あかり

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綻び

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綻び

by あかり

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    今日は休日なのに、朝から珈琲をこぼしてしまうし、足の小指を扉にぶつけてしまうし、散々だった。家で何もせず、堕落した一日を過ごそうと思っていたが、何と無く不吉な気がしたから、外出することにした。
    カーテンを閉め切った部屋では全く気付かなかったが、外はとってもいい天気でスキップでもしてしまいたくなるような風の匂いがしていた。
    私は電車に乗り込み、街に出た。電車は空いていたが、外国人が無遠慮に大声で喋っていたり、すごい異臭のするおじさんが居て、電車に乗ったことを少し後悔した。
    街に出ても、何もすることが思いつかず歩いていると、ずっと気にになっていた高級和食の店のことを思い出した私は、昼間から一人で懐石料理を食べようと思い立った。
    店内は思いの他混んでいて、若い店員の女性が着物姿で慌てふためいていた。
    入るのをやめてしまおうとも思ったが、着物姿の女性は目ざとく声を掛けてきた。
    「おひとり様ですか?」
    私は、カウンターの席に案内された。
    一番安い懐石と、生ビールを頼んだ。先付が出てきたのは10分後だった。
    そのままビールを呑んでいたが、いつになっても前菜が出てこない。私は世間の“綻び”に居るのだと感じた。慌て続けている女性は忙しそうに年配の女性に気を配り、耳の遠いおじいちゃんが女性の説明に何度も水を差す。
    私はこの端っこのカウンター席で時間に取り残されたように微睡んでいた。
    こんな時間も悪く無い。
    そうこうしている地に一時間は過ぎていた。何も言わない私を忘れてしまったのか、私が異空間に来てしまったのか、大して空腹でもない私は周りの忙しさを楽しんですらいた。
    「お待たせして申し訳ございません」
    私の時間を裂いて、女性は困惑した笑顔を見せてきた。
    私は家が恋しくなった。
    何も言わずに立ち上がり、代金を置いて店から出て行った。私が“綻び”に滞在できる時間はわずか数時間だと気付いた。

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    今日は休日なのに、朝から珈琲をこぼしてしまうし、足の小指を扉にぶつけてしまうし、散々だった。家で何もせず、堕落した一日を過ごそうと思っていたが、何と無く不吉な気がしたから、外出することにした。
    カーテンを閉め切った部屋では全く気付かなかったが、外はとってもいい天気でスキップでもしてしまいたくなるような風の匂いがしていた。
    私は電車に乗り込み、街に出た。電車は空いていたが、外国人が無遠慮に大声で喋っていたり、すごい異臭のするおじさんが居て、電車に乗ったことを少し後悔した。
    街に出ても、何もすることが思いつかず歩いていると、ずっと気にになっていた高級和食の店のことを思い出した私は、昼間から一人で懐石料理を食べようと思い立った。
    店内は思いの他混んでいて、若い店員の女性が着物姿で慌てふためいていた。
    入るのをやめてしまおうとも思ったが、着物姿の女性は目ざとく声を掛けてきた。
    「おひとり様ですか?」
    私は、カウンターの席に案内された。
    一番安い懐石と、生ビールを頼んだ。先付が出てきたのは10分後だった。
    そのままビールを呑んでいたが、いつになっても前菜が出てこない。私は世間の“綻び”に居るのだと感じた。慌て続けている女性は忙しそうに年配の女性に気を配り、耳の遠いおじいちゃんが女性の説明に何度も水を差す。
    私はこの端っこのカウンター席で時間に取り残されたように微睡んでいた。
    こんな時間も悪く無い。
    そうこうしている地に一時間は過ぎていた。何も言わない私を忘れてしまったのか、私が異空間に来てしまったのか、大して空腹でもない私は周りの忙しさを楽しんですらいた。
    「お待たせして申し訳ございません」
    私の時間を裂いて、女性は困惑した笑顔を見せてきた。
    私は家が恋しくなった。
    何も言わずに立ち上がり、代金を置いて店から出て行った。私が“綻び”に滞在できる時間はわずか数時間だと気付いた。

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published : 2013/05/12

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