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想創形造家

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文学・文芸 > 小説

セザンヌ〜メリークリスマス(南仏から)仮題 後編

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セザンヌ〜メリークリスマス(南仏から)仮題 後編

by CANBEESANTA

  • iコンセプト

     ではでは後編を、、、、。
    そろそろ日本に戻ろう。

  • iコメント

     ——————7年後——————

     時間ばかりが過ぎてゆく。何処かにある諦めが淡い期待とせめぎ合う。”何故”という問いかけは、とっくに意味を失った。何を聞かれても誰に尋ねても埃ひとつ出てこない。ロックしたままの扉の向こう側だけが時を止めている。僕は固まった時を抱いて独りの日常を過ごしてきた。
     あれから無彩色の堕天使は原版に張り付いたままだ。展覧された片方は君の予想通り、コテンパンに批判の嵐を呼んだ。それなりに画壇の一角に腰を降ろす爺さんバアサンからの数多の忠告。

    ”出品規定を尊守すべきだ!”
    ”規格外”
    ”額が工芸的すぎる”
    ”タイトルが長すぎる、文芸的だ!、、、”過去の出品作まで否定された。

     『だから言ったじゃない』 そんな君の声が聞こえる。
    心の何処かでいやらしくも、そろそろ在籍期間と受賞歴から、僕が何何大臣賞の順番の優先席にいると期待していたんだ。僕を拾い上げてくれた重鎮が死んでから僕はどんどん隅に追いやられた。寄り添える君が居なくなって凹みながらも我がままに生きてきた。
    我慢の素振りも見せないで、与えられるものが手に入るまでレンドルミンを噛み砕いていられれば良かったけれど、、、。

     失踪宣告。突きつけられた現実に僕はけじめをつけなくちゃならない。
    抜け殻が壊れないように足を忍ばせ、カーテンを開き窓を解放する。7年もの間淀み続けた空気が石灰岩の山に飛んでゆく。鏡台に残された化粧品をひとつづつゴミ袋に放り込む。セザンヌのツートンカラーアイシャドウ10番色。お気に入りを置いてきぼりにしてまで君は素顔でいたかったのか。特別な日用のリップも捨てた。
     僕は上辺丁寧を装い、画壇の偉いさん宛に退会届を送った。こんな文面だ。

    ” 拝啓

     私に対する様々なご批判の中、ご尽力下さったことに感謝致しております

     しかしながら、私にとって何より大切なことはあくまで自由に表現する事であり、受け入れられない所に居続けることは、余りに不幸と云わざるを得ません。

     これまでのご厚情に改めて感謝致します
    お体ご自愛くださり、新たな境地を目指されますようお祈り申し上げます
                   敬白”


     祭壇に飾る写真をどれにしようか。クリスチャンでもない君が手を合わせた十字架を背負ったキリスト像。積み重なった髑髏。
    情事の後、リンゴを齧っているモノクロームをピンから外した。

     君の暖かく溢れ出す蜜を舐め、香りを嗅ぐ。じっと困惑の瞳を見つめながら大腿を絡ませる。シルクの肌触り。吐息に耳を澄ませ君を味わう。
    どんなに求めても足りない。桜色に染まった乳房を鷲掴みして激しく君の内に分け入る。
    今生きている事を証明したくて君の唇を塞ぐ。
    ”アイシテル”の言葉はアテにならない。真実を見つけようと身体中舌を這わせる。
     レース越しに射す冬の星座が瞬く。サイドテーブルのイエスが揺れる。飲み止しのワイングラスが倒れる。ピノワールがシーツに零れ落ちた。赤い染みが拡がる。
    僕の鼓動と君の嬌声が中心点に向かう。
    瞬間、本当の世界が見えた。匂いが見えたんだ。僕らは放香に包まれた。藤の籠に形が崩れ色を失ったままのリンゴがひとつ。
    サント・ヴィクトワールにアルミタラの矢は届かなかった。

     抜け殻住人不在のまま,僕は民法30条の列に加わる。サント・マルトの鐘の鳴る日、僕は片翼だけの天使になった。
    壊れた片足に車輪をつけた。あばら骨は折れて、ほとんど無くなってしまったけど今も君を忘れない。天使の輪はいつでも逃げない様に掴まえておくつもり。暗闇に浮かぶように夜光塗料をを吹き付けておいた。君が迷わない様にね。僕はずっと君を見つめているから大丈夫。

     小雪が散らついて来た。風邪には気をつけて。フラノマフラーに青いバラを供えよう。 聖なる君へ,メリークリスマス。

     エクス・アン・プロバンスにて
     20XX年12月24日 永眠

  • iライセンス

    表示-非営利-継承

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セザンヌ〜メリークリスマス(南仏から)仮題 後編

by CANBEESANTA

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     ではでは後編を、、、、。
    そろそろ日本に戻ろう。

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     ——————7年後——————

     時間ばかりが過ぎてゆく。何処かにある諦めが淡い期待とせめぎ合う。”何故”という問いかけは、とっくに意味を失った。何を聞かれても誰に尋ねても埃ひとつ出てこない。ロックしたままの扉の向こう側だけが時を止めている。僕は固まった時を抱いて独りの日常を過ごしてきた。
     あれから無彩色の堕天使は原版に張り付いたままだ。展覧された片方は君の予想通り、コテンパンに批判の嵐を呼んだ。それなりに画壇の一角に腰を降ろす爺さんバアサンからの数多の忠告。

    ”出品規定を尊守すべきだ!”
    ”規格外”
    ”額が工芸的すぎる”
    ”タイトルが長すぎる、文芸的だ!、、、”過去の出品作まで否定された。

     『だから言ったじゃない』 そんな君の声が聞こえる。
    心の何処かでいやらしくも、そろそろ在籍期間と受賞歴から、僕が何何大臣賞の順番の優先席にいると期待していたんだ。僕を拾い上げてくれた重鎮が死んでから僕はどんどん隅に追いやられた。寄り添える君が居なくなって凹みながらも我がままに生きてきた。
    我慢の素振りも見せないで、与えられるものが手に入るまでレンドルミンを噛み砕いていられれば良かったけれど、、、。

     失踪宣告。突きつけられた現実に僕はけじめをつけなくちゃならない。
    抜け殻が壊れないように足を忍ばせ、カーテンを開き窓を解放する。7年もの間淀み続けた空気が石灰岩の山に飛んでゆく。鏡台に残された化粧品をひとつづつゴミ袋に放り込む。セザンヌのツートンカラーアイシャドウ10番色。お気に入りを置いてきぼりにしてまで君は素顔でいたかったのか。特別な日用のリップも捨てた。
     僕は上辺丁寧を装い、画壇の偉いさん宛に退会届を送った。こんな文面だ。

    ” 拝啓

     私に対する様々なご批判の中、ご尽力下さったことに感謝致しております

     しかしながら、私にとって何より大切なことはあくまで自由に表現する事であり、受け入れられない所に居続けることは、余りに不幸と云わざるを得ません。

     これまでのご厚情に改めて感謝致します
    お体ご自愛くださり、新たな境地を目指されますようお祈り申し上げます
                   敬白”


     祭壇に飾る写真をどれにしようか。クリスチャンでもない君が手を合わせた十字架を背負ったキリスト像。積み重なった髑髏。
    情事の後、リンゴを齧っているモノクロームをピンから外した。

     君の暖かく溢れ出す蜜を舐め、香りを嗅ぐ。じっと困惑の瞳を見つめながら大腿を絡ませる。シルクの肌触り。吐息に耳を澄ませ君を味わう。
    どんなに求めても足りない。桜色に染まった乳房を鷲掴みして激しく君の内に分け入る。
    今生きている事を証明したくて君の唇を塞ぐ。
    ”アイシテル”の言葉はアテにならない。真実を見つけようと身体中舌を這わせる。
     レース越しに射す冬の星座が瞬く。サイドテーブルのイエスが揺れる。飲み止しのワイングラスが倒れる。ピノワールがシーツに零れ落ちた。赤い染みが拡がる。
    僕の鼓動と君の嬌声が中心点に向かう。
    瞬間、本当の世界が見えた。匂いが見えたんだ。僕らは放香に包まれた。藤の籠に形が崩れ色を失ったままのリンゴがひとつ。
    サント・ヴィクトワールにアルミタラの矢は届かなかった。

     抜け殻住人不在のまま,僕は民法30条の列に加わる。サント・マルトの鐘の鳴る日、僕は片翼だけの天使になった。
    壊れた片足に車輪をつけた。あばら骨は折れて、ほとんど無くなってしまったけど今も君を忘れない。天使の輪はいつでも逃げない様に掴まえておくつもり。暗闇に浮かぶように夜光塗料をを吹き付けておいた。君が迷わない様にね。僕はずっと君を見つめているから大丈夫。

     小雪が散らついて来た。風邪には気をつけて。フラノマフラーに青いバラを供えよう。 聖なる君へ,メリークリスマス。

     エクス・アン・プロバンスにて
     20XX年12月24日 永眠

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published : 2012/12/17

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