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晴れたらいいな

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晴れたらいいな

by Tome館長

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    【 小夜ちゃん 】


    明日は、待ちに待った遠足の日。

    小夜ちゃんが楽しそうに歌いながら
    リュックに荷物を詰めています。

    「教科書なんか、一冊もいーらない!」

    もう嬉しくてたまらない様子。

    「お弁当より、お菓子がたーくさん!」


    その時でした。

    突然、リュックの中から何者かが
    小夜ちゃんの手首を強く引いたのです。

    たちまち小夜ちゃんは引き込まれ、
    リュックの底にズドンと落ちてしまいました。

    「うーん。痛いな、もう」

    腰をさすりながら、ブツブツ文句を言います。

    リュックの中は意外と広いのでした。

    中央には真っ白なベッドが置いてあります。

    そのベッドの上には真っ黒な熊がいて
    しきりに小夜ちゃんにお辞儀をしていました。

    「乱暴なことして、ごめん」

    と謝る熊に、小夜ちゃんは尋ねます。

    「あなた、誰?」
    「熊だよ。ぬいぐるみではないよ」

    「こんなところで、なにしてるの?」
    「会いたくて、待ってた」

    「誰に?」
    「君に、小夜ちゃんに」

    「わたしに? どうして?」

    小夜ちゃんにはわけがわかりません。

    熊は、困っているように見えます。

    「明日は遠足だよね?」
    「うん」

    「チューリップ畑に行くんだよね?」
    「うん」

    「そこでね、ぼく、君を食べてしまうんだ」
    「ふーん」

    「小夜ちゃん、食べられてしまうんだよ」

    「そうなの?」
    「そうなんだよ」

    足もとにビスケットの箱が落ちていました。
    それを見て、小夜ちゃんは心配になります。

    (食べられるのは、食べる前かしら?
     それとも、食べられたあとかしら?)


    「わたし、本当に食べられちゃうの?」
    「うん。ぼく、本当に食べてしまうよ」

    「それ、困っちゃうな、わたし」
    「そうだろうね」

    「なんとかならないの?」
    「ダメなんだ。これ、運命だから」

    「そうなの?」
    「そうなんだよ」

    小夜ちゃんはビスケットの箱を蹴りました。

    リュックの中に引き込まれたわけが
    やっとわかったような気がしました。

    「そんなこと、わざわざ教えてくれて
     クマさん、どうもありがとう」

    「いいえ、どういたしまして」

    小夜ちゃんは、急に眠くなってしまい、
    ベッドの上の熊のすぐ横にもぐり込みました。

    ちょっと驚いた表情の熊に
    小夜ちゃんがつぶやきます。

    「クマさん、おやすみなさい」

    なんだか悲しそうな顔で、熊もこたえます。

    「小夜ちゃん、おやすみ」

    毛深い熊のぬくもりを嬉しく感じながらも
    小夜ちゃんは、ふと心配になるのでした。


    (・・・・・・明日の遠足、晴れるかしら?)
     

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    【 小夜ちゃん 】


    明日は、待ちに待った遠足の日。

    小夜ちゃんが楽しそうに歌いながら
    リュックに荷物を詰めています。

    「教科書なんか、一冊もいーらない!」

    もう嬉しくてたまらない様子。

    「お弁当より、お菓子がたーくさん!」


    その時でした。

    突然、リュックの中から何者かが
    小夜ちゃんの手首を強く引いたのです。

    たちまち小夜ちゃんは引き込まれ、
    リュックの底にズドンと落ちてしまいました。

    「うーん。痛いな、もう」

    腰をさすりながら、ブツブツ文句を言います。

    リュックの中は意外と広いのでした。

    中央には真っ白なベッドが置いてあります。

    そのベッドの上には真っ黒な熊がいて
    しきりに小夜ちゃんにお辞儀をしていました。

    「乱暴なことして、ごめん」

    と謝る熊に、小夜ちゃんは尋ねます。

    「あなた、誰?」
    「熊だよ。ぬいぐるみではないよ」

    「こんなところで、なにしてるの?」
    「会いたくて、待ってた」

    「誰に?」
    「君に、小夜ちゃんに」

    「わたしに? どうして?」

    小夜ちゃんにはわけがわかりません。

    熊は、困っているように見えます。

    「明日は遠足だよね?」
    「うん」

    「チューリップ畑に行くんだよね?」
    「うん」

    「そこでね、ぼく、君を食べてしまうんだ」
    「ふーん」

    「小夜ちゃん、食べられてしまうんだよ」

    「そうなの?」
    「そうなんだよ」

    足もとにビスケットの箱が落ちていました。
    それを見て、小夜ちゃんは心配になります。

    (食べられるのは、食べる前かしら?
     それとも、食べられたあとかしら?)


    「わたし、本当に食べられちゃうの?」
    「うん。ぼく、本当に食べてしまうよ」

    「それ、困っちゃうな、わたし」
    「そうだろうね」

    「なんとかならないの?」
    「ダメなんだ。これ、運命だから」

    「そうなの?」
    「そうなんだよ」

    小夜ちゃんはビスケットの箱を蹴りました。

    リュックの中に引き込まれたわけが
    やっとわかったような気がしました。

    「そんなこと、わざわざ教えてくれて
     クマさん、どうもありがとう」

    「いいえ、どういたしまして」

    小夜ちゃんは、急に眠くなってしまい、
    ベッドの上の熊のすぐ横にもぐり込みました。

    ちょっと驚いた表情の熊に
    小夜ちゃんがつぶやきます。

    「クマさん、おやすみなさい」

    なんだか悲しそうな顔で、熊もこたえます。

    「小夜ちゃん、おやすみ」

    毛深い熊のぬくもりを嬉しく感じながらも
    小夜ちゃんは、ふと心配になるのでした。


    (・・・・・・明日の遠足、晴れるかしら?)
     

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published : 2013/07/24

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