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Tome館長

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    Works 3,356
  • セノコノヒラソ

    「セノコノヒラソ、って言ってみろ」
    また命令するのね。

    「セノコノ・・・・」
    あれ、なんだっけ?

    「セノコノヒラソ、だ」
    「・・・・ヒラソ」

    「続けて言わなくちゃダメだ!」
    怒鳴らなくたっていいのに。

    「セノコノヒラソ」

    「よしよし!」
    なんだか知らないけど、妙に喜んでる。


    「次は、あたしにセノコノヒラソして、って言え」

    なんだかいやな感じだなんだけど
    殴られるのはもっといやだから・・・・

    「あたしにセノコノヒラソして」

    「よしよしよし!」
    とっても喜んでる。

    「それじゃ、しょうがないな。
     たっぷりセノコノヒラソしてやろう」


    そうしてあたしは、セノコノヒラソ
    とかいうのを、たっぷりされてしまった。

     

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  • やさしく殺して

    あなたは殺し屋
     非情な男

       でも
        ナイフはやめて

          拳銃も使わないで


    わたしは標的
     か弱き女

       だから
        やさしくささやいて

          やさしく抱いて


    そして
     やさしく

       とてもやさしく


           わたしを殺して

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    • Tome館長

      2014/02/08 00:25

      「しゃべりたいむ・・」かおりさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2014/02/08 00:24

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 真の闇

    いびつな形に縛られて

    その肉太の
    朱筆の責めの鋭さよ。


    「ああ、なりませぬ」

    是非もなし。


    転がされ

    揉まれ、落とされ
    踏み潰されて

    大粒なみだ
    こぼれます。


    「泣くとは笑止。
     笑止の障子の鎖鎌!」


    ガマの鳴き声
    凄まじく

    帰る家などありゃしない。


    十字架、念仏、真の闇。
     

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  • 赤いハイヒール

    故郷の山道をひとり歩いていた。

    お盆休みで実家に帰省中、
    なんとなく山に登りたくなったのだ。


    念仏のようなセミの声、
    汗と木漏れ日と草いきれ。

    少年の頃の遠い記憶が重なる。


    甘酸っぱい香りがした。

    急な坂道の真ん中、
    目の前に若い女が倒れていた。

    白い夏服、小麦色の肌、
    そして赤いハイヒール。


    「なんでもないの」

    死体ではなかった。
    僕の足音に気づいたのだろう。

    「歩き疲れたから休んでいるだけ」

    あどけない声だった。

    かすかに薄目を開けたが
    そのまま力尽きて閉じてしまった。

    なんとも美しく、また
    なんとも不思議な寝顔だった。


    僕はひざまずき、
    そっと彼女のハイヒールに触れてみた。

    「山道を歩くなら、裸足がいいよ」
     

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  • 弓の名人

    ある山に猟師がいた。

    弓の名人であった。
    狙った獲物は逃さない。

    どんなに高く飛ぶ鳥であろうと、
    どんなに速く駆ける獣であろうと。


    畜生どもには伝わるらしい。

    猟師が狙えば鳥は落ちてくる。
    猟師が射る前に獣は倒れてしまう。

    弓矢などいらないのだった。


    ある日、この猟師が山を下り、
    町で出会った娘に一目惚れした。


    さすが弓の名人。

    町一番の長者の箱入り娘を
    さっそく身ごもらせてしまった。

    娘のからだに触れもせず。
     

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  • 理想の鏡

    どこか誰も知らないところに
    理想の鏡があるという。

    理想の鏡はふたつあり、
    「異性の鏡」と「同性の鏡」があるという。


    「異性の鏡」の前に立てば、異性の姿が映る。
    あなた自身のはずなのに、なぜか異性の姿。

    しかも、あなたにとって理想の異性。

    あなたは鏡に映る異性に恋をする。
    なぜなら、まさしく理想の異性なのだから。

    あなたが微笑めば、鏡の中の異性も微笑む。
    あなたが服を脱げば、鏡の異性も服を脱ぐ。

    あなたがすることは
    鏡の異性も真似をする。

    この鏡の前で死ぬ者は
    とても幸福な人に違いない。


    「同性の鏡」の場合、同性の姿が映る。
    やはり、あなたにとって理想の同性。

    しかし、この鏡は見ない方がいい。

    この鏡の前で死ぬ者は
    とても不幸な人に違いない。
     

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  • 水着の周辺

    大きな島だ。
    半島かもしれない。

    すぐ近くで一組の家族が遊んでいる。
    ビーチボールを使っているようである。

    なぜか視界が限定されているため
    ここからでは家族の姿を見ることができない。

    にぎやかな笑い声だけが聞こえてくる。


    やがて、少年と少女が目の前に現れる。
    兄と妹だろうか。

    よく似ている。
    双子かもしれない。

    これから水着に着替えるつもりだ。

    ふたりは、互いに裸を見られないよう
    互いに白い肌を茂みに隠そうとしている。

    でも、ふたりの姿はここから丸見えだし、
    ふたりがこちらの視線に気づく気配はない。

    それでも、なんとなく気になるのか
    恥ずかしそうに着替えをしている。


    少年は先に着替え終わり、
    先に視界の外へ出てしまった。

    残った少女は
    なかなか着替えが進まない。

    こちらに背中とお尻を向けて、
    かかとが上がったり下がったりする。

    妙に可愛い。
    絵のような愛らしさ。


    でも、そのうち不安になってくる。

    なぜかと言うと、
    少女が裸でいる時間があまりにも長いから。


    ひょっとして彼女、
    こちらの視線に気づいているのだろうか。
     

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  • 脱ぐ女

    朝の通勤電車の中である。
    ただし、それほど混んではいない。


    「失礼して脱がせていただきます」

    礼儀正しく断りを入れてから
    女はコートを脱ぎ始めた。

    乗客らは怪訝な表情で女を見る。

    女はコートを折り畳むと網棚に置き、
    続いて上着も脱ぐのだった。

    優雅な仕種。
    美しくさえあった。

    よく知らないが、なんとか流の
    脱衣の作法に則っているのかもしれない。

    流れるような無駄のない所作である。

    女は上着も網棚に載せた。
    電車が激しく揺れても自然体のまま。

    それから女は下着も脱ぎ始めた。

    隠されていた卑猥な曲線や曲面が
    乗客らに晒されてゆく。

    さらに靴も靴下も脱いでしまい、
    ついに完全な裸の女になってしまった。


    女は片手を腰に当て
    もう片手で吊革につかまる。

    涼しげな表情で車窓の風景を眺める。

    静かな車内。
    音が消えていた。


    やがて電車は駅のホームに停まった。
    ドアが開き、裸の女は下車した。

    ドアが閉まり、電車は再び動き始めた。
    乗客らは夢から覚めたような気がした。

    だが、その夢はまだ続いていた。
    網棚の上に女の忘れ物が残っていたから。
     

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  • 二頭立て馬車

    王女を乗せた二頭立て馬車が止まらない。

    「止めて、止めて! 誰か、助けて!」
    いくら叫べど止まらない。

    縦に馬を二頭並べた王家の馬車。
    先頭が若い雌馬、後ろに若い雄馬。

    この雄馬、やむにやまれず発情している。
    目の前の尻に追いつこうと頑張っている。

    だけど、雌馬は発情する気分じゃない。
    迫り来る雄馬を恐れ、必死に逃げている。

    馬のつなぎ方が悪かった。
    しかし、もう遅い。

    止まらない。
    もう誰にも止められない。

    御者はいない。
    とっくに振り落とされた。

    右も左もわからぬ王女が一人きり。

    幼い王女は失神しそう。
    無理もない。

    二頭立て馬車は悩ましく駆け続ける。
    川越え、山越え、異国に入る。

    しかしながら、はたして性欲と恐怖は
    疲労と空腹に勝ち続けられるものだろうか。


    ついに、二頭立て馬車は止まった。


    さて、雌馬と雄馬、どちらが勝って
    どちらが負けたのか。

    よくわからぬ。
    まだ王女は幼くて。
     

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  • トロッコ

    一台のトロッコに男三人が乗っている。
    そのうちの一人が俺だ。

    目の前の二人は裸で抱き合っている。

    たくましい筋肉。
    日に焼け、汗ばんだ皮膚。

    片方の男と視線が合ってしまう。
    ひどく暑いはずなのに寒気がした。

    「俺に触れるなよ」
    一言注意しておく。

    「もし触れたら?」
    「おまえを刺してやる」

    なぜか手に万年筆を持っていた。
    そして、なぜかキャップが外れない。

    男はニヤリと笑う。
    「いいとも。刺してみな」
     

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