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はるか遠い星よりの電波を受信するというアンテナ設置工事の申込書をしたため、返信封筒に入れてテープで止め、それを投函するべく外に出た。
なまあたたかい春の夜風がとぐろを巻いて風呂あがりの生首を絞める。
いつものように信号機など必要のない交差点で必要のない信号機が偉そうに指示していた。
なぜこんな電子制御の機械を無視するたびに罪悪感を押し殺さねばならないのか。
そうこう考えるうちにハイヒールの鋭いピン先が痛みをともない鼓膜に穴を開け始めた。
この靴音は背後より陰湿に近寄り、追い抜きざまに片耳の穴から侵入してきたものと思われる。
本能的に危険を感じ、身をかがめ、その凶悪なる靴音の発信源、ミニスカートの女の足首をつかんだ。
その若い女は若い女の声で悲鳴をあげた。
「ああ、やめてください」
「なにを言ってるのだ、この女は。やめなければならないのはおれではなく、おまえではないか。そうではないか。ええ、そうではないか」
「だ、誰か。た、助けて!」
女の両足からハイヒールを奪い取ると、信号機を無視して一目散に自宅に引き返し、玄関の金属のドアを閉め、内鍵をかけ、呼吸を整えるため、うろ覚えのラジオ体操を試みた。
どうにか落ち着いたところで風呂あがりのまま全裸だったことに気づき、手に持っているのがハイヒールでなく女物の下着一式であることをいぶかり、異星の電波受信用アンテナ設置工事申込書入り返信封筒が消えていることに愕然とした。
ねじれた欲望
by Tome館長
はるか遠い星よりの電波を受信するというアンテナ設置工事の申込書をしたため、返信封筒に入れてテープで止め、それを投函するべく外に出た。
なまあたたかい春の夜風がとぐろを巻いて風呂あがりの生首を絞める。
いつものように信号機など必要のない交差点で必要のない信号機が偉そうに指示していた。
なぜこんな電子制御の機械を無視するたびに罪悪感を押し殺さねばならないのか。
そうこう考えるうちにハイヒールの鋭いピン先が痛みをともない鼓膜に穴を開け始めた。
この靴音は背後より陰湿に近寄り、追い抜きざまに片耳の穴から侵入してきたものと思われる。
本能的に危険を感じ、身をかがめ、その凶悪なる靴音の発信源、ミニスカートの女の足首をつかんだ。
その若い女は若い女の声で悲鳴をあげた。
「ああ、やめてください」
「なにを言ってるのだ、この女は。やめなければならないのはおれではなく、おまえではないか。そうではないか。ええ、そうではないか」
「だ、誰か。た、助けて!」
女の両足からハイヒールを奪い取ると、信号機を無視して一目散に自宅に引き返し、玄関の金属のドアを閉め、内鍵をかけ、呼吸を整えるため、うろ覚えのラジオ体操を試みた。
どうにか落ち着いたところで風呂あがりのまま全裸だったことに気づき、手に持っているのがハイヒールでなく女物の下着一式であることをいぶかり、異星の電波受信用アンテナ設置工事申込書入り返信封筒が消えていることに愕然とした。
published : 2010/04/19