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キネマの屋根からバンジージャンプ vol.12「ロング・グッドバイ」

キネマの屋根からバンジージャンプ vol.12「ロング・グッドバイ」

ロング・グッドバイ

映画のあらすじ

◇ 自家用エレベーター付きのペントハウスで、賑やかな隣人たちを尻目に愛猫と悠々自適な暮らしをする私立探偵フィリップ・マーロウ(エリオット・グールド)。それは悪い報せの予兆だったのか?飼い主に愛想を尽かした猫は姿を消し、時を同じくして失踪した友人テリー・レノックス(ジム・バウトン)はメキシコの田舎町で死体として発見された。アルコール依存症の小説家ロジャー・ウェイド(スターリング・ヘイドン)とその妻アイリーン(ニーナ・ヴァン・パラント)、オーガスティン(マーク・ライデル)率いるチンピラ一味に怪しげな精神科医のドクター・ヴェリンジャー(ヘンリー・ギブソン)。複雑に絡み合った人間関係とカネ、欲望、裏切り、それぞれの思惑が交錯する中、マーロウは事件の真相へと次第に巻き込まれていく。点と点が繋がり一本の線となった時、そこにはやりきれない風が吹いていた・・・。
 主人公のフィリップ・マーロウを演じるのはエリオット・グールド。これまでのマーロウ=ハンフリー・ボガートというイメージを大きく覆す配役には、オールドファンを中心に否定的な意見も多かったグルード版マーロウも時を追う毎に評価は一変。現在ではグルード版こそ「史上最高のマーロウ」と推す声も少なくない。原作ファンには激怒されたという大幅改変された衝撃の結末の後、エンディングで軽快に流れる「ハリウッド万歳」の旋律にあわせてダンスを踊るマーロウの姿に、ハリウッド至上主義に向けたアルトマンの皮肉を込めた囁かな反抗心が透けて見える。

去り際の美学

 さよならだけが人生だ。

 そんな常套句すらも、さらりと口にしたくなるような最終回。キネマの屋根からバンジージャンプ最後に取り上げさせてもらう映画はその名もズバリ「ロング・グッドバイ」。原作にあたる『長いお別れ』は、ハードボイルドの聖典(バイブル)と謳われるレイモンド・チャンドラーの言わずと知れた傑作で、それを奇才ロバート・アルトマンが70年代のロサンゼルスを舞台に大胆な解釈で映画化。あの松田優作主演の人気ドラマ「探偵物語」にも多大な影響を与えた今作は、モジャモジャ頭にだらしなく緩めたネクタイが印象的な私立探偵フィリップ・マーロウが友人であるテリー・レノックスの死をキッカケに、一癖も二癖もある登場人物らに翻弄されつつ事件の真相へと近づいていくというハードボイルド・ミステリー。繰り返されるジョン・ウィリアムズ作曲のBGMと全編に漂うユーモア。終始のらりくらりと軽口を叩く主人公が最後の最後で見せる佇まいに、去り際の美学をズドンと突きつけられる。

アンチ・ハリウッド

 往年の名作シリーズを映画化するにあたって、原作に楯突くような脚本と挑戦的なキャスティングが正しい方向に進んだ数少ない成功例がこのアルトマンの「ロング・グッドバイ」。そもそも主役のマーロウに極太眉毛のエリオット・グールドを持ってくるあたりが実に憎い。ハンフリー・ボガートやロバート・ミッチャムといった名優たちが築きあげた(言い方を変えれば固めてしまった)ハリウッド・イメージを根本からぶち壊す配役にアルトマンのしたり顔が目に浮かぶ。そして、もうひとつ目を引くのが原作には描かれていないオリジナルの登場人物たちの存在。隣で集団生活している半裸のレズビアンたちやハリウッドスターの物真似をやたら披露したがる変わり者のガードマン、病室で相部屋になる謎の包帯ぐるぐる巻きの男等々。物語の本筋には関係ないにも拘らず、各々が強烈な印象を残しているから面白い。なかでもマーロウの飼い猫の存在感はピカイチで、チンピラの下っ端役で出演している若かりしアーノルド・シュワルツェネッガーなんてのは、この猫の足下にも及ばない。

 スーツのまま寝ていたマーロウが腹を空かせた猫にせがまれて渋々、夜中の三時にキャットフードを買いに出掛けるところから、物語は幕を開ける。猫ご指定の缶詰は在庫切れのため仕方なく代用品を買って帰り、猫お気に入りカレー印の空き缶に移し替える偽造交錯を試みるもあっさり見破られ、猫は外方を向いて何処かに消えてしまう・・・。この一連のやり取りで見せる猫の所作が驚く程に完璧で、それだけでもチケット代の元は取れると言っても大袈裟ではないほどに秀逸。日本でもかつてバブルの時代に「子猫物語」なる映画がヒットしたこともあるが、それとこれでは比べちゃいけない。

無頓着なまでのダンディズム

 これほどまでに喫煙シーンの多くみられる映画は、ジム・ジャームッシュ監督が手がけた「コーヒー&シガレッツ」かポール・オースターの脚本で映画化された「スモーク」くらいしか思いつかない。本編112分間の内、刑務所に収監されている間を除けばマーロウの口元で煙が揺れていない時はない。ロサンゼルスの街並を全力疾走しながらなんてのは序の口で、警察に尋問されていようがチンピラに脅されていようがお構いなしで旨そうにスパスパと吸い続ける。冒頭での起き抜けの一服を皮切りに、吸って吸って吸い続けること優に30本以上。車に撥ね飛ばされても口からタバコを離さない徹底ぶりには脱帽する。そんなヘビースモーカーを通り越したニコチン中毒っぷりに加え、夏のロサンゼルスには、些かむさくるしい感のあるスーツの着こなしとその風貌。依頼主の番犬に吠えられては、両手を挙げて降参するようなハードボイルド作品の主人公としては似つかわしくない振る舞い。それもこれもアンチヒロイズムとしての魅力がきっちりと機能していて、何とも言えずカッコイイのである。カッコイイことに対して無頓着であるがゆえの格好良さ、あえて言葉を探すなら“ダサかっこいい”と言うべきか。

 金も地位もなければ、愛する女もいない。飼っていた猫には愛想を尽かされ、依頼主の美女には利用される。信じた友人に裏切られ、挙げ句の果てに「負け犬」だと馬鹿にされる。それでも美学に殉ずるマーロウという男には揺るがない信条があり、軽妙洒脱でいて、そして誰よりも優しい。代名詞であるソフト帽もトレンチコートもないけれど、ハードボイルドの神髄は間違いなくここにある!

ロング・グッドバイ [DVD]

エリオット・グールド (出演), スターリング・ヘイドン (出演), & その他 形式: DVD

スタイリッシュなバイオレンス映画 BEST★5

ロング・グッドバイ

メキシコの警官の懐にジェームズ・マディソン元大統領が印刷された5000ドル紙幣が寄付され、友人であるテリー・レノックスの裏切りを確信する。惜別の銃声が鳴り響き、複雑な痛みを抱いたまま現場を立ち去るマーロウ。並木道を歩いていると、前からテリーの共犯者であるアイリーンが乗ったジープがスピードを緩めながら、こちらへとやってくる。そこでマーロウは言葉をかけることもなく、立ち止まる素振りすらも見せずにジープの横を通り過ぎてゆく。女の裏切りには一瞥もくれず、埃っぽいスーツのポケットから小さなハーモニカを取り出し、言葉にならない感情を音に乗せてただ黙々と歩きつづける。そんな彼の後ろ姿にこそ、同ランキング一位の称号が相応しい。劇中には使用されなかった原作の名台詞「さよならを言うのは、少しだけ死ぬことだ」なのだ。

シェーン

ワイオミングの荒野にふらりと現れた流れ者シェーン(アラン・ラッド)は、移住民であるジョー・スターレット(ヴァン・ヘフリン)の好意により家に泊めてもらう事となる。ジョーの妻マリアン(ジーン・アーサー)や一人息子のジョーイ(ブランドン・デ・ワイルド)にも気に入られたシェーンは、孤高のガンマンという顔を捨て、ひとときの安住を手にする。しかし、安らぎの日々はそう長くは続かなかった。酒場でのライカー(エミール・メイヤー)一味との喧嘩を口火に、殺し屋ウィルスン(ジャック・パランス)との決闘が迫る。深手の傷を負いながらも、悪党を殲滅したシェーン。「立派な男になれよ」とジョーイに言い残し、馬に揺られ去ってゆくシェーンの後ろ姿に「シェーン!カムバック!」と叫ぶジョーイの声がワイオミングの山々に響き渡るクライマックスは映画史上屈指の去り際との呼び声が高い。この時、既に馬上でシェーンは死んでいるか否かが世の映画愛好家の間で論争を生んだが、真相は藪の中。

レオン

観葉植物の鉢植えとミルクを愛する無口な殺し屋レオン(ジャン・レノ)と、留守の間に家族全員を皆殺しにされた孤独な少女マチルダ(ナタリー・ポートマン)が織り成す“純愛”を下敷きにしたバイオレンス・アクション不朽の名作!
物語の終盤で壁穴越しに交わす二人の別れのシーンも胸が熱くなる名場面だが、去り際の華麗さという点に於いては、やはりレオンとスタンスフィールド(ゲイリー・オールドマン)の最期のシーンには到底及ばない。背後から撃たれ仰向けに横たわる瀕死のレオンの元に、勝ち誇った表情で歩み寄るスタンスフィールド。「マチルダからの贈り物だ」掌で鈍く光る手榴弾のピンを目にし、たちまちスタンスフィールドの表情が一変する。「SHIT!」彼お似合いの下品な辞世の句と共に全てを吹き飛ばすレオン流のサヨウナラ。マチルダと再会する約束こそ果たせなかったものの、レオンによる見事な去り際には拍手喝采。

風と共に去りぬ

本国アメリカでは勿論、日本でも空前の超ロングランヒットを記録した全編三時間四十二分、間違って寝不足気味で鑑賞すれば爆睡必至の大長編ドラマ。直訳すれば「風と共に散ってしまえ」的なところをあえて「風と共に去りぬ」なんて訳した邦題のセンスに感銘を受ける。第12回アカデミー賞では9部門で受賞。だから、絶対に面白い!とは言わないが、これもまた名作と裏付けるひとつの証左であるのは間違いない。それから六十年という歳月が過ぎた1999年に、この映画のオスカー像が競売にかけられ、マイケル・ジャクソンが150万ドルもの高値で競り落としたという逸話はもはや伝説(盗品扱いで後々、アカデミーが回収)。そんな不朽の名作のラストシーンでスカーレット・オハラ(ヴィヴィアン・リー)の元を去り際に発したレット・バトラー(クラーク・ゲーブル)の「Frankly,my dear, I don’t give a damn(はっきり言って、どうでもいい)」という台詞はアメリカ映画協会の選ぶ「最も記憶に残る映画の台詞」に輝いたと言うのだから、どんな睡魔に襲われたって最後の最後まで目を離せる訳がない。

ショーシャンクの空に

舞台は1947年、聖書と規律を重んじる所長が牛耳るショーシャンク刑務所。若き銀行の副頭取だったアンディ・デュフレーン(ティム・ロビンス)は妻とその不倫関係にあったプロ・ゴルファーを射殺した疑いをかけられ投獄されてしまう。ある日の休憩時間、それまで口をきかなかったアンディが“調達係”のレッド(モーガン・フリーマン)に歩み寄り、ロックハンマーを注文する。「脱獄用の穴堀りに使うのか?」冗談めかすレッドを鼻で笑い否定するアンディ。それもそのはず、レッドの元に届いた品物は脱獄するのには600年はかかるだろう代物だった。長い監獄生活の中で起こる日常茶飯事の絶望、そして極稀に訪れる小さな幸福感。
アンディが服役してから19年という月日が流れ、独房の壁に貼られたポスターがリタ・ヘイワースからマリリン・モンロー、そしてラクエル・ウェルチに替わる頃、希望をまとった折れない心が奇跡を生む。
ホラー作家として名高いスティーヴン・キングによる非ホラー小説「刑務所のリタ・ヘイワース」を映画化。劇場公開時こそ興行成績は奮わなかったが、口コミなどにより確固たる人気を確立。刑務所の中で悪党ボグズに掘られそうになりながらも、自身は地道に壁を堀り進めるアンディの強靭な忍耐に平身低頭しっぱなし。脱獄する際に、所長の履いている高級革靴と自分のボロ靴を交換していくあたりに去り際の美学を感じずにはいられない。

今月のシネマDE英会話

残念だがこれで最終回、遂にお別れの時がきたぜ。
おっと、俺は湿っぽいのは苦手なんだ。
ラスト・レッスンも涙はいらない。サルものは追わず。
これまで通りにリピート・アフター・ミー!

“ It’s okay with me.”
【まぁ、いいさ】

他にも「勝手にしろ」だったり「構わないさ」等、言い回しは様々さ。
ちょっとだけ気怠い感じを醸し出しながら、声のトーンは低めにな。
そうすりゃ、気分はフィリップ・マーロウさ。

そうだ。そうだ。その調子!

映画の登場人物に成り切れば
英会話なんて御茶の子さいさい、ダロ?

文・イラスト:ゲンダ ヒロタカ 1980年、東京生まれ横浜育ち。専門学校でデザインを学んだ後、単身ロンドンへ留学。その後、映画好きが昂じて映写技師として映画館に勤務、現在はフリーライターとして活動中。

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