるのよ」
突き出されたものを見つめる、少年。
照明は、今にも切れそうな蛍光灯。
銀の指輪が鈍く光る。
「大丈夫よ。これは、お薬なんだから」
診療室の窓から見えるのは
燃える軍艦の旗。
思わず眉をひそめるほどに
焦げ臭いにおいがするのだった。
2013/01/28
人のなる木には
いろんな人がぶら下がっている。
青い少年、熟れた婦人、腐った老人・・・
みんな裸のまま風に揺れている。
人の木を見上げていると楽しい。
木の実のくせに恥ずかしがるのも笑える。
これら人の実は
どんな果実よりもおいしい。
未熟な実も熟れすぎた実も
それなりに味がある。
枝からもぎ取ると必ず悲鳴をあげる。
それぞれの実にふさわしい声で・・・
わき腹にかぶりつくと泣き叫ぶ。
やはり、それぞれの実にふさわしく・・・
実の中心に種が一個だけ入っている。
この種を土に埋めると
やがて人の芽が出る。
生長すると、やはり人の木になる。
ところが、この人の種、
中身が妙にうまいから困る。
つい殻を割って食べてしまう。
だから、人の木は
なかなか増えないのだ。
おや、珍しい。
おいしそうな少女の実がなっている。
どれ、ひとついただこうか。
2013/01/13
家は森の中央広場にあり、
外出する時は森のトンネルを抜けてゆく。
ところが、その日
昼なお暗いトンネルの途中に美女がいて
おれの前に立ちはだかった。
おれは尋ねる。
「こんなとこで、なにしてる?」
美女は両腕を広げて答える。
「通せんぼ」
おれはムッとして
美女を押しのけようと張り手を出す。
その途端
見事な一本背負いで投げられてしまった。
おれは受身で衝撃を最小限に食い止め、
なんとか平静を装いながら立ち上がる。
「ふん。小癪な」
小娘に負けてなるものか。
おれは服を脱ぎ、
裸になって四股を踏み始めた。
「ふん。粗末な」
吐き捨てるように呟くと
美女も服を脱いで裸になった。
(だ、だまされた・・・)
小娘どころではなかった。
美女は悪魔のごとく微笑み、
天使のごとく白き両腕を広げる。
(くそっ!)
どうしても通らせてはくれないらしい。
2012/12/22
すっかり村は秋景色、
キノコの山はキノコだらけ。
おかしな色のキノコ
変な形のキノコ
わけわからぬキノコがたくさん生えた。
すると町の娘たち
キノコ採りにやって来た。
ルージュとマニキュア
塗りたくって
それ以上短くできそうもない
ミニスカート穿いて
無茶苦茶な採り方、
滅茶苦茶な食べ方をする。
ハイヒールで枯葉を蹴飛ばしながら
「こらっ! キノコども、出て来い!」
採ったキノコを生のまま食べ、
「ううっ。なにこれ、吐きそう」
キノコでないものまでキノコ汁。
「あらっ? キノコって骨があるのね」
失禁して、ヨダレを垂らしながら
「あは、こりゃ効くわ。あは、死にそ」
木に登って、枝の上で裸踊り。
「だ、誰か助けて! わ、私を止めて!」
彼女たちを見ていると
世も末だな、と思う。
見上げれば、さわやかな秋の空。
ムクムクふくらむ
キノコそっくりな妙な雲。
2012/11/30
あの子が欲しい
あの子じゃわからん
この子が欲しい
この子じゃわからん
誰でもいいや
どこ欲しい
あそこが欲しい
あそこじゃわからん
ここ欲しい
ここじゃわからん
どこでもいいや
どうするつもり
あんなことするの
あんなことじゃわからん
こんなことするの
こんなことじゃわからん
どうでもいいや
よくないよ
そんなことするな
そんなことじゃわからん
2012/11/25
「ねえ。ちょっと遊んでいかない?」
見知らぬ美女に誘われた。
遊んでもいいかな、と思った。
入場料はとても高かった。
それでもいいや、なんて思った。
世にも不思議な大人の遊園地。
子どもは入場禁止なのだった。
脱衣所で裸になり、
そのまま鏡の迷路に入る。
たくさんの男女が迷っていた。
やがて、お馬にさせられ、
メリーゴーランドでハイドードー。
コーヒーカップに注がれたら
洗濯機みたいに回されて
理性も羞恥心も吹っ飛んだ。
ジェットコースターに飛び乗れば
絶叫しつつ、人生レールを踏み外す。
怖いのだろうか
泣きわめく男たち。
楽しいのだろうか
笑い転げる女たち。
大人の遊園地は眠らない。
眠くなると、追い出される。
「バイバイ。それじゃ、また来てね!」
2012/11/24
「殺して欲しいの」
かわいい顔して彼女がささやく。
「お願い。私を殺して」
だから、殺してしまった。
彼女は死んでからも美しかった。
窓から風が吹き込む。
このままにしておけない。
とりあえず死体を片づけなければ。
裏庭に穴を掘り、
そこへ彼女の死体を埋めた。
汗をかいたので風呂に入った。
それから夕飯を食べた。
テレビを観て、そろそろ寝る時間だった。
彼女が窓から入ってきた。
そのまま彼女は浴室へ向かう。
廊下が泥だらけになってしまった。
仕方ないので掃除をする。
ところが、途中で邪魔された。
湯上りの美しい彼女。
「ねえ、お願い」
そのやるせない表情。
「もう一度、殺して」
2012/11/13
あんまりウサギの耳が長いから
なんだかタヌキは困ってしまう。
「ウサギさん、ぼくの鼓動が聞こえますか?」
その長い耳を折りながら
ウサギは恥ずかしそうにうなずく。
「ええ、大きな音がするわ。
それに・・・」
「他にも聞こえるのですか?」
「ええ。ネズミの骨がきしむ音とか」
「僕がネズミを食べたこと、なぜ、ご存知ですか?」
「あなた、よく噛まないで飲み込んだでしょ?」
ウサギはタヌキから目をそらす。
「さっきまで、鳴き声が聞こえていたわ」
「まいったなあ」
タヌキはウサギを見つめる。
「まったく、じつにまいってしまうなあ」
「タヌキさん、そろそろ失礼します」
ウサギはあわてて立ち上がる。
「わたくし、帰らせていただきます」
「ウサギさん、待ってください」
タヌキはウサギの細い前足をつかむ。
「ぼくの筋肉の音は聞こえますか?」
あんまりタヌキの筋肉がすごいので
なんだかウサギは諦めてしまう。