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◇ 組織から一億円の金を横領し逃走する鮫肌黒男(浅野忠信)は、退屈な日常と冴えない自分を捨てるために家出した桃尻トシコ(小日向しえ)と知り合う。「・・・もう、あんなところ、戻りたくないんです」震える声で呟いたトシコに「じゃあ、戻んなきゃいいじゃんか」と返す鮫肌。一方、血眼になって鮫肌を追う田抜(岸辺一徳)率いる組織の連中に加え、トシコを執拗に捜しまわる変態叔父のソネザキ(島田洋八)が殺し屋の山田(我修院達也)を送り込んだから事態は一層複雑に。それぞれの思惑が交錯する中、真夜中の森に数発の銃声が轟く。果たして最後に笑うのは?望月峯太郎の同名コミックを監督である石井克人が大胆に脚色。上記の出演陣以外にも、やりたい放題な会長の息子ミツル役を鶴見辰吾、鮫肌の兄貴分で物語のキーマンでもある沢田を寺島進と個性派揃いのキャスティングは鮮烈の一言。最初から最後まで「もたつき感」一切なし。超過激でクレイジーな新感覚ミクスチャー・ムービー!
スタイリッシュ【stylish】流行にあっているさま。当世風。いき。「―な着こなし」 バイオレンス【viorence】① 激しさ。強烈さ。② 暴力。暴行。
生ハムメロンというオードブルがある。イタリアやスペインで特に愛されるこの伝統料理は、ハムの強い塩味をメロンの甘みが和らげ、メロンの青臭さをハムの風味がカバーするという味覚上の相補性から生まれたものらしい。では、スタイリッシュ・バイオレンス・ムービーはどうか。バイオレンス映画に蔓延する血腥さを洒落た音楽や斬新なカメラワークが和らげ、スタイリッシュ映画特有の御軽い雰囲気を飛び散る血しぶきと銃声で引き締める。そんな視覚上の相補性から生まれたとも言える特異なジャンルから今回改めて紹介したいのがこの「鮫肌男と桃尻女」。ミスターマガジンで連載された望月峯太郎の同名コミックを、今作で監督二本目となる石井克人がCMディレクターならではの切り口で実写化。オープニングのアニメーションから有無を言わせずカッコいい!そんな日本映画のニュースタイルを提示した一本がここに。
鮫皮のジャケットに袖を通した浅野忠信が、時にはパンツ一枚になりながらもクールに主人公を演じきった今作。しかし、個性派だらけの集団にあって主人公・鮫肌黒男を確立する事への苦労や葛藤があったであろう事は想像に難くない。「強烈な人が多い中で自分が何もやらないこと、やらなきゃと思ってもできないことがなんか悔しくて、取り残されてるような気持ちだった。でも、できあがると、何もできてない自分というものがあの中ですごく良かったんですよ」そう浅野本人がとあるインタビューで振り返っているように、剛を柔で制すというべきか、ナチュラルを突き詰めたような演技っぽくない演技がスクリーンの中で一際目を引いている事に気づく。援助交際中の成金オヤジから強奪した黒のコルベットで走行中、助手席のトシコが淡々とオチのない夢での出来事を語るシーンがあるが、この二分少々の他愛もない話も浅野忠信というフィルターを通すことで難なく聞けてしまう、というよりも寧ろ聞き込んでしまうのだから不思議。「逃げ切れると思っているのか?」「思ってなきゃ逃げねえよ、バーカ」こんな肩の力が抜けるような会話が成立するのも、浅野忠信ならではか。
浅野忠信をはじめとする役者たちの魅力、監督の遊び心、ハイセンスな小物や演出の数々、この映画を語る上で着目したい点は山ほどある。ただ、どうしても避けて通れないのが山田の「や」マッチの「ま」タバコの「た」に濁点、山田!そう、殺し屋・山田の存在だ。かつて失踪事件で世間を騒がせた「若人あきら」という男は、子役時代から四十年近い時を経て、我修院達也としてスクリーンに戻ってくる。原作には登場しないオリジナルキャラとして圧倒的な存在感を放ち、作品全体の娯楽性をグンッと底上げしてしまった異色の新人俳優の抜擢には唸らずにいられない。一本に繋がったカモメ型の眉毛に、ダサいという言葉を突き抜けてもはや最先端にすら思える奇抜なファッション。そして、行く行くは宮崎アニメでも重宝される事となる個性剥き出しの声。公衆トイレでドナドナを熱唱し、暗視スコープを装着して二丁拳銃をブッ放すこの不世出の怪優をキャスティングした事実こそ「鮫肌男と桃尻女」の映画化による最大の功績なのかもしれない。なんてのは大袈裟か。
もはや説明不要、タランティーノ初監督作品にして全世界に衝撃を与えたインディペンデント映画の最高傑作。デビュー作から二打席連続で場外ホームランを叩き込んだタランティーノ作品としては、世界的にみると二打席目の「パルプ・フィクション」の方が認知度も支持も高いと言える。ただ、この「レザボア・ドッグス」が映画業界に与えた影響は計り知れないものがあり、未だに様々なカルチャーでパクられ続けると同時に映画業界の新たな教材として輝きを放っている。ホワイト(ハーヴェイ・カイテル)、オレンジ(ティム・ロス)、ブラウン(クエンティン・タランティーノ)、ピンク(スティーヴ・ブシェミ)、ブロンド(マイケル・マドセン)、ブルー(エディ・バンカー)と本名を隠して互いを色で呼び合うスーツ姿の男らは、ダイヤモンド強奪のために寄せ集められた前科者集団。そんな強面の男たちがマドンナの代表曲「ライク・ア・ヴァージン」についての新解釈を力説したり、朝食代のチップを払う払わないで揉めるなどの冒頭のシーンは全映画の中でも指折りの名オープニングと言っても過言ではないはず。ラジオのDJという演出で聴かせる劇中音楽、K・ビリーの送る“スーパーサウンド’70s”は選曲、タイミング共に申し分なし。なかでもブロンドが警察官への拷問中に、倉庫の外に停めてある車から灯油を持ってくる場面でのフェードアウトの使い方は秀逸。
パンツ一丁の鮫肌が森の中を疾走するシーンがなんとも印象的なこの作品だが、実に撮影の90パーセントが山中湖や河口湖周辺の森を使用しているという。「密室みたいな濃厚な感じがでる」「撮る角度によって表情が変わる」という二点の理由から、森での撮影を好む石井監督。森の他にも、山奥の郵便局やプチホテル・シンフォニーなど使用されるロケーションの雰囲気がことごとく絶妙。このオロナミンCのホーロー看板がよく似合う田舎っぽさが、何故だか「暴力」や「当世風」を描いた油絵を飾る額縁としては最適だったりする新発見。ミツルの回転式ジッポーライターに81年式黒のコルベットをはじめとするハイセンスな小物の数々もまた見所のひとつ。
エディ(ニック・モラン)、ベーコン(ジェイソン・ステイサム)、トム(ジェイソン・フレミング)の三人は闇商売を生業とするチンピラ。それに唯一の堅気であるソープ(デクスター・フレッチャー)を加えた四人の悪仲間は、ポルノ王としてロンドンの下町を牛耳るハチェット・ハリー(P・H・モリアーティ)相手にカード賭博で一攫千金を狙うも、逆に50万ポンドという巨額の借金を抱えてしまう。返済期日が迫り、八方塞がりのエディ。その時、隣室に住む男たちが大麻の売人グループを襲撃して大金を奪おうとしているのを耳にする。そこで閃いたエディは他の三人の仲間と共に、強盗から帰ってきた隣人をさらに強盗する計画を企てる。そこに麻薬王ロリー(ヴァス・ブラックウッド)やら借金の取り立て屋クリス(ヴィニー・ジョーンズ)などの面々が知らないうちに巧妙に絡み合い、事態は思わぬ方向に展開する。鞄に詰まった大金と骨董品の散弾銃を軸にした何とも痛快な争奪戦の行方やいかに。綿密な脚本による構成と斬新なアプローチで、監督ガイ・リッチーの名を一躍世に知らしめたクライム・ムービーの快作。
敬虔なカトリック教徒であるコナー(ショーン・パトリック・フラナリー)とマーフィー(ノーマン・リーダス)のマクマナス兄弟は、精肉工場に勤めながら慎ましくも楽しく暮らしていた。ある夜「悪なる者を滅ぼし、善なる者を栄えさせよ」という神の啓示を受けた二人は、間抜けだがどこか憎めない親友ロッコ(デヴィッド・デラ・ロッコ)も仲間に加え、次々とサウスボストンの街にはびこる悪人たちを処刑していく。マスコミによって英雄扱いされながらも、そんなことはお構いなしに処刑を繰り返す二人の聖者と一人の愚者。そんな状況に身の危険を感じたイタリアン・マフィアのボス、ヤカヴェッタ(カーロ・ロータ)は、禁じ手である伝説の殺し屋エル・ドゥーチェ(ビリー・コノリー)を仮釈放させることを決意する。果たして兄弟らに待ち受ける数奇な運命とは・・・。「最も恐れるべきは、善良なる者たちの無関心」神の代わりに悪を裁く彼らは正義なのか?新鋭トロイ・ダフィーによるスタイリッシュ・バイオレンスの傑作がここに誕生。FBI捜査官ポール・スメッカー(ウィレム・デフォー)の推理によって事件を遡る倒置法的演出は特筆モノ。そして、主役を喰らうウィレム・デフォーの映画史に残る怪演っぷりは、心の中の助演男優賞ぶっちぎり1位だ。
自動車工場で働きながら、天才的なドライビングセンスでカースタントの仕事もこなす寡黙な男、通称“ドライバー”(ライアン・ゴズリング)。哀愁漂う好青年といった風体の彼には、強盗犯の逃亡を手助けする「逃がせ屋」としてのもう一つの顔があった。そんなある日、アパートの隣の部屋に暮らすアイリーン(キャリー・マリガン)に一目惚れしたドライバーは、母子家庭である彼女とその幼い息子に実直に接し続けることで、少しづつ良い関係性を築きはじめていく。その矢先、服役していたアイリーンの夫スタンダード(オスカー・アイザック)の出所が決まったことから、物事の歯車がカチリと音をたててズレ始める。裏社会の抗争に巻き込まれ、翻弄されるドライバー。ずっと孤独に生きてきた男が愛するモノを守るためにハンドルを握り、戦うためにアクセルを踏む! どこか北野映画のエッセンスを感じる今作は、デンマーク人監督による疾走感溢れる上質のクライム・サスペンス。米ローリング・ストーン誌と英エンパイア誌が揃って2011年ベストフィルム第1位に選んだ逸品。
今回のレッスンは、初の邦画から抜粋だぜ。
トシコの携帯電話に叔父のソネザキが何度も連絡するシーン。
気絶するトシコの代わりに電話にでた鮫肌が言った台詞がこれ。
“ Get off my back ! ”
【ほっといてくれよ!】
劇中では「しつけーんだよ!オメェはよ」と鮫肌は言ってるけど
まぁ、意味としては概ねそんなとこだな。
世のうら若き乙女たち必須。
街にはびこるキャッチやナンパ野郎にはガツンと言うべき、ダゼ?
文・イラスト:ゲンダ ヒロタカ 1980年、東京生まれ横浜育ち。専門学校でデザインを学んだ後、単身ロンドンへ留学。その後、映画好きが昂じて映写技師として映画館に勤務、現在はフリーライターとして活動中。