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クリエイターと著作権 文:弁護士 益山直樹

第七回 「著作者人格権」(2)

 前回は、著作者人格権のうち、公表権について説明しました。今回は、その著作物の作者が誰なのかを表示することができる権利(氏名表示権)と、著作物を無断で改変することを禁止できる権利(同一性保持権)についてご説明した後、著作物が利用される際に著作者の名誉を守る権利についてご説明します。

氏名表示権

ケース1
きのこに詳しいライターBが、自ら撮影した毒きのこの画像を自分のウェブサイトに掲載していたところ、ある地方公共団体Cの職員Dがその画像ファイルを複製して、公式サイトに「食べたら危険!マジックマッシュルーム」という言葉とともに9年間掲載し続けた。
01
氏名表示権の意義・内容
 著作者は、その著作物の原作品に、またはその著作物の公衆への提供・提示に際し、その実名・変名を著作者名として表示し、または著作者名を表示しないこととする権利を有します。それを原著作物とする二次的著作物についても同様です。この権利を氏名表示権といいます。原著作物については制限なく氏名表示権の対象となり、複製物や二次的著作物については公衆への提供・提示の際に氏名表示権が及びます。
 画家が自分の作品にサインやマークを入れていたり、本の表紙に作者名が表示されていたり、映画のクレジットで監督名等が表示されたりしているのは、氏名表示権が行使されている例といえます。小説をコミック化する場合のような二次創作では、作画者と区別して原作者として作家名が表示されます。
 著作者として氏名が表示された人は、法律上その著作物の著作者と推定されることになります。
 著作物の利用を許諾された人は、別段の意思表示がない限り、すでにされた表示方法に従って表示すれば足ります。例えば、ジブリの「魔女の宅急便」の主題歌のように松任谷由実さんの「荒井由実」時代の楽曲を利用する場合、「荒井由実」と表示すればよいことになります。
 著作者でない者の実名又は周知された変名を著作者名として表示した著作物・二次的創作物の複製物を頒布する行為は、刑事罰の対象となります。例えば、有名マンガ家の作風を真似た作品をそのマンガ家の作品と嘘の表示をして、その複製物を流通させるような場合です。
 さて、ケース1を見てみましょう。これも実際にあった事例です。この事件で裁判所は、Bの著作物であるきのこの写真を、著作者であるBの氏名を表示せずにDがCの公式サイトに掲載した行為について氏名表示権の侵害と認め、無断使用についてCに対し写真1枚1年間当たり1万円で換算した使用許諾料相当額の損害をBに賠償するように命じました。
 なお、氏名表示権は著作者を保護するための制度ですから、著作者の同意があれば氏名表示がなくても侵害にはなりません。ケース1の事例ですと、仮にBがそのきのこの画像を載せた自分のサイトに「ここにある写真の転載は自由です。」とでも書いていれば、同意があったと見られることになるでしょう。
ケース2
平成9年、広告写真家Eが、建築業者Fから広告誌に掲載する写真の撮影の注文を受けて写真を撮影し、写真の使途やその著作権の帰属、フィルムの所有権の帰属等を明示せずにそのフィルムを取材手数料や交通費等の支払いと引き換えにFに引き渡した。Fは平成11年から平成14年にかけて8回にわたり、Eの撮った写真を木造住宅の新聞広告に使用した。Eは、氏名表示もなく許諾もなしに写真を新聞広告に使用されたとして、Fに対し損害賠償とフィルムの引き渡しを求めて訴訟を提起した。
02
著作者名の表示を省略できる場合
 著作者名の表示は、著作物の利用の目的および態様に照らして著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないときは、公正な慣行に反しない限り、省略することができる、とされています。
 ケース2も実際にあった事例ですが、裁判所は、広告に写真を用いる場合は撮影者の氏名は表示しないのが通例であると認め、新聞広告での写真の使用は、その目的態様に照らしてEが創作者であることを主張する利益を害することはなく、公正な慣行にも合致するので、Eの氏名表示を省略することができる場合に該当し、使用許諾の有無は氏名の省略が認められるかどうかとは関係がない、としました。

同一性保持権

01
同一性保持権の意義・内容
 著作者は、その著作物およびその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとされています。この権利を同一性保持権といいます。この権利の対象は、「著作物およびその題号」です。つまり作品そのものだけでなく作品名の同一性も保護の対象になります。作品名はその作品に表現された内容と密接な関係があるからです。他方、公表権や氏名表示権と異なり、二次的著作物には対象になっていません。理由は、そもそも二次創作は原著作物を改変するものですし、原著作物の著作者は二次創作に一定のコントロールを及ぼすことが可能だからと考えられます。
 また「その意に反して」とあるように、許されないのは著作者の意思に反する改変なので、著作者の意思に反しないような改変であれば許されます。著作者の意思に反するかどうかの判断方法は、その著作者の主観を基準にするという見解が従来の考え方ですが、それでは著作権者が著作物を利用に際し改変を加える必要がある場合に、著作者との関係でどのような改変が許され、あるいは許されないのかが明らかでなく、著作物の利用に支障が生じる可能性があります。そこで現在では、その分野における通常の著作者からみて社会通念上その意に反すると考えられるか否か客観的に改変の許容性を判断するべきだという見解が有力になってきています。
02
同一性保持権の制限
 次のような場合には、著作者の意思に反するような改変をその著作物に施しても、適法とされています。それは、ア学校教育上の改変、イ建築物の増築等による改変、ウプログラムの著作物の改変、エやむをえない改変です。
ア
学校教育上の改変について
教育用図書や教育番組等に著作物が利用される場合、著作権が制限されることがあるのですが、著作者人格権である同一性保持権も制限されます。国語で小説を教材にする場合に、試験の「虫食い問題」とか、差別的表現を教育的観点から改めるような場合です。
イ
建築物の増築等
建築物も著作物に当たりうることは第3回で述べましたが、建築物は、重要な財産であり実用的なものでもありますので、その観点から必要な増改築については、著作者は同一性保持権を主張できません。
ウ
プログラムの著作物の改変
法文上、「特定の電子計算機において利用し得ないプログラムの著作物を当該電子計算機において利用できるようにするため、またはプログラムの著作物を電子計算機においてより効果的に利用しうるようにするために必要な改変」については、同一性保持権を主張できないとされています。例えば、あるOSで使うことができても別のOSでは使えないソフトを、そのOSでも利用できるように改変するような場合です。
エ
やむをえない改変
上記アイウのほか、「著作物の性質並びにその利用の目的および態様に照らしやむを得ないと認められる改変」についても、同一性保持権を主張することはできません。注文したイラストを書籍等に掲載する際に、編集の必要な限度で一部を切除するような場合です。なお、著作者にその著作物の利用目的を明示していれば、その利用目的に必要な限度で改変されることについては同意があったと見られることも多いでしょう。

著作者の名誉声望の保持

 これまで説明した3つの著作者人格権以外にも、著作権法は、著作者の名誉または声望を害する方法でその著作物を利用する行為を著作者人格権の侵害とみなすとしています。これは、著作物の利用方法がその著作者の品位・信用・社会的声価を害することのないようにするための規定で、名望保持権とも呼ばれています。
「著作者の名誉または声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」とは、著作物の利用態様が著作者に対する客観的評価を低下させるおそれのある利用行為をいいます。典型例として、芸術作品である裸体画や写真を性風俗関係の店の看板として用いるような行為が考えられます。

著作者の死亡と著作者人格権

 著作者人格権は著作者の人格に基づく権利ですから、著作者が死亡すれば消滅してしまいます。その場合でも著作権法は、著作物を公衆に提供し、または提示する者は、原則として、その著作者が存在しなくなった後でも、存在しているとすればその著作者人格権の侵害となるような行為をしてはならない、としています。死亡した著名人の私的な手紙を公表するような場合です。

 以上、前回と今回の2回にわたり一通り簡単に著作者人格権についてご説明してきました。著作者にはこのような著作者人格権という譲り渡すことのできない権利があるため、著作物の制作の注文を受けて、注文主にその著作権を譲り渡す場合でも、契約で著作者人格権を行使しないという約束を求められることがあります。
 次回からは、著作物を財産として利用する権利についてご説明していきます。

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