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2009/10/12
なにげなく自転車で街を散策すると、胸がいっぱいになる。
過去の匂いがそこらじゅうに漂っているからだ。
小学校の時に少しの間、自転車で通ったお絵描き教室への道中で匂いは深まった。
記憶の扉は案外軽くて、嘘つきかもしれない。
先生はエキゾチックな顔立ちで、それに合わせたように不思議な人だった。
先生の押し入れにはフランス人形が沢山入っていて不気味に思ったことを覚えてる。
絵は売りたくないけどすぐに画商がとっていっちゃうのよ。
と悲しそうな顔でよく言っていた。
たしかに彼女の描く人形はどれも生々しく、愛らしく、どこか悲しい。
彼女の何重にもなった妖艶な目と人形の目はどこか似ていた。
そして、よく小さな妖精が見えるといい、枕元でピョンピョン飛んでるのといっていた。子供だったわたしは、妖精が本当にいるのね、ティンカーベルかなと思ったりもした。
そして今でも枕元で跳ね回る妖精がいるんじゃないかと疑ってる。
彼女はあまり来ない私をいつでも覚えていてくれたし、喜んで迎えてくれた。
わたしはそこに居心地の良さを感じながら、孤独からは抜け出せなかった。
彼女の夫もまた画家で、もう描くものがないから死んだのよと、彼女はいったらしい。
わたしはその時、犬がほしくて、犬の絵ばかり描いていた。単純すぎるのは今と変わらない。今その絵はトイレにある。どことなく、今の犬に似てるような似てないような。
その頃も、今も、きっと、考えてるようで、なにも考えてないのだと思う。