あかり

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あかり

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文学・文芸 > 小説

万札

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万札

by あかり

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    私はカフェにいた。
    珈琲とガトーショコラを頼み、一番端の席に腰をおろした。
    時間帯のせいなのか、空席が目立つそのカフェで店員からの死角になる席だ。
    10分ほど経っただろうか、ガトーショコラもなくなろうとしてる頃、こんなに席が空いているのに、すぐ近くに若い女性が座った。
    女性は黄色っぽい茶色の髪をして、大きな輪っかのピアスと豹柄のピンヒールが目につく派手な装いだった。
    彼女は抹茶ラテと番号札をトレイに乗せていた。大きなカバンを席に置き、そのまま立ち上がると、化粧室へ向かった。
    カバンの中からは、これもまた大きな財布が顔をのぞかせていた。
    別に、お金に困っていたわけでもない。とりたてて、スリルを求めているわけでもない。ただ、本能的に衝動的に女性の財布を手に取る欲求に抗うことができなかった。
    財布の中にはたくさんのカード類、免許証、保険証、小銭と3万2千円が入っていた。
    私は中から当然のように1万円を抜き、大きな財布を大きなカバンへと戻し、珈琲を飲み干した。
    トレイを持って、席を立ち振り返ったが女性はまだ戻っていなかった。カフェを出る時パスタを持った店員とすれ違った。
    「ご馳走様」と声を掛け、外に出る。
    私はそのまま駅に向かい、電車に乗った。さっきの1万円は上着のポケットだ。
    めまぐるしく乗り降りを続ける乗客たちに紛れ、私の前に立っている小学生のランドセルへ1万円を押し込んだ。
    次の駅で降りよう。

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    私はカフェにいた。
    珈琲とガトーショコラを頼み、一番端の席に腰をおろした。
    時間帯のせいなのか、空席が目立つそのカフェで店員からの死角になる席だ。
    10分ほど経っただろうか、ガトーショコラもなくなろうとしてる頃、こんなに席が空いているのに、すぐ近くに若い女性が座った。
    女性は黄色っぽい茶色の髪をして、大きな輪っかのピアスと豹柄のピンヒールが目につく派手な装いだった。
    彼女は抹茶ラテと番号札をトレイに乗せていた。大きなカバンを席に置き、そのまま立ち上がると、化粧室へ向かった。
    カバンの中からは、これもまた大きな財布が顔をのぞかせていた。
    別に、お金に困っていたわけでもない。とりたてて、スリルを求めているわけでもない。ただ、本能的に衝動的に女性の財布を手に取る欲求に抗うことができなかった。
    財布の中にはたくさんのカード類、免許証、保険証、小銭と3万2千円が入っていた。
    私は中から当然のように1万円を抜き、大きな財布を大きなカバンへと戻し、珈琲を飲み干した。
    トレイを持って、席を立ち振り返ったが女性はまだ戻っていなかった。カフェを出る時パスタを持った店員とすれ違った。
    「ご馳走様」と声を掛け、外に出る。
    私はそのまま駅に向かい、電車に乗った。さっきの1万円は上着のポケットだ。
    めまぐるしく乗り降りを続ける乗客たちに紛れ、私の前に立っている小学生のランドセルへ1万円を押し込んだ。
    次の駅で降りよう。

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published : 2013/05/12

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