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【 波 】
授業中、教室に波が押し寄せてきた。
床はすっかり水浸しになった。
正面の黒板にまで波の飛沫がかかり、
無数の小さな黒い点々がついた。
「じつにけしからん!」
教師はチョークを波に投げつけた。
「ここは浜辺じゃないんだぞ」
教壇はすっかり四角な小島になっていて
彼が怒るのも無理ないな、と思った。
教室のあちこちで悲鳴があがり、
生徒たちは椅子や机の上に避難した。
「どこからやってきたのかしら?」
すぐ隣の席の女子生徒が自問している。
彼女の靴と靴下は両足とも濡れていた。
「ちゃんと扉は閉まっているのに・・・・・・」
窓もみんな閉まっていた。
波が入ってくる隙間はないはずだった。
「みんな、波なんか無視しろ」
教師は授業を続けようとしている。
「こんなの気のせいだ。幻にすぎない」
それでも波は教室に打ち寄せている。
懐かしい潮の香りさえする。
級長でもある男子生徒が手をあげた。
「先生」
「なんだ」
「僕、この波に見覚えがあります」
「なに、本当か」
「はい」
「どこの波なんだ」
「去年、僕が溺れた夏の海です」
その途端、彼は波にさらわれてしまった。
見上げると、カモメが飛んでいる。
もう波の音しか聞こえないのだった。
波の囁き
by Tome館長
【 波 】
授業中、教室に波が押し寄せてきた。
床はすっかり水浸しになった。
正面の黒板にまで波の飛沫がかかり、
無数の小さな黒い点々がついた。
「じつにけしからん!」
教師はチョークを波に投げつけた。
「ここは浜辺じゃないんだぞ」
教壇はすっかり四角な小島になっていて
彼が怒るのも無理ないな、と思った。
教室のあちこちで悲鳴があがり、
生徒たちは椅子や机の上に避難した。
「どこからやってきたのかしら?」
すぐ隣の席の女子生徒が自問している。
彼女の靴と靴下は両足とも濡れていた。
「ちゃんと扉は閉まっているのに・・・・・・」
窓もみんな閉まっていた。
波が入ってくる隙間はないはずだった。
「みんな、波なんか無視しろ」
教師は授業を続けようとしている。
「こんなの気のせいだ。幻にすぎない」
それでも波は教室に打ち寄せている。
懐かしい潮の香りさえする。
級長でもある男子生徒が手をあげた。
「先生」
「なんだ」
「僕、この波に見覚えがあります」
「なに、本当か」
「はい」
「どこの波なんだ」
「去年、僕が溺れた夏の海です」
その途端、彼は波にさらわれてしまった。
見上げると、カモメが飛んでいる。
もう波の音しか聞こえないのだった。
published : 2013/07/10