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クリエイターと著作権 文:弁護士 益山直樹

第五回 「著作者と著作権者」(2)

 前回は、そもそも誰が「著作者」となるのかについて原則を述べ、次に創作した個人ではなく、会社などの法人等が著作者となる場合(職務著作)についてご説明しました。今回は、一つの著作物の完成までに複数の人が関与した場合や、複数の著作物が合わさった場合、そして映画の著作物についてご説明していきます。

「著作者」とは

ケース1
マンガ家Aが、自ら取材して撮った風景写真をもとに、アシスタントBに指示して背景を描かせた。このマンガの著作者は誰か。
ケース2
二人組のライブペインターであるCとDが、共同して壁面に大きな絵を描いた。この絵の著作者は誰か。
ケース3
バンドのギタリストEとベーシストFが、セッションを通して作曲をした。この曲の著作者はだれか。
01
共同著作物となる場合これらのケースのように、世の中には著作物ができるまでに複数の人が共同して関与していて、それぞれが寄与した部分を分離して利用することができない作品がたくさんあります。このような場合、関与した人はみな著作者になるのでしょうか。
2人以上が共同して創作的に関与した著作物で、各人の寄与を分離して個別に利用できないものを、共同著作物といいます。このような共同著作物の著作権は、その作品の創作に関わった複数人が共同して有することになります。ただし、あくまで「創作的に」関与していなければなりません。
そこで上の各ケースを見ていきましょう
ケース1では、アシスタントBが描いた背景は、そのマンガ作品の一部であって分離して利用できませんが、その背景自体そのマンガ家Aが取材で撮った風景写真をもとに指示されて描いたもので、アシスタントBには創作的寄与がありません。この場合、そのマンガ作品の著作者はA一人となり、Bは著作者にはなりません。
ケース2では、CとDそれぞれの作品に対する関与の度合いによって結論が違ってくると思われます。Cが作品の構想をほとんど一人で行い、DがCの指示に従いながら共同で制作をしたような場合は、Dに創作的行為がないので、その作品の著作者はC一人となり、Dはケース①のアシスタントBと同じで著作者とはいえないでしょう。これとは異なって、CとDが二人で話し合って構想を練り、共同で制作した場合は、CとDがともに創作的に寄与したことになるので、共同して著作者となります。
ケース3では、EとFがセッションで互いにインスパイアし合って作曲したことになりますので、その曲について共同著作者となることに問題はないでしょう。
02
共同著作物の権利行使共同著作物については、各著作者全員の合意がなければ、公表したり、作品に変更を加えるなどの著作者人格権の行使をすることができないのが原則です。同様に、各著作権者全員の合意がなければ、複製や展示、演奏などの著作権を行使することができません。著作物の共同権利者は、その権利を行使する代表者を決めることができます。(なお、著作者人格権、著作権の内容については、別途ご説明していきます。)
それでは、例えばケース3のEとFが、この曲を発表する前に仲違いして、Fが嫌がらせで合意を拒んだ場合、その曲は発表できなくなるのでしょうか。このような場合に備え、著作権法は「信義に反して…合意の成立を妨げることはできない。」と規定しているので、この規定に基づいて訴訟手続を利用して裁判所に合意を命じてもらうことが可能です。
そこでEとしては、この規定を根拠にFに合意を求め、それでも応じなければ裁判所に訴えることができます。しかし、もしEがFの意向を無視してこの曲を発表すれば、逆にEがFから訴えられるリスクが生じます。
なお、実際の音楽ビジネスでは、作詞・作曲・実演をする人だけでなく、音楽出版社、レコード会社、著作権等管理事業者など多くの関係者が絡んできますが、本稿ではそのような事情を捨象します。

職務著作とは

ケース4
EとFが共同で作った曲に、ヴォーカルのGが作詞して、歌αを作った。この歌の著作権は誰にあるか。
ケース5
同人小説家H、I、Jがそれぞれ短編を書き、短編小説集を自主出版した。この短編小説集について、著作権はどうなるか。
01
ケース4では、歌αは楽曲と歌詞が一体として利用される音楽の著作物となり、E、F、Gがその著作者となります。もっとも歌αは、歌なしで曲だけを演奏して利用することもできれば、詞だけを書籍に掲載するなどして利用することもできます。このように、複数の著作物が結合して一体的に創作されていても、それぞれ分離して利用することが可能なものを結合著作物といいます。ケース4の場合、第三者が歌なしで曲のみを利用する場合はEとFのみの許諾を得ればよく、また歌詞のみを利用する場合は、Gから許諾を得るだけで足ります。
これとは異なり、ケース5のように、複数の小説家の作品を集めた短編集は、個別に独立した各作品が集まったものです。このような個々に分離可能な著作物が集められたものは、集合著作物と通称されています。この場合、第三者がそれらの短編小説を利用する際に個別にその作品の著者の許諾を得れば足ります。

プログラムの著作物が職務著作とされる場合について

ケース6
テレビ局K、映画配給会社L、広告代理店Mなどが出資して製作委員会を組み、
映画βを製作した。
01
映画の著作物映画の著作物は、法文上「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含む」とされています。劇場用映画が典型ですが、アニメーションやテレビドラマ、CM、さらにはコンピュータ・ゲームの映像も含まれるとされています。個人がホームカメラで撮影したものも含まれますが、固定されて自動的に撮影される防犯カメラの映像などは、人の思想又は感情を創作的に表現したものとはいえませんので、著作物ではありません。
02
映画の著作物の著作者映画の著作物の著作者は法文上、「制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」とされています。典型的には、実写映画を例に考えれば、作品の全体像を想い描き、それを表現するために、ロケハンや撮影の管理、役者の演技指導、編集などを行う映画監督が映画の著作者となります。照明・録音・美術・衣装などの技師や助手などは、映画作品について創作的表現を行ったわけではないので、著作者にはなりません。
また、映画の原作となる小説やマンガなどの作者は、原著作物の著作者ではあるものの、その二次的著作物である映画の著作者となるわけではありません。もっとも、原作者が映画制作について創作的に関与した場合は別です。
03
映画の著作物の著作権者著作権法は、「映画の著作物の著作権は、その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、当該映画製作者に帰属する。」としています。そこで、映画製作者が別にいて、映画の著作者が参加を約束した場合には、映画の著作者と著作権者は一致しないことになります
劇場用映画などは多数の者が関与するので、映画が円滑に流通するためには著作権の帰属を明確にしておく必要があり、また、多額の費用がかかる映画の製作費を負担するのが映画の著作者ではなく映画製作者であるところ事業活動としてその製作費を回収するためには、映画製作者に権利を帰属させる必要があること、これが、映画製作者に著作権を帰属させる理由です。
ですから、ケース6の場合、映画βの著作権は、βを製作するために組まれた製作委員会のメンバーであるK、L、Mらに帰属します。邦画やアニメを見ると、「製作・著作:◯◯◯◯製作委員会」という表示があって、そこにテレビ局や出版社、広告代理店などの名称が並んでいますが、これは、共同出資して製作委員会を組んだ企業が、映画製作者としてその著作権を共同して有している、ということです。

以上、今回は、共同著作物や結合著作物など、一つに見える著作物の創作に複数の人が関与した場合の著作権の帰属や行使について、そして映画の著作物の特殊性について、簡単に説明してきました。次回は、著作者人格権の概略についてご説明していきます。

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