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クリスマスの足音が近づいて来た12月のロンドン。カムバックを心底願うマネージャー(グレゴール・フィッシャー)の後押しを受け、持ち歌をアレンジしただけのクリスマスソングで起死回生に賭ける元・ロックスターのビリー(ビル・ナイ)。着任直後、ぽっちゃりした秘書に一目惚れしてしまい、公務が手につかなくなってしまった若き英国の新首相デイヴィッド(ヒュー・グラント)。愛する妻を失った哀しみに明け暮れるダニエル(リーアム・ニーソン)と片思いに悩む義理の息子サム(トーマス・サングスター)。大親友の結婚を祝福する傍ら、その大親友の妻であるジュリエット(キーラ・ナイトレイ)に密かな思いを寄せるマーク(アンドリュー・リンカーン)。実の弟と恋人の浮気現場に遭遇してしまい、その傷心を癒す為に南フランスに向かった作家のジェイミー(コリン・ファース)。そこで生活する間、身の回りの世話を任せるために雇ったメイドのオーレリア(ルシア・モニス)。ポルノの撮影現場で共演したのをキッカケに、互いに心を揺らし始めるジョン(マーティン・フリーマン)とジュディ(ジョアンナ・ペイジ)。ひっきりなしに鳴り響く、病気の弟からの電話により自分の恋すらままならないサラ(ローラ・リニー)。ベッドインする事しか頭にないが、女性から全くもって相手にされない哀しきお調子者コリン(クリス・マーシャル)。自分の経営する会社の部下であるミア(ハイケ・マカッシュ)に鼻の下を伸ばすハリー(アラン・リックマン)とその妻で家庭を大事にするカレン(エマ・トンプソン)。
そんな豪華キャストによる9通りの"愛"の物語が、聖なる夜へのカウントダウンと共に
同時進行に描かれるロマンティック・コメディの傑作。
世の中に嫌気がさしたらヒースロー空港の到着ゲートへ人は言う"現代は憎しみと欲だけ"と そうだろうか?ここには"愛"の光景がある 崇高な"愛"ではなく、ニュース性もない父と子、母と子、夫と妻、恋人同士、懐かしい友人・・・"9月11日"の犠牲者が、あの時、かけた電話も"憎しみ"や"復讐"ではなく"愛"のメッセージだった見回すと、実際のところ この世には愛が満ちあふれている。
ヒースロー空港の到着ゲート。思い思いの相手と抱き合いながら再会の喜びを分かち合う人々を背景に、ヒュー・グラントによる上記のナレーションで物語は始まる。この映画の斬新なところは、まず本編のド頭に全ての答えをぶつけてくるところにあると思う。サスペンス映画で言うならば、開始2分で「私が犯人です」とカミングアウトしてくるかのように。しかし、この答え合わせともいえる確認作業にどっぷりと引き込まれてしまう。観客は冒頭に投げかけられた『この世には愛が満ちあふれている』という照れくさい程に直球な真理に135分かけて到達し、認識する。そう、現代人はどこかしら悲観的に世の中を見がちだが、よく目を凝らしてみれば"愛"はそこらじゅうに満ちあふれているんだ、と。
毎年、この季節になるとレンタルDVD店に設けられたクリスマス映画コーナーが賑やかになる。『ラブ・アクチュアリー』の棚は今年も寂しげだ。・・・と言っても、それは皆が次々に借りていくため、常にケースが空のまま陳列されているという意味合いにおいてだが。恋人がいようがいまいが、クリスチャンだろうが仏教徒だろうが、この映画を観たあとには誰もがクリスマスの到来に胸を躍らさずにはいられなくなる。そんなロマンティック・コメディというジャンルの旨味を存分に吸い尽くしたであろうこの作品は、主要キャスト19人よる9つの"愛"をモチーフにしたストーリー展開でどれも見応えがあり、映画を観る人それぞれの環境によって思い思いの"愛"に感情移入できるのが魅力だと思う。十人十色ならぬ十九人十九色のラブ・ストーリーと言ったところか。
そして感動とユーモアの絶妙なバランス。これほどクスッとさせる笑いと目頭をじんわり熱くさせるものが随所に散りばめられている映画は珍しい。それでいて、決してハッピーエンドの押しつけに終始しないのも共感できるところ。9つのストーリーの結末は様々であり、どの"愛"もうまくいく訳ではない。でも不思議とエンドロールが流れる頃には、全ての"愛"に着地点がある。
「エルトンと会って、たった10分でゲイになったのか?」
美女がウヨウヨしているというエルトン・ジョンのパーティーを早々に切り上げて、苦楽を共にしたマネージャーとクリスマスを過ごすために戻ってきたビリー。らしくない彼の優しさへの困惑と照れ隠しにマネージャーが発した一言がコレだった。まさにイギリスのお国柄らしいジョーク。このように思わずニヤケてしまうようなやり取りや台詞回しが至る所で楽しめる。そのどれもが、押し付けがましさのないユーモアでいて小気味良い。
個人的にお気に入りなのは、感慨にふけていたデイヴィッドがラジオから流れてきたオールディーズの曲にあわせ無意識に身体を揺らし始める場面。首相官邸内で踊りまくる姿を秘書に見られ、咄嗟にごまかそうとするシーンはカメラワークも秀逸で笑える。
それでいて、最愛の妻の葬儀で気丈にふるまいながらも涙をためるダニエルであったり、マークが紙芝居によってジュリエットへの密かな想いを打ち明けるシーンであったりと何度観てもグッときてしまうような場面が要所要所に組み込まれてあるものだから、こっちとしては感情のコントロールに忙しい。
だからこそ、出演するラジオやテレビ番組でハチャメチャな言動を繰り返すビリーの存在がとても活きてくる。この喜怒哀楽を繋ぎあわせたようなフィルムにとって、ビリーが冒頭のレコーディングのシーンから一貫した"おふざけ"のスタイルで掻き回してくれることが、中心にどっしりと刺さった芯のごとく役目を担っている。そして頭を抱えるマネージャーの心配とは裏腹にクリスマスソングのヒットチャートを駆け上がっていく過程が、まるでブリッジのごとく映画全体を束ねているのだ。
"愛"にはいろいろな形があり、なにも男女間の話だけではない。ビリーを二人三脚で支えてくれたマネージャーとの友情も"愛"であり、母親の死によるショックで部屋にこもってしまった義理の息子サムを心配するダニエルのような家族への"愛"もある。挙げ句の果てに「目玉にヤクを打ってるのかもしれない」なんて飛躍した発想になってしまうのも息子を心配するがゆえ。そんな中、思い切ってサムを連れ出したダニエルが、テムズ川沿いのベンチに腰をかけて「何を悩んでるんだ?ママのことかい?それとも何か別のこと?学校でイジメとか?」と切り出す会話は印象的だ。
「僕・・・恋をしてるんだ。ママのことは悲しいけど、この片思いはママが死ぬ前からなんだ」と打ち明けたサムに対し、思わず安堵から笑ってしまうダニエル。「聞いてホッとしたよ。もっと悪い想像をしてた」「片思いより悪いこと?」真剣な表情でつっかかるサム。そんなもの存在するの?という面持ちで。たしかに子供の世界観は大人のそれと比べて断然に狭い。考えうる悪いことのイメージもレパートリーに乏しいだろう。でも、案外そんなものなのかもしれない。この現実世界において『片思いよりも残酷なこと』は少ないんじゃないかと気づかされたりもする。
そして、この映画を語る上で欠かせないのが劇中での楽曲の使い方であろう。単純に選曲が良いという話だけではなく、9つのストーリーを繋ぐ場面転換としての役割であったり、劇的な場面でドラマチックさを煽る意味合いに於いても素晴らしい効果をあげていると思う。
なかでもクレイグ・アームストロングが作曲した3曲がイイ。マークの撮影したホームビデオを鑑賞しているうちにジュリエットが彼の気持ちに気づいてしまう場面の「Glasgow Love Theme」。ジェイミーが一生懸命勉強したポルトガル語でオーレリアに求婚する場面に使われた「Portugese Love Theme」。そして、サムが空港の警備員をすりぬけてジョアンナに会いにいく場面やデイヴィッドがアメリカ大統領相手に強い姿勢で会見に挑んだ場面でも使用された「PM's Love Theme」。どれも感情の防波堤を壊すのに一役買っている。勿論、我らがビリー・マックの歌い上げる「Christmas Is All Around」やザ・ビーチ・ボーイズ往年の名曲「God Only Knows」などサウンドトラックそのものがクリスマスシーズン必聴の一枚であるのに間違いないのだが。
この冬、ヒースロー空港に行くような時間やお金はないという人は是非ともこの映画を。きっと"この世には愛が満ちあふれているんだ"と気づかせてもらえるはず。
日本での公開は残念ながらクリスマスではなく、翌年のバレンタインシーズン。それもあってか日本におけるこの作品の知名度や興行的には伸び悩んだ感は否めないが、オススメ度は超ド級。ジョアンナちゃんの歌う「恋人たちのクリスマス」やセクシーなサンタコスチューム美女をバックバンドに従えて熱唱するビリーによってクリスマステンション上昇間違いなし。日本でも『Mr. ビーン』としてお馴染みのローワン・アトキンソンが風変わりなジュエリーショップの店員として出演していたり、劇中にも名前が度々でてきていたドイツ人スーパーモデルのクラウディア・シファーが物語後半に登場していたりと遊び心も尽きない。
「秘密を分かち合えない友達なんて、友達と言えるか?」「その通りだ。それが生きてることの価値だ」ブルックリンの街角にある小さなタバコ屋を営むオーギー(ハーヴェイ・カイテル)とその馴染み客で作家のポール(ウィリアム・ハート)。クリスマスを間近に控えたある日、アイディアが浮かばず困っていたポールにオーギーは「昼飯をおごってくれたら」という条件付きで自分のクリスマスに起きた"ある秘密"の話を打ち明ける。1995年に公開されたこの映画は、ジャンルとしてはクリスマスフィルムに属さないのだろうが、オーギーが話すこの風変わりでいて温かいクリスマスの体験談がとても好きだ。まるで自分が向かいの席に座っているかのように引き込まれてしまうハーヴェイ・カイテルによる絶妙な語り口。そして、モノクロで綴られる美しいエンディングが結果的にこの映画を最高のクリスマスフィルムに仕立て上げている。
ビリー・ボブ・ソーントン演じる女好きで酒癖の悪い中年男ウィリー。彼の仕事は昼間はデパートでサンタクロースのアルバイト、夜はクリスマスシーズンを狙った腕利きの金庫破り。ひょんなことから自分になついてしまった肥満少年キッドをはじめのうちは邪険に扱っていたウィリーだが、少しづつ彼の中で何かが変わりはじめる。そして、クリスマス本番が近づき、相棒のマーカス(トニー・コックス)と"夜の仕事"に駆り出すウィリーだが・・・というブラック・コメディ。懐にはウィスキーの小瓶、不適切発言は当たり前。終いには警察とのカーチェイスの末、弾丸を8発も喰らうサンタクロースとあって、決して家族向きのクリスマス映画とは言えません。それでも最終的には観客をほっこりさせ、且つ爽快に幕を閉じてくれるのでご安心あれ。ウィリーサンタからキッドへ贈られた血のついたピンク色のゾウと手紙、そしてメッセージ入りTシャツがなんとも良い。
クリスマスの晩に自殺を図ろうとしたジョージ・ベイリー(ジェームズ・スチュアート)。「生まれてこなきゃ良かった」と嘆く彼の前に、翼を持っていない見習い天使が現れて『自分の人生がどれほど素晴らしいモノだったのか』を気づかせるというストーリー。主演のジェームズ・スチュアートはヒッチコック作品常連で「アメリカの良心」と愛された名優。この作品でも御多分に漏れず、超のつく良い人を演じている。 製作が1946年ということもあり、古い映画というだけで壁を感じてしまう若い人もいるかもしれないが、やはり良い映画は良い。"おにぎりはおむすびだ!"みたくあたりまえの事を言っているが、とにもかくにも良い映画は良いのだ。この先、どんなにCG技術やセットの向上が進んだとしても不変的だと思う。アメリカ映画協会が選ぶ【感動の映画ベスト100】では堂々の1位を記録をした不朽の名作。
フランク・シナトラで有名なクリスマスソングの金字塔「Let It Snow, Let It Snow, Let It Snow」のカヴァーで幕を閉じるこの映画は、主演のブルース・ウィリスを一躍スターダムに押し上げた大ヒットアクション大作である。舞台はクリスマスのロサンゼルス。休暇中のジョン・マクレーン刑事は、ニューヨークから特大のテディ・ベアを抱えて西海岸へとやってくる。日系企業で働く妻ホリー(ボニー・ベデリア)に会うために立ち寄った超高層のナカトミ・ビルで、ハンス(アラン・リックマン)率いるテロリスト集団による強盗襲撃に巻き込まれ、孤軍奮闘するジョン・マクレーン。ボロボロのタンクトップにくわえタバコで機関銃を乱射する姿が、なんとも様になる男。当時、日曜洋画劇場でこの映画が放送された翌日の小学校では、ジョン・マクレーン気取りのおバカな男子が急増したのも理解できる。かく言う自分もそうだった。雪合戦の最中、雪で作った手榴弾に一度キスをしてから「メリー・クリスマスだぜ、ベイビー」なんて敵に投げていたあの頃よ、万歳。
くすぶっていたジェイミーがオーレリアに会うために
突如、ポルトガルへ向かうことを決心した時の台詞だよ。
A man's gotta do what a man's gotta do!
【男には決断の時がある】
さぁ、声に出して発音してごらん。いいよ、その調子だ。Good Job!
"男には決断の時がある" 実にイイ文章だ。
いたいけな女子たちには、ちょっぴり理解されないかもな。
でもさ、男にはバシッと決めなきゃならない時があるんだよ。
それが年に一度のクリスマスときたら尚更、ダロ?
文・イラスト:ゲンダ ヒロタカ 1980年、東京生まれ横浜育ち。専門学校でデザインを学んだ後、単身ロンドンへ留学。その後、映画好きが昂じて映写技師として映画館に勤務、現在はフリーライターとして活動中。