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  • 元に戻らない

    壊れてしまった女の子の部品を集めて
    記憶を頼りにもう一度組み立ててみた。


    「名前は?」
    「あたし、リカちゃん」

    「好きな食べ物は?」
    「ワンセグケータイのムニエルよ」

    「得意科目は?」
    「学校は好きよ。でも、教室はきらい」

    「趣味は?」
    「あら、知らない人に教えてはいけないわ」

    「まさか、おれを忘れたのか?」
    「あら、あなたもリカちゃん?」


    元に戻ってはいないけど

    もともと変な子だったから
    まあこんなものかな。
     

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  • 誕生日のキャンドル

    誕生日(正確には前日)に
    ケーキをもらった。


    先にあげた誕生日プレゼントの
    お返しではあるけれど

    考えてみると
    誕生日にケーキをもらった記憶がない。


    なにしろ子どもの頃は
    誕生日を祝う習慣がなかったし、

    誕生日を祝ってくれる親しい人も
    いないわけではなかったけれど

    タイミングが悪かったり
    ケーキではなかったり・・・


    それはともかく

    職場の食堂でもらったのだけれど
    ナイフもスプーンも見当たらず、

    仕方なく割り箸で食べた。


    キャンドルも付いていたけど
    さすがに周囲の目が恥ずかしく

    自宅で点けるから
    と約束をした。


    そして誕生日の今日、

    休み明けに問われて
    嘘を貫き通す自信もないので

    自宅にてキャンドルを灯した。


    せっかくだからムードを出そうと
    室内の照明は消した。

    ただし面倒臭いので
    パソコンのバックライトはそのまま。


    マッチもライターも持ってないので
    火はガスレンジを点火して移した。


    もうケーキは食べたから
    どこにもなくて

    キャンドルは左手の指で挟んで支持。

    太いキャンドルは十の桁、
    細いキャンドルは一の桁とのこと。


    こんなツギハギだらけの
    しまりのないバースデーだけど

    誕生日のキャンドルライトは
    とてもきれいだった。

    とってもとっても
    とってもきれいだった。


    このことは休み明けに
    ぜひ彼女に伝えてやろう。
     

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    • Tome館長

      2013/12/02 21:39

      「広報まいさか」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/11/29 20:23

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • お花畑に咲く

    お花畑に女の子が咲いていた。


    「きみ、きれいだね」
    と、ぼくが褒めると

    「べつに」
    と、女の子。

    ちょっと高慢な品種らしい。


    「そりゃまあ、まわりはきれいな花ばっかりで
     特別きみがきれいというわけじゃないけどさ」

    ぼくが憎まれ口をたたいても

    「おあいにくさま」
    つれない返事。


    (こんな女の子は摘んじゃえ!)
    と思ったけど

    摘み方がよくわからないし・・・
    なんだかすごく抵抗されそうだし・・・


    くやしいけど
    ぼくは写真だけ撮って

    お花畑をあとにしたのだった。
     

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  • 少年たち

     草原を走る裸の少年たち。
     追い迫るは馬上の貴婦人。


    「どうしよう」
    「どうする?」

    「隠れようか?」
    「そんな場所ないよ」

    「見つかったら、どうする?」
    「踊って見せようか? 小鹿のように」

    「ぼくたち、小鹿じゃないよ」
    「残念ながら」

    「鉄砲かついだ猟師も一緒だ」
    「撃たれちゃう」

    「とにかく逃げよう」
    「捕まるよ。きっと殺される」

    「この先、罠が仕掛けてあるかも」
    「罠はきらいだ。痛いもん」

    「いっそ、わざと捕まってみようか」
    「抵抗せずに?」

    「歓迎するみたいに」
    「なるほどね」

    「そうだ、そうしよう」
    「どうせ逃げられやしないんだからね」
     

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  • 子どもの言い分

    ぼくが親を選んだわけではないし、
    ぼくが国を選べたはずもない。

    だからぼくは

    知らない人たちを親として
    知らない国に生まれてきたわけだ。


    最初は

    幼くて弱くて悪くて
    なんにもできなくて

    助けてもらわないことには
    生き続けることさえできなかった。


    大人たちは
    比較的長く生きているから

    いろんなことに自信たっぷりで
    いろんなことをぼくに命令した。


    ぼくが決めてもいないルールを
    ぼくに守らせようと強いるだけでなく、

    ぼくが疑っているのに
    疑うのはいけない

    とさえ言うのだ。


    知らないうちに
    ぼくは子どもでなくなり、

    子どもでないゆえに
    ぼくは大人になってしまったわけだけど

    ぼくが決めてもいない
    納得してもいないルールなんか

    たとえ従うしかないとしても

    ぼくは
    死んでも認めないからね。
     

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  • 星に願いを

    ねえ、神様。


    もしも
    巨大な流れ星が

    もの凄いスピードで

    まっすぐ自分に向かって
    落ちてくるのを

    たった今
    気づいたとしたとしたら

    「ここに落ちないで
     途中で消えてください」

    という
    願い事を

    しかも三回も
    唱えられるものでしょうか?
     

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    • Tome館長

      2013/10/30 02:31

      「広報まいさか」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/10/29 16:22

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 罪悪感

    皿の上に饅頭が二個のっていた。

    それは兄と僕、
    僕たち兄弟のオヤツだった。

    兄はまだ帰宅してなかった。
    家に僕ひとり。


    僕は、僕の分の一個を食べた。
    すごくおいしかった。

    腹が空いていたのだろう。
    とにかくおいしかった。

    だから、当然ながら
    もう一個の饅頭も食べたくなった。

    でも、それは兄の分だ。
    僕の分じゃない。

    二個とも食べてしまったら
    絶対に母に怒られる。

    兄だって怒るに違いない。
    それはわかっている。

    でも、どうしても食べたかった。
    食べたくて仕方なかった。

    我慢できない。
    食べたい。


    それで、食べてしまった。
    皿の上の饅頭、二個とも。


    知らんぷりして誤魔化そうとして
    誤魔化したつもりになって

    もしかしたら
    まんまと誤魔化せたのかもしれない。

    なぜなら
    その後の記憶が欠落しているから。


    あるいは
    良心を誤魔化しただけかもしれないけれど。
     

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  • 刑 事

    ドアを開けると、そこに刑事がいた。

    彼は私の名前を確認すると
    ミイラの猿の手を差し出した。

    それは私の大切な宝物だった。

    なぜか紛失してしまい、
    捜していたのだ。


    「これ、どこにあったんですか?」
    私は刑事に尋ねた。

    「・・・殺人現場」
    愛想のない刑事である。
     

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  • 絵のない絵葉書

    君は南方の隣町から帰る途中、
    天国まで届きそうな長い橋を渡っている。

    水彩絵の具をぶちまけたような夕焼けが
    君の左手、西方の空に展開されている。


    君の視界は
    横長の絵葉書。


    君の意識は
    夕日の中心から橋の欄干へ垂線を下し、

    川岸との交点から始まる無数の線分を引く。

    それら線分は川面に乱反射して
    音を立ててキラキラ輝く。


    川下にあるはずの海を
    高架道路が邪魔しているため

    むしろ川上こそ海に近そうな印象を与える。


    車道にはバスやトラック、
    歩道には女学生と警察官の姿。

    自転車が君を追い越してゆくかもしれない。


    君の影法師は蛭のように伸びて
    橋の横幅より長くなり、

    やがて絵葉書の端から
    はみ出してしまうだろう。


    見えるか見えないか
    僕にはわからないけど

    こんなふうな絵のない絵葉書を
    今、君に送ろう。
     

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    • Tome館長

      2013/10/22 12:08

      「Spring♪」武川鈴子さんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/10/18 22:24

      「広報まいさか」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/10/18 22:20

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2013/10/18 14:09

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • 異国で迷子

    わき道に入ったら迷子になった。

    近道のつもりが遠まわりになり、
    角を曲がるたびに道幅が狭くなるのだった。


    見慣れぬ光景が次々と目に入る。

    カエルの干物を売る店、
    カメの甲羅を頭で割る男、

    飾り窓から尻を突き出す厚化粧な女。


    見知らぬ異国の街なので
    まったく言葉が通じない。

    身振り手振りで話しかけたら
    なぜか怒られ、殴られてしまった。

    それで、しゃがんで泣いていたら
    変なところで猫が鳴く。

    声のする方を見上げると
    通路の壁に首まで猫が埋まっていた。


    頭を撫でようと手を伸ばしたら
    その指を思いっ切り噛まれた。

    壁猫は指を噛んだまま放さない。

    それで困っていたら
    通りすがりの洗濯女がナイフを貸してくれた。


    さて、どうしよう?

    ここは
    ちょっと迷うところだ。

    首を切るべきか、
    指を切るべきか。
     

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