宮尾節子

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恋愛の足音、恋愛の上着

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恋愛の足音、恋愛の上着
         宮尾節子     
耳を澄ませると
建仁寺の裏にあった
今田幸一アパートの二階に
あがってくる足音の(靴下を履いている白だ)
トントントンが聞こえてくる
恋愛の足音だ。

トントント、ンと口まねをする
恋愛の足音につながる

あの足音が扉を開けて、わたしを抱きにくるのが
どんなにワクワクしたか

開けるな、音のままで居ろ。
と願ったので、まだ音のままで居る恋愛の。

置いて行った上着も、あった。
頬にあてると、恋愛の匂いがした。
恋愛の上着だった。

ああ、ここにからだが入っていたと
思うと、
どんなに胸がきゅんっとなったか
恋愛の上着に

このままで、と願わなかったので
上着もひとも、いなくなって

トントントンと
今田幸一アパートの階段あがる
足音だけが
(今が一番幸せだ、
 みたいな名前のアパートで)
袋とじのように、今もわたしの耳に恋愛をあげる。

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published : 2016/05/03

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