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    Works 225
  • くろのいし13/13

    2011/06/05

    maro絵本

    ...朝?...夢?気がつくと僕はベッドの上にいた。

    「ニャア。」
    ふりむくと僕の横でネコのタロウが笑った気がした。
    「まさか...ね。...やっぱり夢だったんだよね。」
    僕は起きあがった。

    カターン。
    僕のポケットから何か落ちた。
    床を見ると、 あの黒いカタマリが落ちていた。

    「...夢じゃない!?」




    いつもの朝、いつもの道、変わらない...だけど、 自分の足、自分の心を信じて進んでいく。 今度は羊たちの力をかりず、自信を持って、 自分で選んでいこうと思うんだ。

  • くろのいし12/13

    2011/06/05

    maro絵本

    と、言い終わるかどうかのところで、カツンカツンと 階段を下りる 誰かの足音が聞こえてきた。
    だんだん近づいてくる。
    しばらくすると、 薄暗がりの中、かすかに人影が見えた。
    彼は、下を向き、トボトボと歩いてくる。
    僕の顔をチラリとも見ずに、 彼は僕の方に向かって歩いてくる。
    そして、彼が僕の横をすれ違っていく瞬間、 僕は彼の顔を見た。


    「僕の顔!?...あれは...僕?!」


    ネコは僕の方をまっすぐ向いて、うなづきながら言った。

    「オレね、お前がウジウジ悩んでるのって、 ホント嫌いだったんだ。
    なんも前に進まねえし、いいことだけポジティブに 考えてりゃいいのにって思ってたよ。
    でもな、それはあくまでオレのやり方で、
    お前は悩んで悩んで何かを見つけていくヤツなんだ って最近わかったんだ。

    ただな、お前はすぐ、 自分が決めたやり方を間違ってんじゃないか、
    失敗じゃないか、逃げてるだけなんじゃないかって 思ってるみたいだけどよ、
    立ち止まろうが、 来た道引き返そうが、時間は前に進んでんじゃん。
    今のままなんてことはねーよ。

    逃げることもそうだ。お前逃げるときだって、 ちゃんと前向いて走るだろ?
    まさか後ろ向きに走ったりしないだろ?
    ちゃんと前に進んでるんだよ。

    お前の目的は、すぐそこにある現実じゃなく、 もっと先にあるんだ。
    こんなとこで油売ってる 暇なんてねえんだ。
    堂々と走ればいいさ。

    それがたとえ間違った道で、遠回りになったとしても、
    お前にとって必要な寄り道かもしれないだろ?
    それに、いろんなこと経験している方が、 後々何かと役に立つと思うぜ。
    後悔する必要なんて ねえんだ。

    いくら周りがなんと言おうと、 今までお前はお前の中で一番正しいと思うことを
    してきたはずなんだ。
    それはたとえ他の人にとって 間違いだとしても、
    お前の中では他の何よりも 正しいことなんだから、そろそろ自信もとうぜ。

    お前の体ん中にある階段の壁が、 どんなにきれいかオレは知ってるんだから...。」

  • くろのいし11/13

    2011/06/05

    maro絵本

    僕が聞くと、猫は答えた。

    「これは、誰もが持っている悲しみや不安みたいな 気持ちが固まったものさ。
    時間がたって、 悩めば悩むほどこのカタマリは増えていくんだ。
    個人差はあるみたいだけどな。

    オレはいろんなやつの壁を見てきたけどよ、
    人によっては、この黒い壁を全部はがして、 階段の壁中そうじしてまわるやつもいる。
    この壁をいっさい見ないようにして、 ずっとそのまんまにしとくやつもいる。
    あんまりほっとくもんだから、 クモの巣がたくさんかかっちゃってるやつもいるよ。
    ただ、ここのやつは変わってるよ。」

    猫はそういうと、こっちを向いてニャアと笑った。

    僕はたずねた。
    「ここを管理してる人はどんな人なの?」

    猫は言った。
    「いつもは上からおりてくるよ。
    そいつはいつも暗い顔してブツブツ いいながら下におりていくんだ。
    それもかなり深いとこまで。
    オレは何度かヤツについておりてみたことが あるんだけどよ、
    アイツはいつもオレの顔を チラリとも見ないで、一直線におりていきやがる。

    アイツはちょうどこの先の階段に座り込んで、
    この壁のカタマリ一つ一つをさわり、悩み続けるんだ。
    そうやってさわり続けているうちにアイツは真っ黒に なる。
    カタマリの黒い汚れがうつっちまうんだろうな。
    そして、その代わりにこのカタマリどもが、 こんな風に光りだすんだ。
    誰に見られるわけでもないのにな。

    アイツ自身、 このことに気づいているのかどうなのか...。
    でもホントスゲェよ。
    このキラキラした壁がずっとしたまで 続いてるんだからな。
    今日はこねえのかな?
    アイツはな、よくもまあ、飽きもせずに この階段を下りてくるんだぜ。」

  • くろのいし10/13

    2011/06/05

    maro絵本

    僕は声のする方を見た。
    そのとき、 ギョロっとした2つの目がこっちを見た。

    「わっ!」

    僕はびっくりした拍子に壁にぶつかった。
    「おい、気をつけろよ!壁がくずれちまうだろ!」
    「ごめん、見えなかったんだ。」
    僕がそういうと、
    「しょうがないなあ...。」
    と、 聞こえたかと思うと、あたりが少し明るくなった。


    声のした方を見てみると、目の光った1匹の猫がいた。
    「君、目が光るのかい?」
    そう僕がたずねると、 猫は答えた。
    「オレ一人なら、こんなことしなくても 見えるんだけどな。」
    僕はネコに丁寧にお礼をいってから、 たずねた。
    「君よくここに来るの?」
    猫は答えた。
    「ちょくちょくな。オレは暗いところが好きなんだ。
    それよりお前、この壁見えるか?」
    僕は顔を上げ、周りを見渡すと、 黒いカタマリだと思っていたものが、
    重々しい、でも美しい宝石のように静かに輝いていた。

    「すごい。これは一体?」

  • くろのいし9/13

    2011/06/05

    maro絵本

    ...気がつくと僕は黒い階段の上にいた。
    周りの壁を 見ると、一面にあの黒いカタマリが、
    隙間なくびっしりとくっついていた。
    階段は上にも下にも続いており、
    僕は下におりてみる事にした。
    どんどん...深く深く...暗闇が増し、
    ほとんど周りが見えない。

    突然、僕は何か柔らかいものにぶつかった。

    「おい、気をつけろよ。」

    「誰?」

  • くろのいし8/13

    2011/06/05

    maro絵本

    ずいぶん走っただろうか。
    しばらくすると、 景色がひらけた。

    そこには小さな湖があった。
    これはもしかして、さっき見たような、
    人が溶けてできた湖だろうか?
    湖の水はとても透きとおっていた。

    僕は気になっていた。
    僕の口から何度か出てきた黒いカタマリ。
    イヌのウェイトレスはこのカタマリを
    トンカチで壊していたが...。
    僕は大きな口を開けて、この湖をのぞきこんだ。
    「のどが変なのかなぁ。」

    さらに湖に顔を近づけ、 口の中をのぞき込むと、
    僕ののどの奥に、 黒い階段が続いていた。

    「なんだこれは?」

    この先には一体何があるんだろう。
    ...と、さらに湖に顔を近づけ、 階段の先を見ようとした。

  • くろのいし7/13

    2011/06/05

    maro絵本

    そして、何気なくイヌのウェイトレスの方を見た。
    彼女はクルクルとよく動いていた。
    しばらく、ぼんやりと見ていると、彼女の横に、
    あの黒いカタマリがびっしりと入った バケツが置いてあることに気がついた。

    よく見ると、彼女は時間を見つけては、 その黒いカタマリを1つ1つトンカチで壊していた。
    ふいに彼女は顔を上げた。
    どうやら僕が彼女を見ていることに気がついたようだ。
    「私、いつもこうしているの。」
    と僕の方を見ながらそう言い、ニコリと笑った。


    「そうそう、あなた。
    あのキツネさん...全然悪い人 じゃないんだけどね、
    さっきあなたのこと 落ちこぼれだってみんなに話をしていたわよ。」

    「もちろん私は、きっとあなたはそんな人じゃないって いったんだけどね。
    まあ、気にしないことね。フフフ。」

    気がつくと僕は飛び出していた。
    とても気分が悪い。
    「ペッ。」
    また僕の口から黒いカタマリが出てきた。

    それでも僕は走り続けた。
    もう何も聞きたくなかった。

  • くろのいし6/13

    2011/06/05

    maro絵本

    「あー、見えてきた見えてきた。あそこですよ。
    もうみんな集まってるみたいですねえ。」

    そこには、キチンとした洋服を着た、 ネズミとイタチがいた。
    きつねはよいしょと腰を下ろし、懐からメガネを とりだし、メニューをながめはじめた。
    しかし、すぐにメニューをとじ、ウェイターに
    「いつもの4つ。」と言い放ち、
    ネズミとイタチに向かって話しはじめた。

    「あんたはよーやってますぜ。
    でも、あそこにいる ウェイトレスときたら、なーんにもできやしない。
    あいつはもともとやる気ってのがないんですね。
    ここのシェフもみんな言ってますよ。
    私もちょっとした店で、たくさんの人をやとってる 身ですからね、あれは本当に使えませんよ。

    私が若い頃なんて、こんな甘いもんじゃなかった。
    私は人よりよっぽど出来が悪かったんですよ。 でも今では...。」

    イタチもネズミもウンウンと うなずいている。
    僕は、隣に座っていたネズミに そっと
    「誰のことを言っているの?」と聞くと、
    「あいつだよ。あのイヌのウェイトレス。 ほんっとに役にたたねぇなあ。」
    と、指をさしながら答えた。

    すると、一生懸命働いているイヌのウェイトレスがいた。
    キツネはまだあのウェイトレスの話を続けている。
    僕は気分が悪くなり、せきこんだ。

    ゲホ...ゲホゲホ......ペッ。
    黒いカタマリが口から出てきた。

    「何だこれは。」
    僕はそのカタマリを急いでポケットに入れ、 席を立った。

  • くろのいし5/13

    2011/06/05

    maro絵本

    「この辺にある湖はすべてこのように人が溶けて
    できているんです。」
    きつねは言った。
    「でもまあ、彼女達はもうかげも形もありません。
    私はねえ、生まれてから何にも残すこともなく、
    あっという間に消えてしまうような、
    そんな人生は送りたくありませんねえ。」

    きつねは吐き捨てるように言うと、
    「さ、そろそろ行きましょうか。」
    と何もなかったように歩き始めた。

    僕は少し嫌な気持ちになった。
    でも、「へえ。」と、作り笑いをした。

    ゲホッゲホッ。
    僕は少しせきこんだ。

  • くろのいし4/13

    2011/06/05

    maro絵本

    僕が聞くと、彼女は少し微笑んでから、こう言った。

    「私はもうじき消えてしまうの。
    それははじめから決まっていたこと。しかたないの。
    でも、消えてしまう今になって、
    この世界がどんなにすばらしいか感じられるように なったわ。
    太陽や、風・雲・月...キラキラしてまぶしいの。
    私は消えてしまうけれど、この世界はずっと続いて ゆくのね。
    ずっとずっと見ていたい...。

    でも、きっと終わりが近づいた今だからこそ、
    本当に美しいと感じられるのだわ。
    そんな光の一つ一つに気がつけた私は幸せ。
    私、生まれてきてよかった。
    でも私、何も残さず消えてしまうの。
    悲しいの...悲しいわ...。」

    この人はなんてきれいなんだろう。僕は思った。
    彼女の涙もキラキラと揺れている。
    彼女は悲しみも幸せも、両方受け止めて、
    もうじきこの湖になってゆく。

    僕はもう彼女に声をかけることはできなかった。
    ...彼女が消えてしまうまで、ずっと目が離せなかった。
    僕はこの世の中で、とても小さな、でも何よりも尊い、
    そんなものを見た気がした。

    僕は湖をのぞき込んだ。
    湖は、底が見えそうなくらい澄みきっていて、
    その水面には、僕の顔がゆらゆらとうつっていた。

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