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キネマの屋根からバンジージャンプ vol.07「オー・ブラザー!」

キネマの屋根からバンジージャンプ vol.07「オー・ブラザー!」

オー・ブラザー!

映画のあらすじ

◇ 1930年代ー ミシシッピー州の片田舎に広がるトウモロコシ畑を走り抜ける鎖で繋がれた三人の囚人がいた。中肉中背のエヴェレット(ジョージ・クルーニー)とチビのデルマー(ティム・ブレイク・ネルソン)、それにノッポのピート(ジョン・タトゥーロ)。彼らはエヴェレットが昔に隠しておいた現金120万ドルというお宝を掘り出す為に脱走したのだが、なんせその隠し場所がまもなくダム建設で川底に沈んでしまうというのだから時間がない。旅の道中に知り合った黒人ギター青年トミー(クリス・トーマス・キング)と「ズブ濡れボーイズ」を即席で結成し、ラジオ局に曲を売り込んで目先の金を手にした三人は尚、エヴェレットの隠したお宝を目指し目的地へと急ぐ。川辺で水浴びをする美女達に騙されたり、ヒッチハイクした相手は伝説の銀行強盗ジョージ・ネルソン(マイケル・バダルーコ)であったりとドタバタ劇の最中、本人らの知らぬ間に世間では「ズブ濡れボーイズ」のレコードが大ヒット。警察によって一度は逮捕されたものの「ズブ濡れボーイズ」の人気に便乗した州知事候補パピーの恩赦により解放され、エヴェレットは離婚していた妻ペニー(ホーリー・ハンター)ともヨリを戻し、万事オッケーめでたくハッピーエンド・・・かと思いきや恩赦を知らない強硬派の保安官に捕まり一転、処刑されることになってしまう。木の枝から垂れ並ぶ絞首刑の縄。横では墓穴を掘りながら歌う労働者の老人。絶体絶命の大ピンチに天を仰ぐ「ズブ濡れボーイズ」の面々。そのとき、遠くから轟音が聞こえ・・・。

ギリシャの叙情詩『オデュッセイア』を下敷きにコーエン兄弟がアメリカン・ルーツ・ミュージックをふんだんに散りばめて完成させたコメディ映画の傑作。本作品のサウンドトラックはグラミー賞を受賞する大ヒットを記録。

逆転願望

 もし何かしらのスポーツ中継を観戦していて、どちら側も自分の贔屓(ひいき)するチームや選手でなかった場合についつい負けている方に肩入れして応援してしまう節がどことなくある。これは別に負け犬根性的な卑屈な発想で敗者に感情移入しているのでは勿論なく、劣勢だったものが困難な状況をひっくり返すという劇的な瞬間を目にしたいという「逆転願望」のようなものが人間誰しも備わっているからではなかろうか。まぁ、学生時代に心理学を専攻していた訳でもない筆者が熱弁を振るったところで説得力には欠けるのだが、そんな気がする。いや、その筈だ。
 映画の世界にも多くの逆転劇は存在して、スポーツや勝負事に限定しなければ、それこそ莫大な数になる。時には裁判で判決をひっくり返し、ある時はこっぴどく失恋した相手を大逆転で振り向かせる。例を挙げれば両手ではとても足りない。今回取り上げる映画は、決して二転三転する展開で観客をハラハラドキドキさせっぱなしという訳ではないし、ましてやラストのラストで判明する真犯人に度肝を抜かされるようなクライムミステリーでもない。それでも最後の最後でやってくる大ピンチをひっくり返す大どんでん返しっぷりは、まさに痛快そのもの!

愛すべき凸凹トリオ

 『君らは宝を探している鎖で繋がれた三人組。宝物はみつかる。だがそれは目当ての物と違う。これから先、とても辛くて長い旅路が君らを待っている。危険に満ち満ちた道のり。だがそこで実に美しい物も見るだろう。きっと乳牛を目にするぞ。・・・・綿花小屋の屋根の上にな』

 物語の冒頭で、エヴェレットとデルマー、ピートの三人の脱獄囚は盲目の老人からこう助言される。どこか意味深であり、謎めいたこの言葉をなぞるかのように宝探しの旅は進んでいくのだが、なにわともあれこの凸凹トリオのキャラクターが秀逸。気性は荒いが騙されやすいピートにおっとりした性格で三人のバランスをとるデルマー、嘘はつくし手癖は悪いがどこか憎めないエヴェレットいう愛すべき三人の悪党たちに観客は引き込まれていく。劇中で腹を減らした三人が民家から焼きたてのパイを盗み、その代金として一枚のお札を石ころを重しにこっそりと置いていくシーンがあるのだが、このなんの変哲もないシーンにこそ彼らが決して正義のヒーローではないが悪党のなかの悪党でもないという緩やかな人物像が浮き出ている。そんな三人の中でも特に魅力的なキャラクターとして描かれているのがエヴェレットだろう。愛用するポマードはフォップ(めかし屋)ではなくダッパダン(だて男)一筋で、寝る時もヘアネットは欠かせないという異常なまでの髪型へのこだわり。「何の価値もない人」と愛する妻ペニーに三行半を突きつけられ、七人いる娘たちには「パパは列車に敷かれて死んだ」ということになっている哀しき父親エヴェレットが家族をなんとか取り戻そうとペニーの新しい婚約者に決闘を挑むも見事に返り討ちにあい撃沈するシーンなんかは哀愁漂いつつもそこはかとなくユーモラス。このダンディズムを絵に描いたような俳優であるジョージ・クルーニーがどこか間の抜けている小悪党を演じているのが観ていてとても楽しい。

フィクションの中にあるノンフィクション

 この物語は古代ギリシャの盲目の吟遊詩人として知られるホメロスの作品である『オデュッセイア』を下敷きにしたコーエン兄弟による創作ではあるが、その中に1930年代当時の歴史的背景(白人至上主義団体KKKの存在など)や実在した人物を至るところでリンクさせているのが何とも興味深い。例えば三人が偶発的にヒッチハイクした相手ジョージ・“ベビー・フェイス”・ネルソン。本名はレスター・ギリスといって、あのジョニー・デップ主演映画「パブリック・エネミーズ」で知られるジョン・デリンジャーの一味でもあった伝説の銀行強盗である。他にも『十字路で悪魔に魂を売り渡し、その引き換えにギターのテクニックを手に入れた』というクロス・ロード伝説で有名なロバート・ジョンソンこそトミーそのもので、本家のロバート・ジョンソンは1930年代にアコースティック・ギター一本でアメリカ大陸を渡り歩いている最中、ミシシッピにある国道61号線と国道49号線の交わる十字路で悪魔と取引を交わしたと言われており、まさに時代設定から場所までもがピッタリ一致しているのだからコーエン兄弟の遊び心には頭がさがる。

壮大なテーマをコメディタッチに

 何気なく触れたり、時には素通りしている様々な事柄がいつの間にか繋がって、ひとつの結果を生み出す。そこには運だとか科学では証明できない力が及んでいたり、及ばなかったり。辿り着いたその先にあったのは求めていた宝物とは姿形は違っても、それが求めていた物以上の輝きを放つ宝物であったり。なにが必然で、なにが偶然なのか?世の中のありとあらゆる事象はすべて神による仕業なのか・・・なんて、そのような壮大すぎるテーマと向き合うには荷が重すぎる映画コラムではありますが、この映画を観ればちょっとだけその答えのようなものを垣間見れたような気がします。綿花小屋の屋根に佇む乳牛、9000ヘクタールの湖に沈んだ結婚指輪、ズブ濡れボーイズが掴んだレコード契約金、愛する妻と可愛い娘が七人。幸せの形なんてものは不明瞭であり、同時に何よりも解り易いものだってことをゆるりと我々に教えてくれる映画『オー!ブラザー』。そう、斯くも人生は素晴らしい!

オー・ブラザー! [DVD]

ジョージ・クルーニー (出演), ジョン・タトゥーロ (出演), ジョエル・コーエン (脚本) | 形式: DVD

大どんでん返しのある映画BEST★5

ユージュアル・サスペクツ

元汚職警官のキートン(ガブリエル・バーン)、忍び込みのプロであるマクマナス(スティーヴン・ボールドウィン)と相棒のフェンスター(ベニチオ・デル・トロ)、爆薬のプロのホックニー(ケヴィン・ポラック)、そして詐欺師キント(ケヴィン・スペイシー)というスネに傷を持った五人の犯罪常習犯が大量の銃を積んだトラック強奪の参考人として一同に連行される。その六週間後、サン・ペドロ埠頭で船が大爆発し27人の死体と引き換えに9100万ドルが消えた。生存者は大火傷を負ってベッドに横たわる瀕死の男とキントの二人のみ。二人は見えない影に怯えながら、尋問によって一人の男の名前を口にする。悪魔と呼ばれた伝説の男 “ カイザー・ソゼ ”。
 これぞ大どんでん返しというクライマックスに誰もが欺かれるクライム・ミステリーの決定版。コバヤシ陶器製のマグカップが割れた瞬間、まさに「そして・・・フッと消えた」なカイザー・ソゼにしてやられた感MAX。

ゲーム

大富豪だった父の資産を引き継ぎ、投資家として成功していたニコラス(マイケル・ダグラス)。気づけば彼の父親が自殺をした年齢と同じ48歳の誕生日を迎えようとしていた。そんな中、久しぶりに再会した弟のコンラッド(ショーン・ペン)から「CRS」という会社の紹介状をプレゼントされ、そこから事態は思わぬ方向へと動いていく。玄関前に落ちていたピエロの人形、自分に向かって話かけてくるテレビの中のニュースキャスター、謎めいたウェイトレスのクリスティーン(デボラ・カーラ・アンガー)、そして消えた預金残高。「CRS」のオフィスで意味不明なテストを受けさせられて以来、彼のまわりに奇妙な出来事が頻発しはじめる。二転三転する展開に『息をつく暇がない』ってのはこの事かと実感しっぱなし。エンドロールが流れるその瞬間まで手汗べっちょり、疑心暗鬼120パーセントなサスペンス映画の傑作!

猿の惑星

テイラー(チャールトン・ヘストン)ら宇宙飛行士を乗せた宇宙船が時空を超えて不時着したのは、高い知能や文明を持った猿人たちが支配し、人間と猿との立場が言わば逆転した恐ろしい惑星だった・・・と、そんなパンチの効いたあらすじに付け加え、アカデミー賞において後にメイクアップ賞を設立するキッカケともなったリアルすぎる猿人の特殊メイクは、当時の観客達にとってかなりセンセーショナルだったに違いない。最近でも『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』が話題となるなど度重なるリメイクや続編は製作されつつも、やはり1968年にスクリーンを通して人類が遭遇してしまったあの浜辺に埋没する自由の女神像を超える衝撃は、もう味わえないのかもしれない。

シックス・センス

冒頭の「この映画にはある秘密があります。まだ映画を観てない人には、決して話さないでください」という前置きだけで脳内エンドルフィン分泌されまくり。大どんでん返し映画の定番中の定番。ハーレイ・ジョエル・オスメント君の天才子役っぷりたるや見事ではあるが、アクション俳優のイメージが根強いブルース・ウィリスがみせる円熟味の増した演技も忘れちゃいけない見どころ。ただし、この映画の成功を機に『振り返ってみれば、実はそうだったのか・・・』的な結末の作品が世の中にドッと増えたのは否めない映画界の功罪入り交じる傑作。弱冠29歳の新鋭M・ナイト・シャマラン監督による新感覚スリラーに世界が驚愕の一本。

オー・ブラザー!

大どんでん返しという意味では、他の作品に比べてパンチも弱く、予想外的な要素は圧倒的に薄いかもしれない。終始穏やかに進む展開とそれに呼応するように流れる音楽。ドジで間抜けだが、どこか憎めない凸凹トリオが繰り広げる珍道中という名の冒険活劇は、ほっこりした気持ちで最後の最後まで楽しめる。しかし、物語が幕を閉じる前の僅か数分でやってくる最大の危機を言葉の通り「ひっくり返す」ハッピーエンドは観ている者をニヤリとさせる魅力がある。まさに見事な大どんでん返しで5位にランク入り。

今月のシネマDE英会話

今回のレッスンは、使い勝手がイイ代物さ。
物語のラストでジョージ・クルーニー扮するエヴェレットが
よりを戻したペニーの肩に手をかけながら発した一言。

“ All is well that ends well ”
【終わりよければ全て良し】

これはウィリアム・シェイクスピアによる戯曲を引用してるんだゼ!
・・・って、実のところ俺はシェイクスピアって人は
あんま詳しく知らねーんだけどな。
まぁ、受け売りの知識も役には立つ、ダロ?

文・イラスト:ゲンダ ヒロタカ 1980年、東京生まれ横浜育ち。専門学校でデザインを学んだ後、単身ロンドンへ留学。その後、映画好きが昂じて映写技師として映画館に勤務、現在はフリーライターとして活動中。

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