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巡り会えない

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巡り会えない

by Tome館長

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    koebu.com/topic/%E3%80%90%E7%8...

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    【 彼女のこと 】


    彼女は美人だった。九つ年下だった。
    スタイル良くて、背が高くて、胸は大きかった。

    本物のモデルさんみたいだった。

    聞き飽きてるだろうとは思ったけど
    まるでモデルみたいだね、って言ってやった。


    ちょっとおかしなコだった。
    ううん。すごくおかしなコだった。

    あの日、初回だけ無料のチラシに釣られて
    道楽でやっていた僕の店に来てくれた。

    知人にそそのかされて始めた碁会所。
    囲碁のゲームセンター。

    ただし、将棋もチェスもオセロもできる。
    ハーフサイズのビリヤード台まであるのだった。


    彼女、遊ぶのが好きで、毎日来てくれた。

    お金がなくて、もう来れないと言うから
    君ならタダでいいよ、とあわてて伝えた。

    ホントは、こっちから払ってでも
    お願いしたいくらいだったけど。


    碁を教えてやった。
    あまり上達しなかったけど、諦めなかった。

    オセロもやった。トランプもやった。
    ビリヤードだってやった。

    一緒に飲んだりした。
    彼女は、すぐに酔っ払って眠ってしまう。

    頬を叩いても覚めなかった。
    スキだらけだった。信じられなかった。


    似顔絵を描いてやった。

    マッサージもしてやった。
    そのまま眠ってもやめなかった。

    おもしろくて楽しくて嬉しくて
    やめたくなかったのだ。


    彼女は子どもの頃、お嬢さんで
    ピアノなんか習っていたらしい。

    「エリーゼにために」をシンセサイザーで
    弾いてくれた。上手だった。

    でも、カラオケ屋に行くと
    彼女はわかりやすい音痴だった。


    暑い日、冷麦を作ってきてくれた。
    おいしかった。嬉しかった。

    手の形があまりきれいでなかった。
    それを彼女は気にしてた。


    脚は長いのに、彼女はスカートがきらいで
    破れたGパンばかりはいていた。

    いつか頼んでおいたら
    仕事の帰りにスカート姿で来店してくれた。

    スカートは似合わない、とぼやいてたけど
    たしかに平凡だった。


    パソコンが生きがいだ、って言ってた。
    ケータイがきらいだった。

    彼女は高校を中退して、大検を取っていた。
    意外に、少し人見知りをした。


    彼女とワインの口移しなんかした。
    ふたりとも裸になるまで野球拳をした。

    一緒に市民プールで泳いだ思い出。
    なんと彼女、スクール水着だった。

    七夕には、彼女のクルマに乗り、
    一緒にササを採り、一緒に店に飾った。


    自宅に来てもらったり、
    彼女のアパートに行ったりもした。

    時々、彼女は派遣の仕事をした。
    ラーメン屋の手伝いもした。


    子どもの頃の写真を見せてくれた。
    家族の写真も見せてくれた。

    ある日、大勢で来店してくれて
    妹さんの家族を紹介された。

    どうして? 
    なんだか不思議な気がした。


    キリがないけど、彼女のおかげで
    本当にいろんなことがあった。

    誰にも言えないようなことも
    誰にでも言いたいようなことも。

    楽しかった。本当に楽しかった。
    永遠に続くみたいだった。


    でも、最後には、彼女を悲しませ、
    カレシを怒らせてしまった。

    そう。彼女にはカレシがいた。
    同棲していた。はじめからそうだった。

    はじめから彼女でもなんでもなかった。
    夢を見ていただけだったのだ。


    とりあえず母親の家へ身を寄せる、と
    彼女は小声で言った。

    父親ではない男がいる家。
    彼女が望んだ結末ではなかった。


    電話番号を教えてもらったけど
    もうそこにいるはずもない。

    それに、こちらから彼女に
    電話できるわけがなかった。

    あんなひどいことをしたんだから。
    人格疑われるから誰にも言えないけど。

    でも、悔やんでなんかないけど。


    もう会えないだろうけど
    これだけはぜひ言いたい。

    彼女は本当に美人だった。

    本当に、それこそ本当に
    本物のモデルさんみたいだった。
     

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    【 彼女のこと 】


    彼女は美人だった。九つ年下だった。
    スタイル良くて、背が高くて、胸は大きかった。

    本物のモデルさんみたいだった。

    聞き飽きてるだろうとは思ったけど
    まるでモデルみたいだね、って言ってやった。


    ちょっとおかしなコだった。
    ううん。すごくおかしなコだった。

    あの日、初回だけ無料のチラシに釣られて
    道楽でやっていた僕の店に来てくれた。

    知人にそそのかされて始めた碁会所。
    囲碁のゲームセンター。

    ただし、将棋もチェスもオセロもできる。
    ハーフサイズのビリヤード台まであるのだった。


    彼女、遊ぶのが好きで、毎日来てくれた。

    お金がなくて、もう来れないと言うから
    君ならタダでいいよ、とあわてて伝えた。

    ホントは、こっちから払ってでも
    お願いしたいくらいだったけど。


    碁を教えてやった。
    あまり上達しなかったけど、諦めなかった。

    オセロもやった。トランプもやった。
    ビリヤードだってやった。

    一緒に飲んだりした。
    彼女は、すぐに酔っ払って眠ってしまう。

    頬を叩いても覚めなかった。
    スキだらけだった。信じられなかった。


    似顔絵を描いてやった。

    マッサージもしてやった。
    そのまま眠ってもやめなかった。

    おもしろくて楽しくて嬉しくて
    やめたくなかったのだ。


    彼女は子どもの頃、お嬢さんで
    ピアノなんか習っていたらしい。

    「エリーゼにために」をシンセサイザーで
    弾いてくれた。上手だった。

    でも、カラオケ屋に行くと
    彼女はわかりやすい音痴だった。


    暑い日、冷麦を作ってきてくれた。
    おいしかった。嬉しかった。

    手の形があまりきれいでなかった。
    それを彼女は気にしてた。


    脚は長いのに、彼女はスカートがきらいで
    破れたGパンばかりはいていた。

    いつか頼んでおいたら
    仕事の帰りにスカート姿で来店してくれた。

    スカートは似合わない、とぼやいてたけど
    たしかに平凡だった。


    パソコンが生きがいだ、って言ってた。
    ケータイがきらいだった。

    彼女は高校を中退して、大検を取っていた。
    意外に、少し人見知りをした。


    彼女とワインの口移しなんかした。
    ふたりとも裸になるまで野球拳をした。

    一緒に市民プールで泳いだ思い出。
    なんと彼女、スクール水着だった。

    七夕には、彼女のクルマに乗り、
    一緒にササを採り、一緒に店に飾った。


    自宅に来てもらったり、
    彼女のアパートに行ったりもした。

    時々、彼女は派遣の仕事をした。
    ラーメン屋の手伝いもした。


    子どもの頃の写真を見せてくれた。
    家族の写真も見せてくれた。

    ある日、大勢で来店してくれて
    妹さんの家族を紹介された。

    どうして? 
    なんだか不思議な気がした。


    キリがないけど、彼女のおかげで
    本当にいろんなことがあった。

    誰にも言えないようなことも
    誰にでも言いたいようなことも。

    楽しかった。本当に楽しかった。
    永遠に続くみたいだった。


    でも、最後には、彼女を悲しませ、
    カレシを怒らせてしまった。

    そう。彼女にはカレシがいた。
    同棲していた。はじめからそうだった。

    はじめから彼女でもなんでもなかった。
    夢を見ていただけだったのだ。


    とりあえず母親の家へ身を寄せる、と
    彼女は小声で言った。

    父親ではない男がいる家。
    彼女が望んだ結末ではなかった。


    電話番号を教えてもらったけど
    もうそこにいるはずもない。

    それに、こちらから彼女に
    電話できるわけがなかった。

    あんなひどいことをしたんだから。
    人格疑われるから誰にも言えないけど。

    でも、悔やんでなんかないけど。


    もう会えないだろうけど
    これだけはぜひ言いたい。

    彼女は本当に美人だった。

    本当に、それこそ本当に
    本物のモデルさんみたいだった。
     

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published : 2013/01/31

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