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文学・文芸 > 詩
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Comment帰郷
宮尾節子
ベランダから屋根へと這い上がり
更に空へと咲き昇る
通りがかりのお宅の見事な
ノウゼンカズラを見上げていたときに
おとうさん--
あなたはあっちに行ったのですね
あの言うことを聞かないわたしの娘が呆けた顔で
ノウゼンカズラを眺めているよと
見下ろしながら--
濃いオレンジ色の花が鈴なりのカズラに
顔を引き揚げられるようにして
たどり着いた
故郷の夏空は--
ほんとうに、ほんとうに
雲ひとつなく、
(よるつめをつんだら
よるつめをつんだから
おやのしにめに
イヤチヤ
セッカク
モンテキチョッテ
セッチャンセッカク
モンテキチャッタニアンタドコデ
ナニシヨッタガ
カンゴフサンラガサガシマワリヨッタニ
ナニシヨッタガヨ
あおいぞ
あおぞら--ごめん)
「せつこ」と呼ぶ者が--
またひとり居なくなりました
ハナミヨッタガ。
詩集『恋文病』より