あかり

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by あかり

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    夏が近づいて、私の部屋では小蠅が発生していた。
    どこで生まれているのか分らなくて、私は部屋中大掃除をした。
    戸棚の中で眠っているアルバムや写真もひっぱり出して、アルコールを掛けて消毒した。もちろんキッチンやバスルームも徹底的に綺麗にした。
    でも、彼らの発生源はつかめない。確かに飛んでいるのに、卵や、大量に集まっている場所もなくて、私は途方に暮れた。
    家の外から侵入してきているのだと気づき、窓には虫よけを設置した。
    でも、一向に減らない。
    こんなに探しているのに見つからない。なんだか遊ばれているようで悔しくなった。だんだん、自分の部屋が嫌になってきた。裏切り者。
    だけど、毎日帰る場所は此処しかないから、私は今日も家に帰った。
    夕飯を作ろうとキッチンに向かえば、そこにはやはり二、三匹の蠅が居た。私をからかうように飛び交いながら今日のご飯はなんだろうなんて考えている。
    だから、叩いて殺した。握りつぶした。夕飯なんてそっちのけで蠅を殺した。
    さて、夕飯も済んで、お風呂に入ろうとバスルームに行くと、やはり二、三匹の蠅が居て私のことをじろじろ眺めている。だからそいつらも溺死させた。髪を洗うのもそこそこに、シャワーを彼らに向けて噴射した。
    お風呂から上がって、テレビを見ながら珈琲を飲もうにも、テレビの周りにも彼らが飛び回り、私は集中できない。ニュースのキャスターは自分の鼻に蠅が止まっていることなんてお構いなしに話し続ける。虐待を受けて二歳の子供が死んだ。アイドルが結婚した。繁華街にワゴン車が突っ込んだ。スポーツ選手が記録を塗り替えた。大手企業が脱税していた。
    もう、そんなことどうでもよかった。蠅はミニスカートの女子アナの太腿に満足そうに止まっている。女子アナごと叩き潰した。彼女は笑顔を崩さず話を続ける。太腿には蠅の死骸を付けたまま。
    私は眠ることにした。目を瞑ってしまえば、蠅なんて気にならないから。布団にもぐり目を閉じて、睡魔がゆっくりと私の脳に忍び寄ってくるのを感じながら、心地よく眠りにつこうとしていると、「ぷーん」と私の耳元で何かがささやいた。蠅はこんな風に飛ばない。完全に蚊だ。
    どうにか眠ったままで退治しようと何度も手を振り上げるが、しばらくするとまたやってきて、ささやきを続ける。仕方ない、一度電気を点けて終わりにしよう。
    私は電気のスイッチを入れて目を凝らして蚊を探し、狙いを定めてやっつけた。さすが睡眠欲。一発で獲物を仕留めて、さあ眠ろうと電気を消しにかかった所で、鏡が目に入った。
    私は愕然とした。その鏡には私が映っていたが、驚いたことに、私の髪から蠅が発生していた。恐ろしくなった。ブラシを取り出し髪を梳いた。ブラシを動かすたびに次々と蠅が飛び立つ。私が元凶だったのか、いくら掃除をしたって減らないに決まってる。部屋が嫌になったなんて思っていたけど、部屋が私を迷惑に思っていただろうに。どうしたらいいのか分らない。お風呂だってちゃんと入っているし、髪も洗ってる。まして頭に餌をまいたわけでもない。
    だから私は逃げた。
    走ってベランダから逃げた。というか、落ちた。マンションの八階から堕ちた。

    これでもう、小蠅は生まれることはできない。

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    夏が近づいて、私の部屋では小蠅が発生していた。
    どこで生まれているのか分らなくて、私は部屋中大掃除をした。
    戸棚の中で眠っているアルバムや写真もひっぱり出して、アルコールを掛けて消毒した。もちろんキッチンやバスルームも徹底的に綺麗にした。
    でも、彼らの発生源はつかめない。確かに飛んでいるのに、卵や、大量に集まっている場所もなくて、私は途方に暮れた。
    家の外から侵入してきているのだと気づき、窓には虫よけを設置した。
    でも、一向に減らない。
    こんなに探しているのに見つからない。なんだか遊ばれているようで悔しくなった。だんだん、自分の部屋が嫌になってきた。裏切り者。
    だけど、毎日帰る場所は此処しかないから、私は今日も家に帰った。
    夕飯を作ろうとキッチンに向かえば、そこにはやはり二、三匹の蠅が居た。私をからかうように飛び交いながら今日のご飯はなんだろうなんて考えている。
    だから、叩いて殺した。握りつぶした。夕飯なんてそっちのけで蠅を殺した。
    さて、夕飯も済んで、お風呂に入ろうとバスルームに行くと、やはり二、三匹の蠅が居て私のことをじろじろ眺めている。だからそいつらも溺死させた。髪を洗うのもそこそこに、シャワーを彼らに向けて噴射した。
    お風呂から上がって、テレビを見ながら珈琲を飲もうにも、テレビの周りにも彼らが飛び回り、私は集中できない。ニュースのキャスターは自分の鼻に蠅が止まっていることなんてお構いなしに話し続ける。虐待を受けて二歳の子供が死んだ。アイドルが結婚した。繁華街にワゴン車が突っ込んだ。スポーツ選手が記録を塗り替えた。大手企業が脱税していた。
    もう、そんなことどうでもよかった。蠅はミニスカートの女子アナの太腿に満足そうに止まっている。女子アナごと叩き潰した。彼女は笑顔を崩さず話を続ける。太腿には蠅の死骸を付けたまま。
    私は眠ることにした。目を瞑ってしまえば、蠅なんて気にならないから。布団にもぐり目を閉じて、睡魔がゆっくりと私の脳に忍び寄ってくるのを感じながら、心地よく眠りにつこうとしていると、「ぷーん」と私の耳元で何かがささやいた。蠅はこんな風に飛ばない。完全に蚊だ。
    どうにか眠ったままで退治しようと何度も手を振り上げるが、しばらくするとまたやってきて、ささやきを続ける。仕方ない、一度電気を点けて終わりにしよう。
    私は電気のスイッチを入れて目を凝らして蚊を探し、狙いを定めてやっつけた。さすが睡眠欲。一発で獲物を仕留めて、さあ眠ろうと電気を消しにかかった所で、鏡が目に入った。
    私は愕然とした。その鏡には私が映っていたが、驚いたことに、私の髪から蠅が発生していた。恐ろしくなった。ブラシを取り出し髪を梳いた。ブラシを動かすたびに次々と蠅が飛び立つ。私が元凶だったのか、いくら掃除をしたって減らないに決まってる。部屋が嫌になったなんて思っていたけど、部屋が私を迷惑に思っていただろうに。どうしたらいいのか分らない。お風呂だってちゃんと入っているし、髪も洗ってる。まして頭に餌をまいたわけでもない。
    だから私は逃げた。
    走ってベランダから逃げた。というか、落ちた。マンションの八階から堕ちた。

    これでもう、小蠅は生まれることはできない。

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published : 2012/08/13

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