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2010/10/22
ここ最近のふくちゃんのお気に入りの場所は本棚の上である。2メートル近く高さのある本棚なので、さすがに床から直接は飛び上がれない。そこで猫タワーのてっぺんからカーテンレールに飛び乗って、レールの上を上手に歩いていき、本棚の上に降り立つ。カーテンレールは、ちょうど猫タワーと本棚のあいだを渡す橋のように掛かっている。レースのカーテンと布地のカーテンのレールが段違いに二本並んでいるから、それぞれに両側の足を乗せて、重いからだに似合わず、猫らしく伝い歩いていく。
みゆちゃんも、おんなじように本棚の上に乗りたかったらしい。
乗りたいけれど、みゆちゃんはふくちゃんのようには跳べない。子供の頃、交通事故に遭って下半身の骨を粉砕骨折したからで、それが奇跡的に治り、普通の猫と変わらないくらい走ったり跳んだりできるようにまで回復したけれど、さすがに大ジャンプになると、ふくちゃんと差が出てしまうのだと思う。
それを無理に乗ろうとして、跳んで、失敗した。よく見ていなかったけれど、たぶんキッチンカウンターから跳んで、届かずに落ちたのだと思う。着地のときに、お尻が床につきそうなくらいうしろ足が曲がっていたので、昔の怪我が悪くなりはしないかと心配になった。みゆちゃんみゆちゃん、大丈夫と呼んでみたら、見たところ普通に歩いてこっちへ来たのでほっとした。
可哀想なので、抱っこして本棚の上へ乗せてやった。
ひと通りにおいを嗅いだりして調べ終わったあと、食卓の上に飛び下りたら、いつもは慎重なみゆちゃんには珍しく、着地の場所が悪くてランチョンマットの上で、マットごと滑って少しバランスを崩した。
二度続きの失敗で、みゆちゃんはしばらくしょんぼりしているようだった。弱気な様子で私のあとからついてきて、洗濯機の上に座って上目遣いにこっちを見た。肩も落としていた。お出汁をとったあとの鰹を勧めてみたけど、出し殻ではみゆちゃんのお口に合わないようだった(それはあとでふくちゃんが食べた)。
しょんぼりしているみゆちゃんを見て、本棚とキッチンカウンターのあいだの壁の真ん中に、猫の踏み台になる板を取り付けなければならないかしらとちょっと思った。
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2010/10/16
私の実家でも猫を飼っているが、猫のほかにも、家の周りをうろうろしている動物がいる。
まずはタヌキ。山も家から遠くないけど、家の裏の休耕地になった畑に住んでいるらしく、ときどき庭に姿を現す。今年の夏の、風が少し爽やかだった日に、次男を抱っこしてベランダに出ていたら、庭の芝生の上にタヌキが寝そべっているのが見えた。こちらに気づいているのかいないのか、敏感な野生動物のことだから気づいているのだろうけれど、顔を向こうに向けたまま、じっとしている。ためしに「タヌキ」と呼んでみたが、振り向きもしないし、猫がよくするように耳さえも動かさない。置物みたいに固まっている。それまでのタヌキにまつわる話を聞くと、割合警戒心が強いようなのに、耳が遠いのかしらとか、逃げたいけれど、二階から注目されて怖くて動けないのかなとか、いろいろ向こうを向いたまま微動だにしないタヌキの心情を推し量ってみたが、当然わかるわけもないから、そのうち根負けして、部屋に入ってしまった。
それから、アライグマである。こちらは、一度父が夜に、タヌキよりひとまわり大きなシルエットと縞縞の太い尻尾を見たくらいで、あとは痕跡ばかりである。外猫用の水が毎朝汚れているのは、アライグマが夜中に何かを洗っているのだろう。庭のホースが引っ張られていたり、庭履きのサンダルがあちこちに転がって、爪のあとが残っていたりする。
このあいだの晩、実家にいたら、父が、「隣の○○さんとこのあいだを、何かががさがさ動いている」と言った。母が、タヌキじゃないの、と聞くと、もう少し小さい感じだと言うので、じゃあ外猫のペロンちゃんでは、と言うと、ペロンだったら出てくるはずだと言う。
その話はそれで終わったのだけれど、家に帰るとき、私が玄関の扉を開けたら、庭の中ほどから、何か黒っぽくて少し小さいものが、すごい勢いで門の外へ走って出て行った。あんまり慌てたので、門のすき間にからだをぶつけたらしく、大きな音がした。
たぶんタヌキだろうと父は言う。翌朝庭に落ちた柿の実がきれいになくなっていたらしいけれど、あの黒い小柄なからだと、そそっかしい動き、私は黒い子猫じゃなかったかしらと、ちょっと期待を持って考えている。
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2010/10/13
庭の雑草が生え放題になっている。次男がまだ小さいから、なかなか草を抜く暇がないと思って放っていたのだけど、この前背中に背負ってみたら嫌がらなかったので、ときどき、そうやって草抜きをしている。
草を引いていると、ふくちゃんがにゃあにゃあ言う。どこで鳴いているかというと、以前にも一度書いたが、庭に面した部屋の、障子にあけた穴から顔を突き出して、鳴いている。
猫たちが自由自在にいくつもの穴を開けた障子は、夫が仕事の休みの日にだいたい張り替えたのだけれど(破れにくいプラスチックの障子紙というものがあるのは知らなかった。商品名の書かれた紙片には、障子に手を掛けたキジ猫の写真がついてたから可笑しかった。)、一部、まだ穴の開いたままのところが残っていて、ふくちゃんはそこからのぞいている。
しばらく草を引いて、窓のほうを見ると、いつのまにかみゆちゃんも来ている。ちょうどふたつ並んだ障子の穴に、それぞれがひとりずつ顔を出して眺めている。
ふたりとも日溜りに寝そべって、まったくくつろいだ様子である。うまい具合に穴は障子の一番下に開けられているから、その姿勢で、ちょうど顔が穴の位置に来る。しっかり草を抜けよといったような、澄ました顔をして見下ろしている。
明るい陽の光で、猫たちの目は細く細くなっている。
参照「障子の穴」
http://blog.goo.ne.jp/amoryoryo/e/1d39d220def6166a14f91c645c1be889
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2010/10/05
家の近くを流れる疎水の両岸には、桜並木とつつじのほかにも、紫陽花、クチナシ、オシロイバナ、秋になったら「くっつき虫」にして遊ぶ種をつける草、ツユクサ、そのほか見たことがあるけれど名前を知らないたくさんの草花が所狭しと生い茂っている。
その中にジュズダマが生えていないかと、ここに引っ越してきた頃から、私は疎水の横を通るたびに、目を凝らして草木のあいだを探していた。水辺に生える植物だから、疎水はいかにもジュズダマが生えていそうな雰囲気なのである。
ジュズダマはイネ科の植物で、硬いビーズのような実ができる。実の中心を通っている芯を取り除いたら穴ができるから、本当にビーズみたいである。昔、実家のそばの、田んぼと小川のあいだの小さな土手に生えていた。秋に茶色く色づいた実を取って、糸を通し、母に首飾りを作ってもらった。その土手には、今はもうジュズダマは生えていなくて、彼岸花だけが、赤く咲いている。
うちの子供は男の子だから、ビーズ遊びなんかしないと思うけれど(いや、まだ幼稚園児であまり男女差がないから、面白がってやるかもしれない)、どんぐりを拾って集めたりするのが好きだから、きっと喜ぶと思う。何より、私自身が懐かしくって、もう一度ジュズダマの小さな粒粒を取ってみたい。
そう思って、疎水沿いを歩いていたら、このあいだ、とうとう見つけた。毎日のように通っているのにどうして今まで気づかなかったのだろうと思うくらい、大きくて立派なジュズダマだ。大人の背くらいの高さがあって、ひょろひょろした葉のあいだに、黒っぽい実がなっているのが見えたが、生えている場所が悪かった。疎水のちょうど真ん中の水の中で、もちろんどちらの岸からも届かない。取ろうと思ったら、急な土手を下りていって、水の中に入っていかなければならない。
いつか、長靴を履いていって、取りに下りようと思うのだけれど、いまだ果たせていない。きょうも、まだ実がついているのを確認しながら、指をくわえてジュズダマの横を通った。
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2010/10/05
先日発行されました、精神科医香山リカさんの書評&エッセイ集「本を読むってけっこういいかも」のイラストを担当させていただきました。
表紙や各章の扉に、ちょこっと描いています。
香山リカさんの心を癒す読書術、ぜひお手に取ってご覧ください。
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