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2011/03/09
イーゼルのこちら側。それが、私の居場所だ。
凛と張り詰めた空気。空気を震わせるのは、紙をこする音。鉛筆が触れ合う、乾いた音。それだけ。私は微動だにせず、一定の時間、ただの人形であり続ける。動作、という、動物に許された最大の価値をかなぐり捨て、じっと無機物のようにあり続ける。
私は、描かれている。イーゼルが、描く者と描かれる者との間に隔たりを作る。真白な空白を、画家は自分の想いで埋めていく。
時には優しく。時には大胆に。イーゼルの向こう側の画家が変わる度に、違った私が記録されていく。炭素の粉と、紙。ただそれだけで、様々な私がそこに現れる。
私はたった一人だが、残される私はたったひとつではない。様々な紙に、キャンバスに、残された様々な私がどこかで生きていく。
イーゼルのこちら側。たった一人の私から、様々な私が巣立っていく。そんな私の居場所。