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故郷の山道をひとり歩いていた。
お盆休みで実家に帰省中、
なんとなく山に登りたくなったのだ。
念仏のようなセミの声。
汗と木漏れ日と草いきれ。
少年の頃の遠い記憶が重なる。
甘酸っぱい香りがした。
急な上り坂の真ん中、
目の前に若い女が倒れていた。
白い夏服、小麦色の肌、
そして、赤いハイヒール。
「なんでもないの」
死体ではなかった。
僕の靴音に気づいたのだろう。
「歩き疲れたから休んでいるだけ」
あどけない声だった。
かすかに薄目を開いたが
そのまま力尽きて閉じてしまった。
なんとも美しく、また
なんとも不思議な寝顔だった。
僕はひざまずき、
そっと彼女のハイヒールに触れてみた。
「山道を歩くなら、裸足が一番だよ」
ハイキング
by Tome館長
故郷の山道をひとり歩いていた。
お盆休みで実家に帰省中、
なんとなく山に登りたくなったのだ。
念仏のようなセミの声。
汗と木漏れ日と草いきれ。
少年の頃の遠い記憶が重なる。
甘酸っぱい香りがした。
急な上り坂の真ん中、
目の前に若い女が倒れていた。
白い夏服、小麦色の肌、
そして、赤いハイヒール。
「なんでもないの」
死体ではなかった。
僕の靴音に気づいたのだろう。
「歩き疲れたから休んでいるだけ」
あどけない声だった。
かすかに薄目を開いたが
そのまま力尽きて閉じてしまった。
なんとも美しく、また
なんとも不思議な寝顔だった。
僕はひざまずき、
そっと彼女のハイヒールに触れてみた。
「山道を歩くなら、裸足が一番だよ」
published : 2013/08/25