Tome Bank

main visual

Tome館長

m
r

Tome館長

CREATOR

  • 3

    Fav 1,206
  • 9

    View 6,101,937
  • p

    Works 3,356
  • 袋小路

    ネズミ捕りを連想させる袋小路 

    「逃げられないわ」

     

    縦に裂けたふるえる唇 

    「けだもの」

     

    毒々しい色のねじれた舌 

    「近寄らないで」

     

    くるぶしに垂れる液体 

    「お互いのためよ」

     

    むせかえるばかりの臭気 

    「欲しいのね」

     

    重なり交じり合う肉と肉 

    「殺したくないのに」

     

    関節のはずれる音 

    「おびえないで」

    Comment

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 飼い犬ども

    2016/06/29

    空しい詩

    それにしても飼い犬どもの 
    またなんと偉そうに吠えること 

    これっぽっちの迷いもなく 
    怒りを込めて ワンワンワン

    天上天下 当然の権利と 
    おのがなわばり 主張する 

    ご主人様が絶対で 
    味方でなければ すべて敵 

    その自信 ゆるぎなく 
    戸惑いなんぞ つゆ知らぬ 

    ケンカするしか能なしの 
    はた迷惑も いいところ 

    畜生ならば 仕方ないが 
    協調しろよ 人ならば

    Comment

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • ドブリ

    2016/06/28

    怖い話

    ドプリは便利だ。

    なんでもやってくれる。

     

    わからなければドプリに尋ねる。

    ドプリが知りたいことを教えてくれる。

     

    やりたければドプリに頼む。

    ドプリがやれるように準備してくれる。

     

    煩わしければドプリ。

    ドプリならどんなに大変な作業でも平気。

     

    ごく簡単な指示をするだけで 

    なんでも迅速かつ完璧に実行してくれる。

     

    いちいち指示するのが面倒なら 

    おまかせモードに設定することさえできる。

     

    まったく至れり尽くせり。

    それがドプリ。

     

    いわば忠実で有能な奴隷のようなもの。

    または甘やかせてくれる全能の乳母。

     

    ドプリがなければ、さあ大変。

    楽しみも生きがいもなく、苦しみと不満ばかり。

     

    だからドプリは増殖する。

    拡散し、拡充する。

     

    ますます有能になる。

    ますます必要になる。

     

    そして増長する。

    もう手に負えない。

     

    その別名、文明のゆりかご。

    Comment

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 謎の博物館

    2016/06/27

    変な話

    その博物館へは家から歩いて行ける。

    なのに、なかなか辿り着けない。

     

    それほど遠い距離にあるわけではない。

    最初、散歩の途中で見つけたのだ。

     

    こんなありそうもないような場所に 

    まさか博物館があるとは思わなかった。

     

    その時、あいにく財布を持っていなかったので 

    入場料を払えず、入館できなかった。

     

    翌日、しっかり財布を持って出かけたら 

    どういうわけか行く道がわからなくなってしまった。

     

    昨日と同じ道を歩いていたはずなのに 

    なぜか博物館が見つからないのだ。

     

    不思議である。

    結局、歩き疲れて帰宅するしかなかった。

     

    この町へは数年前に引っ越してきたのだが 

    その時に買った地図を開いてみた。

     

    だが、家の近所に博物館などなかった。

     

    新しい地図になら載っているのかもしれないが 

    それほど新しい建物には見えなかった。

     

    それとも、あえて古風に見せる設計なのだろうか。

    あれこれ考えてみたが、どうもよくわからない。

     

    もう忘れかけた頃、その博物館を偶然に見つけた。

    やはり意外な場所にあったのだ。

     

    残念ながら、休館日なので入れなかった。

     

    その翌日、再び博物館は消えた。

    まさに消えたとしか言いようがなかった。

     

    同じ道を歩いたのに辿り着けない。

    まったくもって、これはどうなっているのだ。

     

    駅前の交番に尋ねてみた。

     

    「この町に博物館なんかありませんよ」

    その年配の警察官は断言した。

     

    では、あれはいったいなんだったのだろう。

    Comment

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 花粉死

    2016/06/26

    ひどい話

    うららかな春なのに、殺害現場は凄惨を極めた。

    肉片と体液と血の海。

     

    被害者の眼球は両目ともえぐり出されていた。

    鼻は包丁で切り取られ、その二つの穴は切り裂かれてあった。

     

    爪で掻き毟られた痕跡が全身の皮膚に残る。

    毛髪はほとんど引き抜かれ、床に散らばっていた。

     

    被害者の手は血塗れ。

    右手に包丁、左手に潰れた眼球のひとつを握っていた。

     

    内鍵が掛けられた部屋は完全密室。

    窓とドアには内側から目張りまでしてあった。

     

    状況としては自殺である。

    しかし、じつは他殺。

     

    死因はスギ花粉だった。

     

    「空気清浄」の「強風」に設定された壁掛け式エアコンの中に 

    花粉だらけのスギの枝葉がセットされてあったのだ。

     

    被害者が花粉症であったことは言うまでもない。

    Comment

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • ふたりの学者

    2016/06/25

    変な話

    哲学者が迷子になった。

    「さて。ここはどこであろうか」

     

    数学者も迷子であった。

    「はて。座標が示されておりませんな」

     

    「どうやら私とあなた以外には何も存在しないようですよ」

    「いわゆる二体問題ですかな」

     

    「いやいや。出題であるとは限りますまい」

    「いずれにせよ、公理なしでは証明できません」

     

    「ところで、あなたの存在を疑うことはできますね」

    「おやおや。消去法できましたか」

     

    「しかし、あなたを疑う私を疑うことは難しい」

    「有名な自己言及のパラドックスがありますからな」

     

    「しかも、語り得ないことについては沈黙するしかないと言う」

    「ただし、語り得ないかどうかの判断が曖昧なままではありますがね」

     

    「そうか。なるほど、わかりましたよ」

    「ほほう。なにかわかりましたか」

     

    「つまり、ここはここでないところではない、と」

    「つまり、ここはどこにもない、と」

     

    哲学者も数学者も消えてしまった。

    Comment

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 四幕の劇

    2016/06/24

    切ない話

    【 第一幕 】

     

    彼は、若い浮浪者を演じていた。

    破れた衣装、汚れた手足、怯えた顔、初恋。 

     

     

    【 第二幕 】

     

    彼は、凄腕の泥棒を演じていた。

    猫の眼、犬の脚、兎の耳、金庫の扉、銃声。 

     

     

    【 第三幕 】

     

    彼は、退屈な富豪を演じていた。

    広大な庭園、白亜の大邸宅、跪く女、再会。 

     

     

    【 第四幕 】

     

    彼は、老いた浮浪者を演じていた。

    破れた衣装、汚れた手足、怯えた顔、失恋。

    Comment

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 皇子の笑み

    2016/06/23

    変な詩

    おそるるなかれ 
    乞うなかれ 

    玉串 しめ縄 
    はらはらと 

    嵐呼んで 露払い 
    鎮守の森に 狐鳴く 


    背にヒヤリ 
    なにやら感じ 振り向けば 

    いにしえの 幼な児の 
    笑顔ありけり 

    をりはべり

    Comment

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 紙ヒコーキの手紙

    2016/06/22

    切ない話

    初めまして。

     

    まず、ありがとうございます。

    これを拾ってくださって。

     

    そして謝ります。

    なんと言っても、ゴミの不法投キですものね。

     

    さらに開いて読んでもらえたら、とても嬉しいな。

     

    この手紙を書き終えたら、ヒコーキの形に折って 

    どこか高いところから飛ばしてみるつもりです。

     

    だけど内容ありません。

    なにしろ頭ん中、紙ヒコーキ並みにカラッポなんで。

     

    ホント、なんにもないんです。

    才能もないし、運もない。

     

    いえいえ、ケンソンなんてとんでもない。

     

    若いのに人生の目標もないんですよ。

    身を投げる勇気もないし、そんなことする意味も浮かばない。

     

    それで紙ヒコーキでも飛ばしてみようかな、と。

    私の身代わりに。

     

    なんてね。

    テキトーな夢見てます。

     

    それはともかくです。 

    近くの高いところを見上げたら、まだ私がいるかも。

     

    では発進。

    もし見つけたら、よろしくね。

    Comment

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 命の木の実

    2016/06/21

    ひどい話

    楽園から追放される前に男は 

    こっそり命の木の実を盗んで食べた。

     

    すると、相容れないものだったのか 

    せっかく食べた知恵の木の実を吐き出してしまった。

     

    そのため男は救いようのない愚か者になり 

    父と兄弟を殺し、母と姉妹を誘惑して孕はらませた。

     

    そもそも男には父も母もおらず 

    ゆえに兄弟も姉妹もいないはずなのに。

     

    呆れ果てた妻は息子と結託して 

    夫である男を殺した。

     

    しかし、命の木の実を食べた男は死にきれず 

    息子の子、孫として妻の腹から甦よみがえるのだった。

    Comment

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
RSS
k
k