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◇ 若かりし日の奇想天外なエピソードに満ちた思い出話を雄弁に話し、周りの人々を魅了するのが得意なエドワード・ブルーム(アルバート・フィニー)。彼の一人息子であるウィル(ビリー・クラダップ)は、そんな父の口から溢れでるお伽話のような話に、大人になるにつれて嫌悪感を抱くようになっていた。結婚式の祝宴で生じた仲違いをキッカケに疎遠となる父子。そんなウィルのもとに母親のサンドラ(ジェシカ・ラング)から父・エドワードが病に倒れたとの連絡がはいる。身重の妻ジョセフィーン(マリオン・コティヤール)を連れ添い、両親の暮らす実家へと戻ったウィルだったが、もう先の長くないだろう病床の父を目にし葛藤する。「父の本当の姿を知りたい」父親の過去を独力で辿りはじめるうちに、単なる『ホラ話』だと思っていたエドワードの思い出話の中に真実の姿が見え隠れしはじめる。そして死にゆく父親を前に、ウィルが最期にとった行動とは・・・。
原作はダニエル・ウォレスの同名ベストセラー小説。それを奇才ティム・バートン監督が手掛けることで、現実世界と回想シーンが見事に共存した珠玉のファンタジー映画となっている。「人の一生ってのは、つまりはこういう事なんだよ」と教えてくれる。そんなティム・バートン流 "人間讃歌 "。
アンチヒーローとしての最高傑作
「確執」「絆」「愛情」形はそれぞれ異なるが、父と息子を描いた作品は思いのほか多い。息子にとって父親とは常に尊敬する対象でありながら、いつかは追い抜くべき生涯のライバルとも言える存在。そんな独特な関係性こそが物語の底を押し上げるのかもしれない。そこで今回は父子による「確執」「絆」「愛情」の全てを網羅したヒューマンドラマとファンタジーを掛け合わせた異色作『ビッグ・フィッシュ』にスポットをあてたい。
話に長い尾ヒレをつけたホラ話。『ビッグ・フィッシュ』という言葉には、そのような意味合いも込められている。この映画の主人公はエドワード・ブルーム。年老いたエドワードをアルバート・フィニー、若かりし頃のエドワードをユアン・マクレガーがそれぞれ演じ、彼を中心に物語は現在と過去をせわしなく往復するのだが、この二つの世界観の隔離がなんとも絶妙である。これは監督であるティム・バートンによる魔法とでもいうべきか、エドワードの回想シーンから現在へ移り変わる瞬間ひとつをとってみても、車のクラクション音を巧みに利用した場面転換などは秀逸。全体的に鮮やかな色彩を基調とした回想シーンと比べ、現実世界を落ち着いたトーンで描くことで観客をタイムトラベル酔いさせずに、気持ちよくファンタジーと現実世界を行き来させてくれる。
「息子の生まれた日に釣り上げた伝説の巨大魚」「アシュトンの町に住む片目の魔女」「巨人のカール」「人を襲う森」「スペクターという裸足の町」「狼男のサーカス団」「徴兵中に出会った二人で一人の姉妹」「テキサスでの銀行強盗」・・・と、エドワードの生涯を語る上でこのような常識をやや逸脱したエピソードは後を絶たない。まわりの人間はそんなエドワードの荒唐無稽とも言える物語を愛してやまないのだが、息子であるウィルにとってそれらは事実と作り話の区別がつかない単なる『ホラ話』に過ぎない。エドワードが妻であるサンドラにサーカスの会場で一目惚れをし、戦争など様々な障害を乗り越えて現在に至るという"愛"の物語を「全部、作り話だよ」と一蹴するウィルに対し「でも、ロマンチックだからいいじゃない」と笑顔で返すジョセフィーン。この何気ないシーンにこそ、実はこの作品のテーマが集約されていたりもする。世の中には、ありのままに話すよりも伝わることがあるのではないか?そのような疑問符をエドワードが投げかけ、観客はウィルというフィルターを通して受け止める。そう、全ての事実が真実を語っているとは限らないのだ、と。
エドワードの『ホラ話』はユーモラスでどこか優しい。彼の嘘には私利私欲や悪意といったものが微塵もなく、どれも息子への愛に満ちている。それは親が子供に話すサンタクロースの存在と同じで、騙す行為そのものに温もりがあるからだろう。勿論、嘘をつくという行為は決して褒められたものではないかもしれない。だからといって、全ての嘘が後ろ指を指される様な物でもない気がする。それがホラ話であったとしても実際に起こったことだとしても、とくに重要なことではない。誰も傷つけない嘘。人を楽しませる嘘。そんな物があってもいいのではないだろうか。現代社会は「決まり事」や「常識」が多すぎて、無粋な時代。でも、この映画を観ればいつしか何処かに忘れてしまった「巨大な魚」を信じる心をきっと取り戻させてくれるに違いない。
現代の医学では決して解明できない謎の奇病『突発的なんとなく泣きたい気分症候群』。もはや空までも涙もろくなってしまう梅雨時シーズンともなれば患者の増大は致し方ない。ここで気をつけてほしいのだが、この病に必要なのは健康保険証ではなく最寄りのレンタルDVD店の会員証ということ。もし自分にも心当たりがあるという方がいらっしゃれば、是非この『ビッグ・フィッシュ』を処方させていただきたい。
このご時世《世界中が涙した!感動巨編、遂にロードショー》やら《ハンカチなしでは観られない!》などの安いコピーで大量に宣伝されたお涙頂戴モノの映画(いわゆるTearjerker)は、探すのに苦労しない。しかし、そんなTerjerkerにこれまでピクリとも涙腺が反応しなかった免疫力抜群であるはずの自分がクライマックスに病室でウィルが出した"答え"に恥ずかしながら映画館で初めて涙腺を緩めてしまった。まさかファンタジー映画でこうなるとは・・・と予想だにしてなかっただけに、自分でも驚いたのを憶えている。前年にウィルと同じく父親を亡くし、そして新しい命を授かったティム・バートンが撮ったからこその魂に響く作品。既に観たことがある人は、もう一度。まだ、観たことの無い方には是非ともオススメしたい一作である。とはいえ、これもドクター・ベネット(ロバート・ギローム)の言葉を借りるなら「好みの問題」なのかもしれないが。
エドワードは幼少の頃に手にした百科事典にある「金魚鉢が小さいと金魚は成長せず、金魚鉢が大きいと体は2倍、3倍、4倍にも成長する」という文章に感銘を受けて以来、小さな生き方をすべきでないと胸に刻む。そして、18歳になったある日「高い望みを持つ僕にこの町は小さい」という理由で巨人のカールと一緒に旅にでる。このユアン・マクレガー主演によるファンタジックな映像で綴られる虚実入り交じった冒険活劇には胸躍らされずにはいられない。脇を固める俳優陣もスティーヴ・ブシェミやヘレナ・ボナム=カーター、ダニー・デヴィートといった超個性派揃い。ラストに交わされる父子による心のやり取りに涙ポロリ。
1939年、イタリアはトスカーナ地方。ユダヤ系イタリア人のグイド(ロベルト・ベニーニ)は小学校教師ドーラ(ニコレッタ・ブラスキ)に恋をし、二人は駆け落ち同然で結婚する。一人息子のジョズエ(ジョルジオ・カンタリーニ)にも恵まれ、誰もが羨むような幸せな生活を送っていた家族三人だったが、残酷にも戦争の影が忍び寄る。ユダヤ人迫害による煽りを受け、強制収容所生活を虐げられる親子。母親と引き離された息子から不安を取り除くためについたお茶目な嘘を、最期の最期まで突き通す父の姿に何度も胸を締め付けられる。そして物語の終盤、ドイツ兵に捕まり連行されゆく中でジョズエに対しておどけてみせるグイドからは父親の『優しさ』というよりも『強さ』を教えられる。"90年代のチャップリン"と賞賛されたロベルト・ベニーニが監督、主演、脚本の三役を見事にこなし、アカデミー主演男優賞、外国語映画賞、カンヌ国際映画祭グランプリと名だたる賞を総なめにした感動作。
第52回アカデミー賞作品賞を受賞した言わずと知れた名作。テッド・クレイマー(ダスティン・ホフマン)は仕事第一主義で家族のふれあいすらままならない日々。そんな夫に見切りをつけた妻ジョアンナ(メリル・ストリープ)は5歳の一人息子ビリー(ジャスティン・ヘンリー)を残して家を出てしまう。これまで全くと言っていいほど家事にノータッチだったテッドは戸惑いながらも徐々にビリーとの父子ふたりの暮らしに喜びを見いだしていく。しかし、音沙汰のなかったジョアンナが突如「ビリーを取り戻したい」と裁判を起こした事により、事態は暗転していく。『原告クレイマー対被告クレイマー』による養育権をかけた裁判は、育児と仕事をうまく両立できず失業してしまったテッドには不利に運んでいき、結果、ビリーはジョアンナの手に渡ることになってしまう。そして迎えた父子ふたりでの最後の朝。テッドと仲良くフレンチトーストを作るビリーの瞳には大粒の涙が潤んでいた・・・。アカデミー助演男優賞に最年少でノミネートされたジャスティン君の名演に浸ること間違い無し。
後にこの映画を元にミュージカル化もされた全英超ロングランヒットのブリティッシュ・フィルム。イギリス北部の炭鉱町を舞台に、バレエダンサーを夢見た11歳の少年ビリー・エリオット(ジェイミー・ベル)と息子をボクサーに育てたい父親との摩擦と絆の両面を描いた感動作。ボクシング教室の片隅を借りてバレエ教室を営むウィルキンソン先生(ジュリー・ウォルターズ)に才能を見いだされたビリー少年だったが『バレエなんか女のやるものだ!』と反対される家庭環境に葛藤。やりきれない気持ちがスパークし、町へ飛び出して踊りまくるシーンがThe Jamの名曲「Town Called Malice」とマッチして秀逸。頑固一徹だった父親の心境にも少しずつ変化が訪れはじめ、最終的には名門ロイヤル・バレエ学校に入学したいという息子の夢を叶えてやるために、スト破りを決断。高額な入学費用を算出するために、亡き妻の形見である大切な貴金属を質屋にいれるなどの姿が泣かせる。数年後の成長したビリーにハッとして、それを万感の想いで見つめる父にグッとくる。
この梅雨ってヤツはどうもジメジメしていて、好きになれないね。
せめて、この英会話くらいはカラッといきたいもんだ。
それじゃあ、無駄話はこれくらいにして今回もレッスンと洒落込もうゼ!
今回は、これから旅立つエドワードに片目の魔女が耳打ちするシーンだよ。
それを見て「何て言ったんだい?」と訪ねた巨人カールに対して
エドワードが答えた台詞がこれ。
Beats me !
【さっぱり、わからん!】
どうだい?・・・・簡単、ダロ?
クイズをだされた時なんかに「参った、降参!」
みたいなニュアンスで使えるよ。
是非、多用しちゃってくれよ。
ただ、文字通りに「俺を打ちのめしてくれ!」
みたいな解釈をされないように要注意だ。
そこまでの責任は、俺にゃ負えないぜ。
じゃ、今回のレッスンはこのへんで。
文・イラスト:ゲンダ ヒロタカ 1980年、東京生まれ横浜育ち。専門学校でデザインを学んだ後、単身ロンドンへ留学。その後、映画好きが昂じて映写技師として映画館に勤務、現在はフリーライターとして活動中。