1. クリエイターズバンク ホーム
  2. 特集一覧
  3. クリエイターと著作権
  4. 第六回 「著作者人格権」(1)

クリエイターと著作権 文:弁護士 益山直樹

第六回 「著作者人格権」(1)

 前回は、一つの著作物に複数の人が関与する場合の著作者・著作権者についてご説明しました。今回と次回は、著作者がその著作物について、人格に基づいて保有している権利についてご説明していきます。

著作者人格権とは

 著作物は「思想又は感情を創作的に表現したもの」です。「思想又は感情」は人格から生じますから、その思想又は感情を創作的に表現したものである著作物は、アートや文芸、音楽などジャンルを問わず、多かれ少なかれ著作者の人格が反映されると言えるでしょう。著作物には、作者がその魂を目に見える形にしたものという側面があるのです。

 著作権は、権利の対象となる著作物の利用を独占することができる権利ですので、他人がその著作物を利用するには原則として著作権者の許諾が必要となり、その際に対価が発生することがあります。このように、著作権者がその著作物の利用を独占し、他人にその方法に応じて利用を許諾することができる権利は著作権法に定められていて、それらの権利の総称が「著作権」であり、著作財産権ともいわれます。他方で著作権法は、著作物が著作者の人格の現れであることから、その人格的利益を守るための権利も定めています。それが著作者人格権と総称されるものです。

 著作者人格権には、公表権、同一性保持権、氏名表示権の3つがあります。著作者人格権は、その名の通り著作者の人格に基づく権利なので、他人に譲り渡すことはできません。その人以外にその人格を保有することはできないからです。

公表権

ケース1
有名サッカー選手Aが中学生時代の文集に書いた詩が、Aを論じる書籍に掲載された。Aはその書籍の出版社を訴えた。
01
公表権の意義・内容
 公表権とは、「未公表の著作物を公衆に提供又は提示する権利」であると規定されています。これは、自己の著作物を公表するか否か、公表するならその時期や方法を、著作者自身が自由に決めることができ、自己の未公表の著作物を他人が公表することを禁じることができるという権利です。公表権の対象となる著作物の種類に制限はありません。
 著作権法上、「公表」とは、著作権者又はその許諾を得た者によって、発行され、または上演、演奏、上映、公衆送信、口述、もしくは展示の方法で公衆に提示することをいいます。著作権法上「公衆」とは不特定の人、または特定でも多数の人のことを指しますが、前記のような行為によって公衆の目に触れるようになれば「公表」したことになります。ですから、イラストや文章をウェブサイトやSNSに掲載したり、展覧会に作品を展示したり、演劇を上演するなどの行為が「公表」に当たります。
 例えば、習作も創作性があれば著作物となりますが、習作物であれば作者は通常はその公表を予定していないでしょう。それを他人が無断で公表すれば公表権侵害となります。
 公表権の対象は未公表著作物ですので、すでに公表されているものについてはこの権利を主張することはできません。もっとも、著作者の同意なしに公表されてしまった著作物については、著作者はなお公表権を主張することができます。
 また注意すべきなのは、未公表著作物を原著作物とする二次的著作物にも、原著作物の著作者の公表権が及ぶことです。ですから、他人の未公表作品をもとに二次創作を行った場合、その二次創作物をその作者が公表すれば、原著作者は公表権侵害の主張をすることができます。
 さてケース1の例は、サッカー元日本代表・中田英寿選手が出版社を訴えた事件で、中学校の文集に掲載された詩を無断で書籍に掲載されたことが公表権を侵害するかが争点となったものです。この件では、本人の承諾があって300部以上の複製物が作成・頒布されていたことから、その詩はすでに公表された著作物であるとして、公表権侵害の主張は退けられました。
02
著作者の同意推定
 次の3つの場合には、著作者が公表することを同意していると推定されます。あくまで「推定」ですから、反証によりその推定をくつがえすことができます。ですから、同意が推定される以下のような場合に、著作者が公表されることを望まないのであれば、約束を交わして書面に残しておくなどしておかなければなりません。
 一つ目は、著作権者が未公表の著作物の著作権を譲り渡した場合です。この場合、その著作権の行使として公衆に提供または提示することについて同意したと推定されます。例えば、イラストの制作の注文を受けたイラストレーターが、その作品のデータを著作権ごと注文主に譲り渡した場合、注文主が後でその作品をパンフレット等に掲載するなどしても、著作者は公表について同意していたと推定されます。
 二つ目は、美術の著作物または写真の著作物で未公表のものの原作品を譲り渡した場合です。この場合、原作品を展示して公衆に提示することについて同意があったと推定されます。例えば、アーティストや写真家が未公表の作品を購入希望者に売った場合、その購入者が不特定多数の人の目に触れる場所にその作品を展示すると公表に当たりますが、著作者はそれに同意していたと推定されます。なお、物体である作品そのものの所有権と、その作品についての著作権は別個の権利ですから、原作品を譲り渡しても、著作権まで譲り渡さない限り、著作者は著作権を失うわけではありません。
 三つ目は、前回ご説明した映画の著作物の著作権が映画製作者に帰属する場合です。この場合も、著作権者である映画製作者がその映画を公表することについて、映画監督等の著作者は同意していたと推定されます。
03
みなし同意規定・適用除外規定
 未公表の著作物でも、公表について著作者の同意があるものとみなされる場合があります。推定とは異なって、同意がなかったと主張して反証することはできず、法律上公表を同意したとみなされる場合です。
 これはどういう場合かというと、国や地方公共団体などの公的部門が保有する情報等で、著作者から提供を受けた未公表著作物がある場合に、情報公開法制・公文書管理法制の円滑な運用を目的とするものです。
 この記事の読者の皆さんにはあまり関係がないと思われます。

 今回は、著作者人格権のうち公表権について説明してきました。著作物を創作した場合、著作者はその著作物について著作権を取得し、その利用を独占することができ、他人がその著作物を利用する場合には許諾を得なければなりません。そのような権利が著作権ですが、これは財産権ですので他人に譲り渡すことができます。しかし、著作者人格権はその名の通り人格に基づくもので、人格がその人自身から切り離せないことから、他人に譲り渡すこともできません。ですからある著作物の著作権を譲り渡しても、なお著作者人格権を行使することができるのです。次回は、氏名表示権と同一性保持権という権利についてについてご説明していきます。

著作権相談室

クリエイターの著作権ではクリエイターの皆様からの疑問・質問を募集しています。
著作権に関して理解できてない事、身近に起こったトラブル等、
著作権に関する事ならどんなことでもOKです。
皆様からの質問は"クリエイターと著作権"の特設コーナーにて益山弁護士により
丁寧に解説させていただきます。

疑問・質問は以下のメールアドレスまでお送りください。

メール先

【件名】クリエイターと著作権:質問・相談係
【本文】お名前(クリエイター名)・職業・年齢・性別・CREATORS BANKのIDと
ご相談・質問事項を添えて上記メールアドレスまでお送りください。

沢山のご相談お待ちしております。

※一部のご相談・ご質問内容に対して解説記事を公開させて頂きます。
※記事にて公開させていただくのは職業・年齢・性別のみです。
 お名前やCREATORS BANKのID等は公開されません。

特集ページ一覧へ

v注目のコンテスト

powered by コンペディア

vオススメのギャラリー

powered by ミーツギャラリー

k k