宮尾節子

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文学・文芸 > 詩

100m父(ひゃくめーとるちち)

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100m父
       宮尾節子

100m父を見た
生きている、
生きて、歩いてくる
青い小さな、春告げ花の群れて咲く
河川敷の草道を
向こうから、およそ100m父が
帽子をかぶって、いつもの上着で
ときどき、空を見上げながら
こちらにやって来る

わたしは急いで──
赤い浮き輪の礼を言った
どれほどうれしかったか
親不孝を詫びた
数々のもうしわけなかったを──
大工のサンタが枕元に置いていった
贈り物の礼を
うまくできなくて癇癪を起こすと節くれ指で
手伝ってくれた朝顔の押し花の宿題を
「なせばなる──」の恥ずかしい金言を
人混みを掻き分け見苦しく転びながら取ってくれた
バスの座席を
数々のありがとうを
それより多いごめんなさいを──
わたしは早口で呪文のように一気にまくしたて
100m父に伝えた
100m父に──
追いつこうとがんばった

春告げ花咲く
河川敷の草の道

100mを越えると父は死んだことを思い出し──
よその知らないおじさんに
戻るのだから

**
詩集『恋文病』より

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published : 2015/11/03

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