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  • 罪悪感

    皿の上に饅頭が二個のっていた。

    それは兄と僕、
    僕たち兄弟のオヤツだった。

    兄はまだ帰宅してなかった。
    家に僕ひとり。


    僕は、僕の分の一個を食べた。
    すごくおいしかった。

    腹が空いていたのだろう。
    とにかくおいしかった。

    だから、当然ながら
    もう一個の饅頭も食べたくなった。

    でも、それは兄の分だ。
    僕の分じゃない。

    二個とも食べてしまったら
    絶対に母に怒られる。

    兄だって怒るに違いない。
    それはわかっている。

    でも、どうしても食べたかった。
    食べたくて仕方なかった。

    我慢できない。
    食べたい。


    それで、食べてしまった。
    皿の上の饅頭、二個とも。


    知らんぷりして誤魔化そうとして
    誤魔化したつもりになって

    もしかしたら
    まんまと誤魔化せたのかもしれない。

    なぜなら
    その後の記憶が欠落しているから。


    あるいは
    良心を誤魔化しただけかもしれないけれど。
     

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  • 化 粧

    2012/12/30

    切ない話

    金色の二頭立て馬車に揺られ
    美しく着飾った女は夜更けに帰宅した。

    女はひどく疲れていた。
    舞踏会で多くの紳士たちと踊り過ぎた。

    (もしも天井のシャンデリアが落ちてきたら)
    踊りながら心配ばかりしていた。

    (ドレスが赤く染まって、きれいかしら)


    女は絹のドレスを脱ぎ捨て
    化粧室の大きな鏡の前に立った。

    まず美しい髪飾りを取った。
    次に輝く首飾りをはずした。

    高価な腕輪と指輪とイヤリングもはずした。
    それから重いカツラを取り除いた。

    さらに優美な曲線の眉を消し、
    長くてセクシーな付けまつ毛をはぎ取った。

    しばらくためらった後、女は
    指でえぐるように片方の義眼を取り出した。

    そして、諦めた表情のまま
    象牙の入れ歯を口から吐き出すのだった。


    さらにナイフを頬に当て
    女は深くため息をつく。

    (心にも化粧できたら、すてきなのにね)
     

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  • 刑 事

    ドアを開けると、そこに刑事がいた。

    彼は私の名前を確認すると
    ミイラの猿の手を差し出した。

    それは私の大切な宝物だった。

    なぜか紛失してしまい、
    捜していたのだ。


    「これ、どこにあったんですか?」
    私は刑事に尋ねた。

    「・・・殺人現場」
    愛想のない刑事である。
     

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  • クラゲ

    2012/12/27

    切ない話

    夜の繁華街をヨタヨタ歩いていた。

    白痴の騒音がグルグル渦巻き、
    狂った電飾がチカチカ瞬いていた。

    酔っていた。

    フニャフニャだった。
    まるでクラゲみたいだった。

    波に揺られるまま漂うだけで
    冷たく発光したって注目もされない。

    触手を伸ばしても空しいだけだ。


    「あなたは神を信じますか?」
    ふん。おめーが信じられねーよ。

    「お兄さん。いい子がいるんだけどさ」
    いい子なら、こんな街から逃げるって。

    「ねえ、あたしと遊ばない?」
    えーと、病気の感染遊びでしょーか?


    かまわんでくれ。
    放っといてくれ。

    おれはクラゲなんだから。

    骨も声帯もない。
    心臓さえない。

    胃袋はある。
    なぜなら吐き気がする。

    うう、気持ち悪い。
    歩道の端にしゃがむ。


    おれを見るんじゃない!


    喉の奥に指を突っ込む。
    口からしょっぱい水があふれ出る。

    塩水の胃液だ。
    歩道に拡がるしょっぱい水たまり。

    どんどん出る。
    止まらない。

    戸惑う善良なる通行人。

    車道にまで拡がり、タイヤが軋む。
    警笛が鳴り響く。

    さらに街を飲み込み、拡がってゆく。
    どこまでも伸び続ける水平線。


    ・・・海だ!


    目の前に海があった。

    磯の香り。
    潮騒が懐かしい。

    おれは嬉しくなる。
    もうすぐ海面が口まで届く。


    このまま海に溺れたら
    本当にクラゲになれるかもしれない。
     

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    • Tome館長

      2013/10/26 10:49

      「広報まいさか」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/10/25 15:41

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 暗い女

    2012/12/26

    切ない話

    彼女は言う。
    「明るさが怖い」と。

    朝日を浴びると
    目がくらむ。

    日向に肌をさらせば
    やけどする。

    ほとんど外出できない。

    一日中
    家の中に閉じこもる。

    明かりも点けず
    雨戸閉めて震えるばかり。

    かわいそうな女。
    性格だって暗くなる。

    家族にも好かれていない。


    ある日、彼女
    とうとう家を追い出されてしまった。

    帽子をかぶり、
    サングラスに手袋。

    晴れた空に雨傘さして
    日陰に隠れる。

    犬に吠えられても
    逃げられない。

    怯えながら
    じっと暗くなるのを待つばかり。


    やっと夜になる。

    それでも安心できない。
    怪しげな男が近寄ってくるから。

    「へへへ、お嬢さん。
     ほら、これを見るんだ!」


    でも、そういうの
    彼女は平気だ。

    だって、暗い男なら
    彼女、ちっとも怖くない。
     

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  • 虫歯の虫

    2012/12/24

    ひどい話

    痛い、痛い。
    歯が痛む。

    痛くて痛くて、眠れない。


    とうとう虫歯になっちゃった。

    いつも口を開けて
    寝ていたからだ。


    奥歯に虫の卵
    産みつけられたのだ。

    産卵管のやたら長い寄生虫。

    ハウミバチとかいう
    寄生蜂に違いない。

    その卵が孵化したのだ。


    無数の幼虫、
    モゾモゾ蠢いてやがる。

    内部をガリガリ
    齧ってやがる。


    痛い、痛い。

    痛くて痛くて
    我慢できない。

    死にそうだ、


    幼虫は
    脱皮しながら大きくなる。

    やがてサナギになり、
    成虫となり、

    奥歯に大きな穴開けて
    外にブンブン出てくるのだ。


    その成虫がやがて
    また別の歯に産卵するのだ。

    増殖しつつ
    繰り返すのだ。


    ああ、ああ、
    たまらんな。

    たまらんなったら
    たまらんな。
     

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  • 木のない森

    2012/12/23

    怖い話

    見上げたら、めまいがした。

    鬱蒼とした枝葉が邪魔をして
    空がちっとも見えやしない。

    様々な色の樹皮の幹に囲まれて
    身動きさえできやしない。


    胸が苦しい。
    息が詰まる。

    僕はポケットに手を突っ込み、
    お気に入りのジャックナイフを取り出す。

    銀色の鋭い刃をカチッと起こして
    僕は目の前の樹皮へズブリと突き刺した。


    「ギャー!」


    その忌まわしい怪鳥の叫びは
    怖いくらい女の悲鳴に似ていた。

    僕の手のひらは樹液で真っ赤になった。


    木立が逃げてゆく。
    枝葉の覆いが切れる。

    それでもまだ空は見えやしない。


    蛍光灯の光が、まぶしいだけ。
     

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    • Tome館長

      2013/10/22 17:44

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

    • Tome館長

      2013/10/22 17:44

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • キノコの山

    すっかり村は秋景色、
    キノコの山はキノコだらけ。

    おかしな色のキノコ
    変な形のキノコ

    わけわからぬキノコがたくさん生えた。


    すると町の娘たち
    キノコ採りにやって来た。

    ルージュとマニキュア
    塗りたくって

    それ以上短くできそうもない
    ミニスカート穿いて

    無茶苦茶な採り方、
    滅茶苦茶な食べ方をする。


    ハイヒールで枯葉を蹴飛ばしながら
    「こらっ! キノコども、出て来い!」

    採ったキノコを生のまま食べ、
    「ううっ。なにこれ、吐きそう」

    キノコでないものまでキノコ汁。
    「あらっ? キノコって骨があるのね」

    失禁して、ヨダレを垂らしながら
    「あは、こりゃ効くわ。あは、死にそ」

    木に登って、枝の上で裸踊り。
    「だ、誰か助けて! わ、私を止めて!」


    彼女たちを見ていると
    世も末だな、と思う。


    見上げれば、さわやかな秋の空。

    ムクムクふくらむ
    キノコそっくりな妙な雲。
     

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  • 一匹の怪物

    2012/12/21

    怖い話

    埃まみれの暗い屋根裏部屋に
    恐ろしい一匹の怪物が棲むという。

    怪物の姿は見えたり見えなかったりする。

    たとえ怪物を目撃できたとしても
    その姿は美しかったり醜かったりする。

    もしそれが美しく見えるとすれば
    あなたこそ怪物なのである。


     どこにもない湖

     その水面に拡がる波紋

     それにより歪んで映る時計台

     それを眺めている捨てられた蝋人形


    いかにも無邪気そうに見えるその瞳の奥にも
    恐ろしい一匹の怪物が棲むという。
     

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    • Tome館長

      2013/10/20 01:17

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2013/01/06 14:09

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • 絵のない絵葉書

    君は南方の隣町から帰る途中、
    天国まで届きそうな長い橋を渡っている。

    水彩絵の具をぶちまけたような夕焼けが
    君の左手、西方の空に展開されている。


    君の視界は
    横長の絵葉書。


    君の意識は
    夕日の中心から橋の欄干へ垂線を下し、

    川岸との交点から始まる無数の線分を引く。

    それら線分は川面に乱反射して
    音を立ててキラキラ輝く。


    川下にあるはずの海を
    高架道路が邪魔しているため

    むしろ川上こそ海に近そうな印象を与える。


    車道にはバスやトラック、
    歩道には女学生と警察官の姿。

    自転車が君を追い越してゆくかもしれない。


    君の影法師は蛭のように伸びて
    橋の横幅より長くなり、

    やがて絵葉書の端から
    はみ出してしまうだろう。


    見えるか見えないか
    僕にはわからないけど

    こんなふうな絵のない絵葉書を
    今、君に送ろう。
     

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    • Tome館長

      2013/10/22 12:08

      「Spring♪」武川鈴子さんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/10/18 22:24

      「広報まいさか」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/10/18 22:20

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2013/10/18 14:09

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

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