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  • 猫の耳

    2016/03/06

    愉快な話

    彼女の耳は、猫の耳。 

     

    欲望の声 

    つまり、相手の本音が聞こえます。

     

     

    「腹へった」

    「ああ、眠りたい」

    「ふん。どうもつまらん」

    「なんかいいことが起こらんかな」

    「おっ。かわいい猫耳の子がこっち見てる」

     

     

    ただし 

    あんまり難しい声は聞こえません。

     

    だって所詮、猫だもん。

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  • 熊の手

    2016/03/05

    愉快な話

    彼女は一見、ごく普通のお嬢さん。

     

    清楚な印象を与える顔立ちで 

    立ち居振る舞い言動なんかも、そんな感じ。

     

    ところが、彼女の右手は毛深くて 

    指が太くて短くて、しかも爪が異様に長く鋭い。

     

    つまり、そう。

    まるで熊の手みたいなのだ。

     

    毛を抜いても、すぐ生える。

    爪を切っても、すぐ伸びる。

     

    そして実際、ほとんど熊の手そのものなのだった。

     

    数年前、電車内で彼女の尻を撫でた痴漢がいたが 

    不運な彼は彼女の右手で殴られ、首の骨を折ってしまった。

     

    つい反射的に右手が出たらしい。

     

    前世が熊だったのか、先祖がマタギだったのか 

    それとも古代中国の宮廷料理人だったのか  

    なんの因果か彼女にはわからない。

     

    いっそ手首から切り落としてしまおうか。

    そんなふうに思い詰めたこともあったらしい。

     

    しかし、いざ彼女が実行しようとすると 

    あっさり熊の手が刃物を払いのけてしまう。

     

    それで彼女、さすがに諦めてしまった。

     

    最近になって、とうとう彼女は 

    熊キャラのコスプレイヤーになる決意をしたらしい。

     

    原作は同人誌に連載中の彼女自身の漫画。

    しかも器用なことに、それは熊の手が描いている。

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  • 芋虫と毛虫

    2016/03/04

    愉快な話

    芋虫と毛虫が出会いました。

     

    「おい、芋虫」

    「なんだ、毛虫」

     

    「おまえ、毛がないな」

    「そりゃ、おいら芋虫だもん」

     

    「おれは毛があるぞ」

    「そりゃ、あんた毛虫だもん」

     

    「そういうもんか」

    「そういうもんさ」

     

    「おまえ、将来なんになるんだ?」

    「わからんけど、とりあえずサナギになるんだろな」

     

    「マユとか作るつもりか?」

    「まあ、作りたくなったらね」

     

    「それから蝶になるわけか?」

    「あるいは蛾かな」

     

    「ふん。つまらん」

    「仕方ないだろ、芋虫なんだから」

     

    「決めつけるなよ」

    「決めつけなくても、決まってるさ」

     

    「おれは、もっと大きくなってやる」

    「大きな毛虫?」

     

    「そう。大きな大きな毛虫になってやる」

    「きらわれるだけよ」

     

    「べつに好かれたくなんかないさ」

    「毛虫だもんね」

     

    「そう。毛虫だもん」

    「でも、そのうち変わっちゃうよ」

     

    「変わるもんか」

    「変わるって」

     

    そこに鳥が現れ、餌を見つけました。

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  • 病弱夫人

    2016/02/26

    愉快な話

    彼女は美しき人妻。

    笑顔が素敵。

     

    ただし、病弱。

    強い刺激にめまいする。

     

     

    直射日光は天敵で 

    外出なんぞ、もってのほか。

     

    帽子かぶって、サングラスして 

    日傘さしても耐えられない。

     

     

    日がな一日、家の中。

    それでも不安はつきなくて。

     

    料理は危険、火に刃物。

    掃除もあぶない、立ちくらみ。

     

    洗濯機にさえ目がまわり 

    ふとんかぶって寝てばかり。

     

     

    住み込みメイドや使用人 

    とっかえひっかえ雇っては 

     

    とっかえひっかえ駄々をこね 

    あれやこれやの無理難題。

     

     

    なのに彼女の旦那さん 

    ごく普通の会社員。

     

    とっても気弱でやさしくて 

    文句も言わずに働くの。

     

    バイトしたり、内職したり 

    夫人を愛でる暇もなし。

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  • 狐の神輿

    2016/01/15

    愉快な話

     ワッショイ ワッショイ

     みこしが通る

     

     ワッショイ ワッショイ

     きつねも通る 

     

     

    笛太鼓の音頭とともに 

    町内会の神輿が家の前の通りを通る。

     

    ゆっくり走行するお囃子のトラックの後に 

    大人神輿と子ども神輿、および父兄の集団が続く。

     

    その前後左右には町内会の役員の方々。

    まことにご苦労なことだと思う。

     

    この神輿がどこから来て、どこへ行くのか 

    また、どのような意味があるのか、じつはよく知らない。

     

    おそらく普段は、近所の神社に納められているのだろう。

    毎年、いくばくか神社奉賛会費なるものを支払わされている。

     

    神社では獅子舞の見世物もあるそうだが 

    わざわざ行くのも億劫なので、まだ見物したことはない。

     

    それはともかく、なんだかおかしい。

     

    神輿を担ぐ人々の中に狐がいる。

    大人神輿にも子ども神輿にも、どちらも一匹ずつ。

     

    お面ではない。

    着ぐるみでもない。

     

    犬が立ったみたいな形の、本物っぽい狐だ。

    目が悪いので、なにかの錯覚だろうか。

     

    デジカメで写真を撮ろうとしたが 

    いくら探してもファインダーの中に狐の姿が見つからない。

     

    とりあえず、狐がいたあたりを撮りまくる。

     

    当然ながら、と言うべきか、やはり

    どの静止画像にも狐の姿は写っていなかった。

     

    つまり、なんということはない。

    いたずら好きな狐に化かされたのだ。

     

    そもそも、あの神社は稲荷神社ですらない。

     

     

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  • 読んではいけない本

    2016/01/05

    愉快な話

    お父さんの書斎には大きな本棚がいくつもあって 

    たくさんの本が数え切れないほど並んでいる。

     

    どれでも僕が勝手に読んで構わないことになっているんだけど 

    ただ一冊だけ、僕が読んではいけない本がある。

     

    それは本棚の一番高いところにあって 

    ナンバーキーが付いた小さな扉の奥に入っている。

     

    「なぜ読んではいけないの?」

    「読めば必ず不幸になるからさ」

     

    「どうして?」

    「読めばわかる」

     

    お父さんは詳しく教えてくれない。

     

    「そんな本は捨てればいいのに」

    「捨てると、もっと不幸になる」

     

    「どうして?」

    「読めばわかる」

     

    意地悪なお父さん。

     

     

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  • 危機管理室

    2015/12/20

    愉快な話

    「指導教官殿、下半身が自白しそうであります」

    何を口走っておるのだ、おれは。

     

    そもそも、目の前で悩ましく美脚を組み替えるミニスカ美女に 

    心を奪われている場合ではないのだ。

     

    「あら、とても苦しそうね。我慢はカラダに毒よ」

    うう、その通り。早く楽になりたい。

     

    敵国からの見えざる侵略の手が政財界の中枢にまで届いている 

    という話、まんざら噂だけではなさそうだ。

     

    「失礼いたします」

    沈黙を破るように人型ロボットの等身大メイドが入室してきた。

     

    「コーヒーもお茶も召し上がらないそうなので

     お水をお持ちしました」

     

    どうせ自白剤が入っているに違いない。

    いやいや。催淫剤かもしれないぞ。

     

    「今年の夏は雨が多く、日照時間が少ないそうですね」

    とりあえず天気の話でもして誤魔化すしかあるまい。

     

    「・・・・そのようね」

    データを確認したかのように、美女は再び美脚を組み替える。

     

    案外、この女も人型ロボットかもしれないぞ。

     

     

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  • 夢カメラ

    2015/11/29

    愉快な話

    夢カメラ 
    というのがあって 

    そのカメラを持って 
    夢の中でシャッターを押すと 

    ちゃんと夢の中の場面を 
    画像として録画することができて 

    なかなか夢があって 
    素敵なんだけど 

    さて 

    夢の中で人物を 
    いざ撮ろうとすると 

    たとえ夢の中だとしても 
    本人にカメラを向けるのは

    ちょっと失礼 
    というか 

    勇気が出なくて 
    ためらわれてしまうんだけど 

    ほれ 
    それはそれ 

    なにせ夢だから 

    そこは百貨店の 
    婦人服売り場みたいなところなんだけど

    まったく見知らぬ女の子が
    すり寄ってきて 

    あまつさえ 
    ぎゅっと抱きついてくるので 

    なんだか嬉しいような 
    ちょっと不安な気持ちになっていると 

    その女の子が 
    僕の手から夢カメラを取り上げて 

    彼女の友だちの女の子たちを 
    パチパチ撮り始めたり 

    友だちでもない 
    通りがかりの異国の女の子まで 

    平気でパチパチ撮るものだから 
    いくら夢の中とはいえ 

    それはないだろう 
    という気持ちになってしまって

    さらには 
    その異国の女の子が 

    ほほえんだり 
    ポーズまでとってくれて 

    まるで本当の夢みたいで 

    調子に乗って 
    スカートの中まで撮ろうとするので 

    いくらなんでも 
    それはやり過ぎではないか 

    などと思ってしまったため

    とうとう 
    夢から覚めてしまった 

    わけだけれども 

    その夢の中の夢カメラは 
    現実の枕もとにはなくて 

    もしかすると 
    もしかするかもしれないので 

    この寝室とは別の部屋にある 
    愛用のデジカメを 

    念のため 
    念写ということもあるかもしれないから 

    確認のため 
    スイッチを入れてみたら 

    表示はやはり 
    じつに現実的で 

    「画像がありません」

     

     

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  • 妖怪しりとり

    2015/11/05

    愉快な話

    とても人間とは思えない奴がやって来て 
    変なことを言う。

    「しりとりをしよう」

    「は?」
    わけがわからない。

    「は、じゃない。
     しよう、だから、最後は、う、だ。 う」

    「う・・・・浮かばない」
    「命までは取らんから安心しな」

    「な・・・・何者ですか?」
    「考えろ、自分で。 何者だと思う?」

    「う・・・・浮かばない」
    「いかんな。 同じセリフは許されておらんのだがのう」

    「う・・・・浮かばないけど、ひょっとして妖怪?」
    「いかにも。 妖怪しりとり、じゃ」

    「じゃ・・・・じゃあ、最後が、ん、で終わってはいけないの?」

    「飲み込めてきたか。 その通り。
     ただし、ん、で終わっても、セリフを続ければ救われるがな」

    「なるほど」
    「どれ、これより本番に入る」

    「る・・・・ルビー」
    「ビールでも飲みたいものだ」

    「だけど、もし負けたら、どうなるんです?」
    「すまぬが、尻をいただく」

    「えっ?」

    「えっ、ではない。 く、だ。
     おれの勝ちだから、おまえの尻をもらう」

    「う・・・・うっそー!」


    しかし、うそではなかった。

     

     

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  • 迷惑な騒音

    2015/10/28

    愉快な話

    掘削機で岩盤を蹴散らされるみたいに起こされた。

    ものすごい騒音だった。
    近所で土木工事でもやっているのだろう。

    寝ぼけ眼で時計を見る。
    非常識な時間帯とは言えない。

    しかし、うるさい。
    とても眠っていられない。

    顔を洗って歯を磨いてトイレに入る。
    出して出て服を着てから玄関を出る。

    部屋の構造や窓の位置で錯覚するのか 
    音がするのは家の中で推定した方角と違うようだ。

    しばらく自宅の周囲をうろうろする。
    どうも騒音の発生源が特定できない。

    位置ははっきりしないものの 
    それらしき家の門柱のチャイムを鳴らしてみる。

    留守なのか騒音で聞こえないのか 
    返事はなく、誰も出てこない。

    腹が立ち、その家の玄関に向かって怒鳴る。
    「うるさいぞ!」

    すると、そのすぐ隣の家の窓が開いて 
    「うるさいわよ!」

    その反対に建つマンションのベランダからは 
    「いい加減にしろよ!」

    さらに向かいの家の玄関ドアが開き 
    「そっちこそうるさいぞ!」

    それから、しばらく怒鳴り合いが続いて 
    あのひどい騒音が聞こえなくなったくらいである。

     

     

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