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私はグループで映画の自主制作を行っており、自分で脚本を書き、監督もしています。この度、A会社から映画製作を提案され、資金提供を受けて映画を制作しました。具体的にどのような映画を作るかは、私達に委ねられました。作った脚本をA会社に見せてOKが出てから、製作資金が出ました。A会社はロケ地も紹介してくれましたが、映画そのものは自分が監督し、仲間を集めて自ら出演もし、編集作業も自分で行いました。A会社からの資金で賄えない経費は、私達が負担しました。この作品を、今後グループ名を出して映画祭に出品するなどしたいのですが、この映画の著作権についてはA会社との間で何の取り決めもしていません。この映画の著作権は、誰にあることになるでしょうか。
そのような事実関係では、A会社に著作権があるとは言いにくいと思われます。その映画の今後の活用方法に応じて、著作権の一部または全部の帰属や、著作者人格権の扱いその他について、A会社と協議して適切な取り決めをして、権利関係を明確にしておくとよいでしょう。
「映画の著作物」
視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物であれば、およそ映画の著作物に含まれると考えられます。「著作物」であるからには創作性が認められなければなりませんが、作者の個性が表現されていると言える程度で創作性は認められます。映画の著作物の典型例として想定されているのは劇場用映画ですが、自主制作映画やテレビドラマや各種のアニメ、ゲームの映像等も「映画の著作物」に含まれます。ですから、本件の映画も「映画の著作物」であることは問題ないでしょう。
著作者と著作権者
文芸や美術、音楽などの著作物が創作されると、それを独占的に利用する権利、つまり著作権が発生します。著作権は、その著作物の著作者が持つことになるのが原則です。例えば、小説はそれを書いた人がその著作者であり著作権者です。イラストも同様に、それを描いた人が著作者であり著作権者です。
しかし、著作者と著作権者は区別して考えなければなりません。なぜなら著作権は他人に譲り渡すことができ、その場合は著作者と著作権者が別になるからです。例えば、シナリオやイラスト等の公募の応募要項で「受賞作品の著作権は主催者に帰属します。」などと書かれているのを見ることがあると思います。これは、そのコンクールに作品を応募することで、受賞を条件として主催者にその作品の著作権を譲り渡すことに同意したものと考えることができます。このように、著作者が著作権を譲り渡せば、著作物の著作者と著作権者は別になります。著作者と著作権者については本編連載の第4回と第5回をご覧ください。なお、著作権を譲り渡しても、著作者には著作者人格権が残ります。この著作者人格権とは何かについても、本編連載の第6回と第7回をご覧ください。
「映画の著作物」の著作権者
著作権法上、映画の著作物の著作権は、著作者が映画製作者に対しその映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、その映画製作者に帰属するとされています。
典型的には映画監督が映画の著作者に当たりますが、映画監督が映画製作者からの依頼に応じてその映画を監督すれば、完成した映画の著作権はその映画監督にではなく、映画製作者が持つことになります。著作権法がこのように規定している理由は、劇場用映画のような著作物の製作には多額の資金がかかり、また多くの人が関与することから、権利関係を明確にして、映画の利用と流通が阻害されることがないようにするためです。
日本の劇場映画やアニメでは、テレビ局や広告会社などの複数の企業が製作委員会を組織し、そのメンバーが共同してその作品の著作権を持つことが一般的です。
では、そもそも「映画製作者」とはどういう人をいうでしょうか。
著作権法は、映画製作者を「映画の製作について発意と責任を有する者」と定義しています。ここで「映画製作者」が誰かについて争われた事件の判決(東京地方裁判所平成15年4月23日)の一部を引用します。
「映画製作者とは、自己の危険と責任において映画を製作する者を指すというべきである。映画の製作は、企画、資金調達、制作、スタッフ及びキャスト等の雇い入れ、スケジュール管理、プロモーションや宣伝活動、ならびに配給等の複合的な活動から構成され、映画を製作しようとする者は、映画製作のために様々な契約を締結する必要が生じ、その契約により、多様な法律上の権利を取得し、また、法律上の義務を負担する。したがって、自己の危険と責任において製作する主体を判断するためには、これらの活動を実施する際に締結された契約により生じた、法律上の権利、義務の主体が誰であるかを基準として判断すべきことになる。」
そこで、この判断基準に照らして、ご質問の例について考えてみましょう。
本件の場合の検討
本件において、映画製作に当たってのA会社の関与は資金提供とロケ地の紹介にとどまり、どのような映画を製作するか、そのために必要なマネジメント等は、すべて相談者に委ねられていたようなので、映画製作に当たって生じる法律上の権利義務はA会社ではなく相談者が負っていたと考えられます。そうすると、上記判断基準に照らせば、A会社が「映画製作者」とは言いにくいと思われます。そこで本件の映画を今後、映画祭に出品するなどして活用していくために、A会社との間で冒頭の回答に示したような対処をしておいた方がよいでしょう。
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