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2014/10/26
「セノコノヒラソ、って言ってみろ」
また命令するのね。
「セノコノ・・・・」
あれ、なんだっけ?
「セノコノヒラソ、だ」
「・・・・ヒラソ」
「続けて言わなくちゃダメだ!」
怒鳴らなくたっていいのに。
「セノコノヒラソ」
「よしよし!」
なんだか知らないけど、妙に喜んでる。
「次は、あたしにセノコノヒラソして、って言え」
なんだかいやな感じだなんだけど
殴られるのはもっといやだから・・・・
「あたしにセノコノヒラソして」
「よしよしよし!」
とっても喜んでる。
「それじゃ、しょうがないな。
たっぷりセノコノヒラソしてやろう」
そうしてあたしは、セノコノヒラソ
とかいうのを、たっぷりされてしまった。
2014/02/07
あなたは殺し屋
非情な男
でも
ナイフはやめて
拳銃も使わないで
わたしは標的
か弱き女
だから
やさしくささやいて
やさしく抱いて
そして
やさしく
とてもやさしく
わたしを殺して
2013/09/04
いびつな形に縛られて
その肉太の
朱筆の責めの鋭さよ。
「ああ、なりませぬ」
是非もなし。
転がされ
揉まれ、落とされ
踏み潰されて
大粒なみだ
こぼれます。
「泣くとは笑止。
笑止の障子の鎖鎌!」
ガマの鳴き声
凄まじく
帰る家などありゃしない。
十字架、念仏、真の闇。
2013/08/25
故郷の山道をひとり歩いていた。
お盆休みで実家に帰省中、
なんとなく山に登りたくなったのだ。
念仏のようなセミの声、
汗と木漏れ日と草いきれ。
少年の頃の遠い記憶が重なる。
甘酸っぱい香りがした。
急な坂道の真ん中、
目の前に若い女が倒れていた。
白い夏服、小麦色の肌、
そして赤いハイヒール。
「なんでもないの」
死体ではなかった。
僕の足音に気づいたのだろう。
「歩き疲れたから休んでいるだけ」
あどけない声だった。
かすかに薄目を開けたが
そのまま力尽きて閉じてしまった。
なんとも美しく、また
なんとも不思議な寝顔だった。
僕はひざまずき、
そっと彼女のハイヒールに触れてみた。
「山道を歩くなら、裸足がいいよ」
2013/08/05
ある山に猟師がいた。
弓の名人であった。
狙った獲物は逃さない。
どんなに高く飛ぶ鳥であろうと、
どんなに速く駆ける獣であろうと。
畜生どもには伝わるらしい。
猟師が狙えば鳥は落ちてくる。
猟師が射る前に獣は倒れてしまう。
弓矢などいらないのだった。
ある日、この猟師が山を下り、
町で出会った娘に一目惚れした。
さすが弓の名人。
町一番の長者の箱入り娘を
さっそく身ごもらせてしまった。
娘のからだに触れもせず。
2013/07/26
どこか誰も知らないところに
理想の鏡があるという。
理想の鏡はふたつあり、
「異性の鏡」と「同性の鏡」があるという。
「異性の鏡」の前に立てば、異性の姿が映る。
あなた自身のはずなのに、なぜか異性の姿。
しかも、あなたにとって理想の異性。
あなたは鏡に映る異性に恋をする。
なぜなら、まさしく理想の異性なのだから。
あなたが微笑めば、鏡の中の異性も微笑む。
あなたが服を脱げば、鏡の異性も服を脱ぐ。
あなたがすることは
鏡の異性も真似をする。
この鏡の前で死ぬ者は
とても幸福な人に違いない。
「同性の鏡」の場合、同性の姿が映る。
やはり、あなたにとって理想の同性。
しかし、この鏡は見ない方がいい。
この鏡の前で死ぬ者は
とても不幸な人に違いない。
2013/07/10
大きな島だ。
半島かもしれない。
すぐ近くで一組の家族が遊んでいる。
ビーチボールを使っているようである。
なぜか視界が限定されているため
ここからでは家族の姿を見ることができない。
にぎやかな笑い声だけが聞こえてくる。
やがて、少年と少女が目の前に現れる。
兄と妹だろうか。
よく似ている。
双子かもしれない。
これから水着に着替えるつもりだ。
ふたりは、互いに裸を見られないよう
互いに白い肌を茂みに隠そうとしている。
でも、ふたりの姿はここから丸見えだし、
ふたりがこちらの視線に気づく気配はない。
それでも、なんとなく気になるのか
恥ずかしそうに着替えをしている。
少年は先に着替え終わり、
先に視界の外へ出てしまった。
残った少女は
なかなか着替えが進まない。
こちらに背中とお尻を向けて、
かかとが上がったり下がったりする。
妙に可愛い。
絵のような愛らしさ。
でも、そのうち不安になってくる。
なぜかと言うと、
少女が裸でいる時間があまりにも長いから。
ひょっとして彼女、
こちらの視線に気づいているのだろうか。
2013/07/08
朝の通勤電車の中である。
ただし、それほど混んではいない。
「失礼して脱がせていただきます」
礼儀正しく断りを入れてから
女はコートを脱ぎ始めた。
乗客らは怪訝な表情で女を見る。
女はコートを折り畳むと網棚に置き、
続いて上着も脱ぐのだった。
優雅な仕種。
美しくさえあった。
よく知らないが、なんとか流の
脱衣の作法に則っているのかもしれない。
流れるような無駄のない所作である。
女は上着も網棚に載せた。
電車が激しく揺れても自然体のまま。
それから女は下着も脱ぎ始めた。
隠されていた卑猥な曲線や曲面が
乗客らに晒されてゆく。
さらに靴も靴下も脱いでしまい、
ついに完全な裸の女になってしまった。
女は片手を腰に当て
もう片手で吊革につかまる。
涼しげな表情で車窓の風景を眺める。
静かな車内。
音が消えていた。
やがて電車は駅のホームに停まった。
ドアが開き、裸の女は下車した。
ドアが閉まり、電車は再び動き始めた。
乗客らは夢から覚めたような気がした。
だが、その夢はまだ続いていた。
網棚の上に女の忘れ物が残っていたから。
2013/07/04
王女を乗せた二頭立て馬車が止まらない。
「止めて、止めて! 誰か、助けて!」
いくら叫べど止まらない。
縦に馬を二頭並べた王家の馬車。
先頭が若い雌馬、後ろに若い雄馬。
この雄馬、やむにやまれず発情している。
目の前の尻に追いつこうと頑張っている。
だけど、雌馬は発情する気分じゃない。
迫り来る雄馬を恐れ、必死に逃げている。
馬のつなぎ方が悪かった。
しかし、もう遅い。
止まらない。
もう誰にも止められない。
御者はいない。
とっくに振り落とされた。
右も左もわからぬ王女が一人きり。
幼い王女は失神しそう。
無理もない。
二頭立て馬車は悩ましく駆け続ける。
川越え、山越え、異国に入る。
しかしながら、はたして性欲と恐怖は
疲労と空腹に勝ち続けられるものだろうか。
ついに、二頭立て馬車は止まった。
さて、雌馬と雄馬、どちらが勝って
どちらが負けたのか。
よくわからぬ。
まだ王女は幼くて。
2013/06/27
一台のトロッコに男三人が乗っている。
そのうちの一人が俺だ。
目の前の二人は裸で抱き合っている。
たくましい筋肉。
日に焼け、汗ばんだ皮膚。
片方の男と視線が合ってしまう。
ひどく暑いはずなのに寒気がした。
「俺に触れるなよ」
一言注意しておく。
「もし触れたら?」
「おまえを刺してやる」
なぜか手に万年筆を持っていた。
そして、なぜかキャップが外れない。
男はニヤリと笑う。
「いいとも。刺してみな」